「自社を取りまくリノベーション市場には既に競合が複数存在する」という工務店もいらっしゃるかと思います。だからと言って、ビジネスチャンスが全くないとは限りません。もちろん、自社の強みに連動しないコンセプトだったり、他社と同質化したりするような土俵ではうまく行かない可能性が高いです。一方で後発であっても狭属のリノベーション領域に集中して独自のポジションを築こうとする事例も着実に増えています。
今回は「今後のリノベーション業界において、どのような競争戦略をとればいいのか」という問いに対して、経営の教科書と言われる名著につづられている理論も参照しながら、ヒントを提供したいと思います。古典とも言える経営戦略本の引用は堅苦しい言い回しになりがちですが、関連事例も交えながら解説していきたいと思います。
外部環境に目を向けた競争戦略
今回は戦略本として『競争の戦略』(マイケル・E・ポーター著)を取り上げます。今後のリノベーション市場において『競争の戦略』が提唱する理論が適しており、競争の中で取るべき戦略において、大きなヒントを残してくれていると考えるからです。かつて、「星野リゾートの教科書」の一冊として取り上げられたこともあるのでご存知の方も多いかと思います。関連書籍には星野社長の「それまでの経営書はお客様視点に立ったマーケティングを強調するものが多かったが、そんな中で、ライバルの動向こそが重要というポーターの理論は目からうろこで、強く印象に残った」という感想を残しています。
原書は500ページ近くに及ぶ大著ですが(エッセンシャル版もあります)、着眼すべきは「多数乱戦の業界において、競争相手に勝つために、コストリーダーシップ、差別化、集中という3つの基本戦略がある」と論じている点です。
一つ目の「コストリーダーシップ」とは、低コストのポジションを築くと、業界内に強力な競合要因が現れても、平均以上の収益を生むことができる。また、同業他者からの攻撃をかわす防御体制もできる。相手よりも低コストだということは、相手が攻撃のために利益を捨てた安い価格で向かってきたとしても、こちらには収益が残ることを意味します。
いかに解釈するかにもよりますが、業界構造的にも市場のライフサイクルの視点からも、他社が追随できないようなコストダウンは、工期短縮というテーマで関連事例はあるものの、極めて再現難易度が高い戦略と言えるでしょう。
2つ目の「差別化」は、自社の商品やサービスを差別化して、業界や地域の中でも特異だと見られる何かを創造しようとする戦略です。差別化に成功すると、競合要因に対処できる安全な地位ができ、業界の平均以上の収益を約束してくれるという考え方で、うまく認知・共感されれば顧客からブランドへの忠実性が得られますし、価格比較の土俵にも乗らずにすみます。また差別化が機能すれば、エンドユーザーは同じ価値を他社から得ることができず、そのために価格に関してやかましく言うことも減ります。複数の面で差別化するのが理想的だとされています。
3つ目の「集中」は、今回のテーマでもある特定の顧客像、工事の区分、価格帯や、特定の地域等へ企業の資源を集中する戦略です。集中戦略はそもそも特定のターゲットだけを丁寧に狙う目的で策定されます。同業他者よりも狭いターゲットに絞るほうがより効果的で、効率のよい戦いができるという前提からこの戦略が存在します。競争戦略というより、独自のポジションで競争を避けるという意味合いが強いです。
リノベーションという市場の中で
さらにコアターゲットを設定する例
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