土は、人間の文明史においてもっとも古い建材で、中欧ヨーロッパでは19世紀まで、主要な建設マテリアルだった。20世紀になってからは、工業製品の建材が土に取って代わった。20世紀の建設業における土の需要は、古建築の改修で細々と使われるくらいでわずかだったが、ここ20年ほど、古い建材である土に静かなルネッサンスが起こっている。
先週、日本からの視察団と一緒に、本連載のVol.32(5月30日号掲載)で紹介したTAKATUKA(タカツカ)建設の仕事場を訪れた。フライブルク市郊外の増改築中の現場を2カ所、社長のヨハネス・オットが案内してくれた。彼の会社はドイツで有数の、木と土を組み合わせた建築のスペシャリストでもある。OSBボードや気密シートは使わずに、無垢の木材と木質断熱材、土で、呼吸(調湿)する躯体をつくる、というやり方を実践している。
ヨハネスは2000年代のはじめ、木造建築の会社で職業養成を受けた。彼がそこで学んだ建築は、今でも多くの木造建築会社が行っている安価な方式のものだった。木造の骨組の間にグラスウールなどの断熱材を詰め込み、OSBボードと気密シートで蓋をして、石膏ボードを取り付けて、その上に壁紙を貼る。
木という呼吸(調湿)するエコロジカルな素材を、施工者にも住む人にも健康リスクがあるような呼吸しない化学製品で覆ってしまう建築に、彼は不快さを感じた。しかもそれら化学製品を生産するために、多大なエネルギーが使われている。健康・環境の面で、まったくサステナブルでない、と思った。
職人(ゲツェレ)の資格を取得した彼は、中世のころから続く伝統である「放浪の旅」に出た。彼は南米で、土を主要な建材とした古き良き建築に出合った。土という素材の多面的な特性、土建材の製造にわずかなエネルギーしか必要ないことを、体感的に学んだ。
3年間の旅を終えてドイツに戻ってきた彼は、スタンダードな現代木造建築の現場に帰ること、すなわち一般的な工務店で働くことは、心情的にできなかった。自分がやりたい木と土の建築を、2007年から細々と一人親方として始めた。数年後にマイスターの資格も取得し、会社を設立した。最初は1人だったが・・・
この記事は新建ハウジング9月30日号10面(2024年9月30日発行)に掲載しています。
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