非住宅木造建築に特化、設計施工一貫体制で臨む
地場の木造建築工務店から、今や設計施工一貫体制で事業に取り組むADX(福島県二本松市)。三代目となる安齋好太郎代表取締役は何度かの転機に直面するなか、独自の世界観を磨き上げ、異彩を放つ設計施工集団に昇華していった。
地場工務店としての出自を自らの強みとしつつも、その殻を軽々と突破し、設計から施工まですべてを担うことができる異能者集団を作り上げた。施工力に対する絶対的な自信が設計と見事に融合したといえよう。難しい局面に立つ多くの工務店がADXのような動き方をするのは決して容易ではないが、学ぶべきことは多いと思う。安齋氏に聞いた。
森と生きる
ADXのフィロソフィーは「森と生きる」。
「ADXとは、本社を構える福島県にある安達太良山(ADATARA-YAMA)の略だ。理念は森と生きる。私たちの建築は、森との持続可能な相互作用を持った装置である。吹く風を阻まず。流れる川を堰き止めず。鎮座する岩石を破壊せず。動植物を踏みにじらず。土壌に適した素性の確かな木を使い、自らの手で物をつくる。伐倒した山には新たな木々を植え、バランスよく森が循環するサイクルを促す。
私たちにとってこの仕組みこそが建築の土台であり、建造物の完成はひとつの通過点に過ぎない。木が育ってきた長い時間軸上に、設計、施工、運用、さらには修繕や解体までをも含む未来のプロットを打ち込んでいく。私たちの設計とは、人と森が共存する時間の再構築であり、意匠が先行することはありえない。常に自然と建築との調和を優先しながら、人々が森で呼吸する喜びを、地球の美しさを感じるための場所をつくる。最新のテクノロジーを取り入れ、ときに自ら発明する。すべては、母なる森と生きることを決めたADXの終わらない挑戦である」(安齋氏)。
実に見事な覚悟といえよう。
徹底したフルユニットシステム
ADXの木造建築物施工は工場での徹底したユニット化が最大の特徴だ。加工拠点の一つが、福島県郡山地区木材木工工業団地協同組合内の木造軸組建築のユニット組立工場で、現在、リゾート施設向けユニットを量産している。このリゾート施設向けでは6タイプのユニットが製造され、それぞれのユニットを設置現場に移送しラフタークレーンを使って組み合わせ施工する。当然ながら現場工期は極めて速い。郡山工場で年間60棟、他の拠点と合計で年間110棟の組立能力がある。施工に関する現場管理は社員5人で回しているが、製材、プレカット、木工、住設、構造設計など協力会社は160社にのぼる。
工場で組み立てられるユニットの部材構成は次の通りだ。
建物は施工現場地面への環境負荷を最小とするため、杭基礎工法による高床式となる。このため床ユニット(土台は桧KD材、大引きは杉KD材)はかなり強固に設計されている。土台と大引きは梁受用金物(テックワン)を転用して接合、さらに土台外縁部は鉄板で補強される。
柱材は杉KD材、梁材は桧構造用集成材を標準仕様とする。豪雪地域での設置を考慮して積雪荷重は1.5mモデル、3.5mモデルを設計している。1棟当たりの木材使用量は25立方メートルにのぼり、国産材比率は98%。ADXの基本的な考え方は建築物に占める木材比率を40%と定めて設計している。
ユニットはスケルトン完成後、断熱材(ネオマフォーム)、透湿シート(ドイツのソリテックス)、大型木製サッシ(日本の窓)、各種造作・建具、杉赤身外装材(飫肥杉)、配線・配管設備、照明、エアコン、ユニットバス、洗面台など、ほぼすべての設備を工場で組み込んだフルユニットで施工現場に出荷する。天井や内装壁面造作には構造用パーティクルボードを現しで用いる。ユニークだが違和感はない。
工場組立を徹底する。その目的の第一は品質、供給、価格の安定だが、同時に現場施工の圧倒的な省力化と施工品質の確保にある。特に設置場所の多くが自然の過酷な地域にあり、施工を担う建築大工等の職人の働き方も重視している。はじめのころは建築大工に依頼しても過酷な現場のため引き受け手がおらず、それならとADXの若手工務部隊が合宿して施工検証し、実測工期を職人にフィードバックしたこともあった。
現場管理向上の一環としてログビルド(横浜市)の定点カメラ現場監理システムを導入し、関係者がリモートで最新の現場情報を共有できる仕組みも導入している。
同社では2027年度をめどに20億円規模の設備投資を行い、年間300棟規模のユニット組立工場を建設する。最新のロボテクス技術を導入し、多品種少量製造で木造建築物ユニットを24時間稼働で製造していく計画だ。あわせてアッセンブル拠点(1300坪)、1000坪規模の在庫ヤードを3~4カ所開設していく計画も進めている。さらに30年までにはマレーシア、ニュージーランドを皮切りに海外進出も視野に入れる。
「2050年には海外10カ所の拠点、世界の経済林400万ヘクタール弱を活用していくことを構想している。このスケール感をカーボンオフセットとリンクさせマネタイズの面でもポイントにしていけると考えている。並行して社有林の確保も計画している」(同)。
ルーツは三代続く工務店
安齋氏(47歳)は3代目となる。祖父が創業、父が2代目。祖父の代には安達太良山の山小屋「くろがね小屋」も施工している。祖父が二本松市で中堅工務店の安齋建設工業を興し、父の代に住宅建築から各種土木事業、公共建設事業にも参画、総合建設業へと業容を拡大させていったが、「ごく普通の地域工務店の拡大路線だった」(同)。
