かつて住宅取得者として需要の中核を担ったと言われる団塊ジュニア世代。その後の資産形成に関わる社会情勢の影響や、さらに住宅に対する価値観の多様化が進み、一括りにしづらい点があるものの、今後はライフステージの変化とともに、二次取得者として少なからず市場にインパクトを与えることが期待されています。リノベーション、建て替え、買い替えなど複数の選択肢がある中で、今回はリノベーションと建て替えの可能性に比重を置いて解説しましょう。
ハウスメーカーは建て替え層を強く意識
国土交通省のデータによると、戸建て注文住宅における建て替え率は10~20%の間で推移しており、今後、上記の人口動態という背景もあり、建て替え率が増えていく可能性があると筆者は見ています。また、上記の調査データには建て替えの場合の建築資金が4487万円であると記されています。
一方、建て替えを除いた場合の建築資金は3866万円となっており(いずれも2022年)、前者には解体費が含まれていたとしても、高価格帯のシリーズを揃えるハウスメーカーが建て替えを狙う大きな理由の一つが、相対的に高い予算額にあることは言うまでもありません。直近のハウスメーカーの建て替え率に関するデータは見当たりませんが、私がハウスメーカー出身者に建て替えの割合(個人成績)を聞く限り、「5割は建て替えだった」という声は決して珍しくなく、中には「7割が建て替えだった」という声もありました。
他ルートのヒアリング含め全社受注棟数のうち、会社によって濃淡があるでしょうが、少なく見ても4割から5割近くが建て替えという会社もあるのではと推察します。
では、なぜハウスメーカーは高い建て替え比率を実現できているのでしょうか。その問いに対する仮説としては「建て替え層の多くに、各社のマスメディアによるブランディングの影響もあり大手志向が浸透している」「様々な建て替え関連コンテンツを充実させており、案件獲得につなげている」「囲い込みにより同一メーカーのリピート受注が比率アップに寄与している」、加えて「工期が短く借り住まい期間が短く済むという優位性もある」など、いくつかの理由が考えられます。
様々な複合的な要因がある中、私は、特に2つ目のハウスメーカーの多くが建て替え層をターゲットに発信する販促企画やお役立ちコンテンツには多くのヒントが隠されていると考えています。
リノベーションも建て替えも獲得するためのヒント
団塊ジュニア世代によるリノベーション及び建て替え需要をビジネスチャンスにするために、筆者が着目している点を以下に列挙します。
・少子化が周知の事実となっている中、ボリュームゾーンである団塊ジュニア世代に対していかにアプローチし、いかに共感を得られるかが、今後10年の経営に大きな影響を及ぼすだろう
・4号特例縮小もあり、出会うきっかけはリノベーションでだったが、結果として建て替えに至るという案件が増える可能性がある。その状況を見据えて対応策を練る必要がある(一般的に、建て替えになると競合が増える傾向)
・「リノベーションか建て替えか迷っている」という相談に対して、当然ながら総合展示場では建て替えを勧められ、逆に、特に大手のリノベーション会社には、リノベーションを強く勧められるのが現状。地域工務店は、家に対する思い入れ(ソフト面)と劣化状況(ハード面)、法的な観点から客観的な立ち位置でお客様にとっての最適解(建て替えかまたはリノベーション)へ導くこと、その立ち位置自体をわかりやすく伝え、認知、信頼されることが重要(そのプロセス自体が差別化になる)
・新築サイトとリノベーションサイトをそれぞれ保有しているなら、お互いに行き来できるようなかたちが理想。私の経験則では新築サイトのユーザー数はリノベーションサイトと比較して5倍以上多く、リンクさせることは集客上のメリットだけでなく、ユーザー視点に立った建て付けと言える(自社の新築サイト経由のリノベーションサイト流入は離脱というより、回遊であり、自社の滞在時間ととらえる)
・自社新築サイトからリノベーションサイトへ流入したユーザーは質が高く、コンバージョンにつながりやすい(地域工務店なら、新築サイト経由で、年間1000ユーザーの流入が一つの目安)
・一次取得者と二次取得者の大きな違いの一つに年齢がある。一次取得者を今まで通り狙いながら、それぞれにとって適切なコミュニケーションツール、適切な販促投資配分も合わせて考えることが肝要
・「一次取得者も二次取得者も結局は意匠で決まる(または性能で決まる)」という現状のアウトプットの延長線上で自社が果たして案件を獲得し続けることができるのか、客層付加と客層ごとの深堀りの必要性はないか、冷徹に見極めること
・多くの建て替え検討客にとって、仮住まい、片付け、家財の保管等属性ならではの課題があり、いかに不便の「不」を解消できるかが重要
・同時に親(特に後期高齢者となる団塊世代)から実家を相続するケースの増加も見据えて、実家の建て替え・リノベーションという狭属性において、Uターンを含め自社が第一想起されるようなポジションを狙うこと
・建て替え検討客は基本、予算のイメージが高く、性能面でのマインドセットができていることも多いため、性能向上を前提にしたリノベーション事業にとって親和性が高い
・リノベーションと建て替えの融合において、集客面だけでなく、(簡単ではないが)案件を共有するため組織面の連携を図る必要がある
住宅市場におけるラストチャンスをつかむためのストーリーを描く
今回はリノベーションの真横の領域である建て替えについてお伝えしました。半世紀以上前から、そして今もなお、多方面で多大な影響を与え続けるドラッカー教授は「人口動態から未来のストーリーをつむぎ出す」という大局観を貫いていたと言い継がれています。ぜひ団塊ジュニア世代のポテンシャルを掘り起こすような、各社それぞれのストーリーを描いていただきたいと願っています。
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