2022年2月の創刊以来、設計者を中心にご好評をいただいている別冊「月刊アーキテクトビルダー」ですが、経営者、営業などもっと多くの方に読んでいただきたい…
そんなわけで、本紙上での「出張版」として取材・編集担当の大菅力さん、編集デスク・松本めぐみ2人による解説「家づくりのリアル」の一部をご紹介!
気になったらぜひページを開いてみてください!
Topic1 リノベ市場で成功するには必要なものが多すぎる
大菅 住宅業界はほかの業界と比べて商品づくりやマーケティングが雑なんです。なぜなら大半の会社が30代の一次取得者向けのマーケティングに特化していて、何十年もそれで食えてきたからです。本質的な商品やサービスの競争がなかったので、商品づくりやマーケティングが磨かれていません。
松本 なぜですか?
大菅 新築とリノベは似て非なるもの。市場が全く違います。新築市場は30代・一次取得者に特化している、非常に特殊なマーケットです。一方、リノベーションは広くはストック市場に属します。
松本 ストック市場ということは顧客も商品やサービスも幅広くなりますね。
大菅 ストック市場は建物ありきです。世の中新しい建物、古い建物、大きな建物、小さな建物、あるいは住宅のほかに店舗やオフィス、工場や倉庫などさまざまな建物があります。しかも、それが売買や賃貸などさまざまな形で流通するし対象も不特定多数。1人の顧客を見ていればいい新築市場の注文住宅とは異なります。
Topic2 ストック市場は「多業化」する
松本 ストック市場はニーズが多様なので「多業化」、つまり多くの分野を仕事にしていくことが必要になりそうですね。実際には大変そうですが…
大菅 めちゃくちゃ大変です。本業の新築でさえ人手不足の上、構造計算、温熱計算、ウェブマーケティングなど、20年前にはやっていなかったことを当たり前にやるようになっている。手が回りきっていないのに、さらに新しい市場のニーズにも対応するなんて、率直に言えばできるのかな、というところです。
松本 特に必要な“業”は?
大菅 コンサルティングです。ストックビジネスは物件ありきです。例えば、物件を所有している顧客ならその物件をどう活用するか、もしくはどう売却・譲渡するかという可能性を整理してから、建物の使い方という方針を決めることになるわけですから。特に商業物件は用途や業態が多様なので、住宅以上に大変ですね。ビジネスのあり方と建物の使い方をすり合わせて、端的に言えば「儲かる」方法を見出す必要があります。
松本 一般に建築企画と言われている分野ですね。
大菅 そうです。この分野の専門性をもった人材は非常に少ないですね。逆に言うと建築企画の専門家がいる会社はストック市場では最強かもしれません。
Topic3 多業化には「チーム友だち」が有効
大菅 多業化するなら専門家を集める必要があります。小さい会社はお金で専門家との関係をつくるのも難しい。ならば専門家と友だちになり、相談しやすい関係性を構築していろいろなことを解決すればいいのではないでしょうか。
松本 どうやって友だちになるのですか?
大菅 グループをつくる、あるいはグループが既にあるならそこに入会することです。わかりやすい例でいうと、最近、工務店の間で、地域の同業者や周辺の業者・専門家の勉強会(コミュニティ)を組織して定期的にイベントをやったりすることが流行っています。こうした動きを真似て同じようなグループを立ち上げたり、現実的にあるならそこに入会するとよいでしょう。
松本 グループに入れば問題を解決できるのでしょうか?
大菅 いえ、その場で能動的に動かないと目的は達成されません。自分の状況や問題を周りの人にオープンにして、逆に自分が得意なことを伝えていく。問題も知恵もオープンにしていくことで相手が自分に興味をもち、交流が始まるんです。
Topic4 建築企画は自分で物件を購入して運営して身につける
松本 建築企画を身につけるには、やはり自分でやるに尽きる?
大菅 建築企画の分野は、人材が非常に少なく他人から学ぶことが難しいんです。独学で身につけるには当事者になるしかありません。小さな物件なら予算的にも決して難しい話ではないかと思います。
松本 当事者だと全部自分で考えなければならないですよね。
大菅 だから勉強になるのです。考えて実行し、失敗したら必死でフォローする。でも、工務店だって創業時は同じだったはずですよね。当事者になることで新しいノウハウが短期間で身についていくのです。
Topic5 半分リノベと相続リノベ
大菅 「半分リノベ」というのは、中古住宅を購入して、その半分をリノベすること。住宅を所有していない人の場合はこちらが主流になると考えています。
松本 なぜ半分なのですか?
大菅 単純な理由で、予算が足りないからですね。地方都市で一般的な一次取得層だと、持ち家取得時の平均的な予算は、コロナの前からマックス4000万円と言われています。土地建物が1500万円だとすると、リノベ費用は諸費用を除いて2000万円に抑えたいところです。だから1階だけをリノベして快適にして、2階はちょっと我慢して活用しよう、そういう考え方ですね。一方、親の家があって援助も期待できるとなると、事情は変わります。 建物に対して3000万円から4000万円のお金をかけられるケースが増えてくると思います。
松本 それならフルリノベができますね。
大菅 ですから、受注を得る上で相続対策のコンサルティングが重要になってくるわけですね。
この記事は新建ハウジング9月20日号16面(2024年9月20日発行)に掲載しています。
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