減ったとは言え年間70~80万戸も新築住宅がつくられている国、日本。住宅産業もその現状に引きずられ続けている。一方で人々の生活はここ数年で大きく様変わりし、既存の産業を大きく超えるものになりつつある。“箱”の産業から“場”の産業への変遷を分析し続ける・松村秀一さんに話を伺った。前編となる本記事では、松村先生が提唱してきた「場の産業」について聞いた。(聞き手=新建ハウジング発行人・三浦祐成)
松村秀一 神戸芸術工科大学学長 |
神戸芸術工科大学学長。専門は建築構法・建築生産。主な著書に「新・建築職人論-オープンなものづくりコミュニティ」(学芸出版社)「空き家を活かす-空間資源大国ニッポンの知恵」(朝日新書)、「ひらかれる建築-『民主化』の作法」(ちくま新書)、「建築-新しい仕事のかたち 箱の産業から場の産業へ」(彰国社)、「箱の産業」(彰国社)、「『住宅』という考え方」(東京大学出版会)など。 |
三浦 “箱”の産業はどんどん縮小し、この3年で新築着工は3割も減りました。改めて、松村先生は住宅産業の今をどう捉えていますか。
松村 昔から改修や再生の話題もあったとはいえ、住宅産業はあくまで新築中心の産業でした。補助金や税制優遇も新築中心で、政府も政治家も、新築をつくる産業が日本経済にとって大変重要だと認識しているのでしょう。新築は絶対に減ると言われ続けているのに、マインドは相変わらず新築中心のままです。
しかし、同じ技術的な背景のもと、同じような消費者が常に現れ、同じように仕事を続けられる―このような産業のあり方には当然寿命がある、と考えるべきでしょう。“住宅産業は30年で終わる”という言説もありました。年間の新築着工はまだ70~80万戸を維持していますが、じわじわと減っている事実も確認できるわけです。
また、住宅産業に大きく影響する、今までにない事柄として、世帯の減少があります。ストックと世帯数の差が空き家とすると、今まではストックが増える一方で世帯数も増加したので、空き家が極端に増えたりはしませんでした。しかし、世帯数が減るのにストックが増える意味は一体どこにあるのでしょうか。皆が薄々感じているおかしさが、もっとはっきり認識された瞬間、“住宅産業が寿命を迎えた”という言説がリアリティを持つことになるでしょう。
新たな人生が始まるとき、リノベーションが発生する
三浦 住宅産業の寿命が尽きかけている事実は着工数に現れていると思います。実際のところ、新築以外の選択肢を選ぶ人は増えているのか、先生の実感はいかがですか。
松村 住宅リフォーム・紛争処理支援センター主催の「住まいのリフォームコンクール」で審査委員長を務めていますが、これまでの受賞作は、バリアフリー化や断熱改修など、いわば“箱”を改善する事例が中心でした。
しかし、今年の受賞作からは新しい現象も感じられました。例えば都市から地方に移り住む際、空き家を2棟手に入れてリノベーションし、ひとつは地域に開く場にする―。数多の空き家が存在することで、人は新しい人生を組み立てることができるようになり、それに伴ってリフォーム・リノベーションが行われるようになったのです。
これだけ住宅が余っていて、かつオンラインの発展で住む場所も自由になっている世の中、代々同じところに住んで、同じ企業に定年まで勤める生き方は、特に若い世代にとってはもう古いものです。中古住宅流通というと陳腐ですが、住むべき場所を発見する機会をつくったり、地域の中でそれを横展開することが、住生活産業として成立しつつあると考えます。
これまで住生活というと、例えばキッチンでお母さんと子どもが会話するなど、住宅の中での具体的な生活を指すようなニュアンスがありました。しかしいよいよ“どこにどう住んでどう生きるか”、つまり人生のレベルにまで、住生活の概念が拡大してきたのではないかと感じています。
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この記事は新建ハウジング10月20日号8面(2024年10月20日発行)に掲載した内容をDIGITAL版に再編集したものです。
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