ただ、会社は90年代の景気低迷で公共工事受注が減少、巻き返しを目指し自前で取り組んだモデルハウスも失敗に終わった。さらに工学部で建築を学び社会人経験を経て家業に戻ろうとした矢先、父親が急逝、23歳の若さでいきなり社長に就任した。
「社長就任時、億の単位で借金があり、仕事になることなら何でもやった。網戸張替え、ガードレール設置、3年間毎日ポスティングも行った。当時の1日の行動を振り返ると、朝5時からポスティング、7時に朝飯、7時半から夜8時まで業務、夕飯の後、夜10時から12時まで建築の勉強。ルーティン化していたので苦痛は感じなかったが、がむしゃらに働いて20代で何とか借金を完済し、30歳ではじめて給料をもらったことはよく覚えている」(同)。
最初の転機は自分が設計した住宅を自分で建築することだった。手始めに弟の家を施工し内覧会をしたところ、2日間で150人もの来場者となり、きちんとしたものを設計施工すれば人は来てくれることが分かったという。ただ、自分の考える住宅を施工したいとの思いは古い社員に全く受け入れてもらえず、従業員全員が会社を辞めてしまった。
「ショックな出来事だったが、これで自分がやりたいことをできると考え、気は楽になった。そこから、本当に自分に共感してくれる人材に集まってもらい、今に通じる自分のチームが立ち上がった。社名もライフスタイル工房に変更した」(同)。
35歳で新たな転機が訪れる。会社を経営しながら、造船を母体としつつ街づくりに取り組む東京の企業に出向した。この会社は若手建築家が世に出る登竜門ともいわれ、様々な建築コンペに応募、採択されプロジェクトを回せるようになったという。
「これまでのように二本松で仕事をしていたのでは会うことのできない建築家、ゼネコン、投資家などと話すことができた。出向先は解散したが、この時の体験がその後の事業に大きく影響している」(同)。
SANUとの出会い
その頃も住宅をメーンとした設計施工が主力で、多い年だと年間12~13棟を手掛けたが、本当に住宅でいいのか思い悩み、とりあえず2年間、住宅建築をやめる決断をした。最終的に新設住宅建築からは完全に撤退している。
「生涯年収の30~40%を必要とするにもかかわらず木造住宅の寿命は短く、本当に住宅をやり続けていいのか疑問を感じていた」(同)時で、非住宅木造建築が脚光を浴び始めたことも影響して、木造の建築技術を非住宅分野で発揮できないかということを考えた。
その頃、設立されたばかりのリゾート施設運営事業会社であるSANU(東京都目黒区)と出会い、注文書ももらっていないのに、何度も何度も半ば押し売りのように設計図と施工に関するアイデアをSANUに持参し何とか採用してもらった。自然と共に生きるというSANUの理念に共感したこと、祖父が建築した「くろがね小屋」のような自然に育てられたパブリックな建築をやりたいと思ったことも大きかった。社名も現在のADXに変更した。今ではSANUの最も重要な建築パートナーだ。
木の建築は面白い
「森と生きる。これが私たちの哲学であり、ブランドである。SANU向けではBEE、MOSSブランドを展開しているが、このほど大自然で過ごす喜びをより安全・快適に、より多くの人々に提供することを使命とした新たな建築プラットフォームEARTH WALKERを発表した。EARTH WALKERは世界をフィールドに木造建築を提案することを目指している。
木の建築は本当に面白い。そしてやり方次第では早く完成する。私たちは木材使用材積を建物の40%以上使用することを原則としている。率先して国産材人工林を活用することで森林資源の循環に寄与していきたい」(同)。
ADXが独自開発した森林地域のアセスメント「森のカルテ事業」もこうした考え方の一環で、森を立体的に解析する。森は森林だけでなく、土壌、水、多様な生物、大気などの自然によって形成されおり、これを3D測量データや土中、水中から採取される生物由来のDNAを調査・分析し、森林地域が持つ多面的な価値を統合的に可視化評価している。ADXが考える「森と生きる」とは、ここまでやりきることを意味する。
SANUを主力に、非住宅木造建築の設計施工を精力的にこなし、受賞歴も多い。SANU CABINは世界3大デザイン賞であるiF DESIGN AWARD 2024、アジアを代表するデザインアワード「第31回 Asia Pacific Interior Design Awards」審査員特別賞を受賞した。
また、日本初の木造ハイブリット・都市型高層建築「KITOKI」ではteam Timberizeの「T-1グランプリ2022」、東京都主催の「ウッドシティTOKYO モデル建築賞」最優秀賞(知事賞)を受賞した。
現在もSANUをはじめ、複数の木造施設の設計施工を計画しており、これからも話題を集めそうだ。ただ、明らかなことは、ADXにしても、すべてはゼロからスタートして今があるということだ。直近の年商は24億円。設計施工ともに業務が急拡大しており、協業者、人材の拡充も喫緊の課題だ。「設計施工双方でやる気のある人材を求めている。いつでも話を聞く準備はある」(同)。
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