消費税のインボイス(適格請求書)制度が始まって1年が経過した。導入前は、コストや事務負担が増えることへの不安が広がっていたが、昨年度末の確定申告を経て、制度はじわり定着しつつある。一方、新たに課税対象となって収入が減った事業者の中には、取引価格の引き上げ交渉が進まないケースも多く、引き続き課題は残る。
インボイス制度は昨年10月1日にスタート。消費税納付時に、仕入れ時に支払った消費税分が差し引かれる税額控除を受けるため、仕入れ先が税率ごとの消費税額や登録番号などを記載、発行するインボイスが必要になった。
もともと売上高1000万円以下の事業者は、消費税が原則免税だったが、インボイス発行事業者として登録すれば課税対象となる。登録は任意だが、発行できなければ取引を打ち切られる恐れもある。登録件数は昨年9月末の378万件から今年8月末には458万件に増えた。
制度への理解を進めるため、国税庁は導入前後から各地の税務署で説明会を開催。東京都の江戸川南税務署では、従来10~20人だった出席者が9月中旬には2人になった。同署職員は「基本的な質問は少なくなった」と話す。
説明会に参加した梱包(こんぽう)業を営む男性(78)は、自身はインボイス登録済みだが、仕入れ先の中には未登録の企業もあるという。今後も未登録のままならば、「取引の見直しも検討せざるを得ない」と語った。
日本商工会議所が5~6月に実施した調査によると、インボイス導入を機に新たに課税対象となった事業者の54.9%が減収を強いられた。取引先と価格交渉を行った事業者は14.4%にとどまった。
政府は制度導入後6年間は、インボイスがなくても一部税額控除されるなどの経過措置を設けている。今後は業態に応じた適切な交渉や価格転嫁に向けたサポートも求められる。
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