先日、「建築の大転換」というタイトルのイベントで基調講演をした建築家ペーター・ライナー(Peter Rainer)氏が、「新築は禁止だ!」という挑発的な言葉を発した。彼はしかし、新築を法律で禁止する、という提案をしたのではない。新築が選択肢から外されたら、既存の建物をいかに増改築するか創意工夫が生まれるだろう―というメッセージだった。
ライナー氏は長年、古建築の修復・改修分野の建築設計士として活躍している。おのずとその分野を応援する発言が出るのは理解できる。しかしそのような声は彼だけではない。各地の建築家業界団体が近年、「新築の前に既存の建物を!」を合言葉に、社会的なアピールや具体的な政策提言を行っている。
主な理由は気候変動対策である。ドイツでは、建築は大きなCO2の排出源。建物の新築・増改築・居住・活用におけるCO2の排出は、全体の40%を占めている。ドイツの人口約8400万人に対し既存の住宅は約4300万戸、非住宅は約2100万棟ある。2050年までに気候ニュートラルというドイツ連邦政府の目標を達成するためには、既存の建物のエネルギー改修を、毎年2%以上行わなければならない。現状はしかし1%足らずである。
一方、住宅の新築戸数は2014年来増えていて、現在30万戸のレベルにある。建材や機械設備の製造や輸送に必要とされる、いわゆる「グレーエネルギー」で見ると、新築は、改修のおよそ1.5倍のCO2を排出する(ドイツ環境支援協会Deutsche Umwelt Hilfe e.V.の試算)。現代建築で多く使用されるコンクリートや石レンガ、グラスウールやロックウールといった断熱材は、とりわけグレーエネルギーが高い。
大きな課題と解決のポテンシャルは、空き住居にある。ドイツ連邦建設・都市-地域計画局(BBSR)の統計によれば、2022年5月の時点で・・・
この記事は新建ハウジング10月30日号10面(2024年10月30日発行)に掲載しています。
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