新建ハウジングは8月6・7日、リフォーム産業フェア(主催:リフォーム産業新聞社)内で「東京リノベサミット」を開催した。新築市場の縮小が加速し、“新築神話”が崩壊していく中、工務店がリフォーム・リノベーション市場で確たるポジションを得るには何が必要か。2日間の議論をダイジェストで紹介する。
リノベトークNo.3|工務店ならではの受注戦略
いまこそ必須!顧客育成が新たな受注の鍵を握る
リノベーション事業を本格化するなら
DXが不可欠
コンベックス社長の美里泰正さん、アンドパッド住宅ソリューション本部の千葉悠介さんが、DXを利用したリノベーションの受注戦略を議論。少数精鋭の体制を維持しつつ新しい取り組みを実践する際に求められるDXツールの活用法を話し合った。
まず、工務店が改修事業を本格化するには「オーナーからのリフォーム受注」「リノベーションの新規受注」「アフター(メンテナンス)をする会社がない無管理住宅から、新規の管理・リフォーム受注」を取るための3ステップが最も重要と定義。しかし、改修事業の多角化・多層化となると、時短・自動化も必要だ。千葉さんは、リフォームを受注するための戦略をとして「工務店と施主のコミュニケーションツールを活用し、記録を残していくことがCS(顧客満足度)向上につながる。常に状態を把握しておくことで適切なタイミングで提案もできる」とした。
予算が新築には届かない層に、いかに(中古+)リノベーションを提案できるかも論点になる。美里さんは「リフォーム専業店ならひとつの提案だが、新築を手がけている工務店なら、予算が合わない顧客に対して(中古+)リノベも並列して提案できるのが強み」と主張。相談件数が増加して対応の手が回らない問題に対しても「顧客対応をDXとマルチチャネル戦略によるセールスオートメーションで自動化すれば、きめ細かくアプローチできる」と説明した。
無管理住宅からアフター受注を取るには、リフォームの4大不安(会社・人・金・決断)を取り除くことが重要だ。セッション中では、リフォーム・リノベーションの基本である「不」の改善提案が、受注増加のカギになると結論付けた。
リノベトークNo.4|耐震改修を自社の強みにする方法 ~これから求められる性能向上リノベの在り方~
耐震改修だけでなく
周辺領域の知識獲得が急務
建築基準法改正を目前に控え、つくり手はどう耐震改修に取り組んでいくべきか。YKK AP主催「性能向上リノベデザインアワード2023」受賞工務店らのプレゼンをもとにトークセッションで理解を深めた。
カワノ4代目社長の川野真司さんは「“他社が面倒くさがること”こそ差別化になる」とし、リノベ・耐震工事から見て「周辺業界」にあたる補助金・助成金活用や相続・贈与などの知識・経験をつけることで、営業マンを置かずとも顧客のほうから選んでもらえる状況をつくり出せると説明。住宅ローンなどの話題は初回面談時に必ず出し、共感を得ておくのが重要だと述べた。
ベースワーク社長の渡邉智美さんは、居住スペースで明確に区切った部分改修に取り組んだ戸建て改修事例を紹介。自治体独自の耐震改修補助金を実際に利用した際の「耐震補強計画はExcelに図面を貼りつけて提出」「審査は月2回のみ」などの経験もふまえ、スケジューリングなど補助金を活用する際に留意したい点を説明した。
リノベに適した中古物件探しも手がけるアートテラスホーム社長の石原誠司さんと同社リノベーションチームマネージャーの伊藤陽子さんは、買取再販用物件を購入する際のポイントを解説。同社は買取再販用物件を「売却型モデルハウス」と捉えており、仮に粗利が10%以下になったとしても、同物件の小屋裏や床下を顧客自身が目視することで安心してリノベに取り組めるようになれば、総合的には“割に合う”と考えている。販売価格の目安は、自社で同じ土地に注文住宅を建てた場合の総費用の8掛け程度。
ループスアーキテクト代表の吉本高広さんは、抱き基礎を採用するなどして耐震性能(上部構造評点)を0.32から1.54に向上させた買取再販事例を軸に解説。4号特例縮小を前に不安を感じているつくり手に向けて「法に適合させる力を自分たちで出せれば、むしろ緩和措置を受けられるようになる。『法に適合させるのが当たり前』という気概で取り組むことが大切」と呼びかけた。
リノベトークNo.5|工務店リノベで多角化戦略 イマドキ顧客転換術
新築の代わりもマルチブランドも
実現の基礎は「スマートビルダー」化
工務店のリノベーション事業には、新築が難しい見込み客にリノベーションで新築同等の住宅を提案するスタイル、改修・不動産・新築事業をマルチブランド戦略で提案するスタイルの2パターンがある。本セッションでは前者を「ecomo」型、後者を「OKUTA」型と定義し、どちらにとっても実現のカギとなる「スマートビルダー」化について議論した。
前者・ecomoのリノベーション受注は新築の1割。新築で予算感が合わない顧客層に対して「新築のエッセンスを取り入れた」リノベーションの提案を行う。新築の担当者が、リノベーションも一貫して対応することで、新築とリノベで設計の整合性がとれている。
打ち合わせでは3DCADを使って、具体的なパースを顧客・大工と共有。イメージの齟齬がないように伝えることで、効率化を徹底する。また、log buildとして開発したオンライン施工管理システム・Log Systemも活用することで、エリア外の受注も確保している。社長の中堀健一さんは「新築の受注が20%減少したとしても、リノベ事業とエリア外からの受注でカバーできる」と説明した。
後者のOKUTAは、デザインと性能にこだわったパッシブデザインを取り入れた住宅を提供する。社長の小泉太さんは「パッシブデザインを取り入れるとリノベでも平均単価3000万円を超えるので、もし予算に余裕があるなら、新築のブランドを推奨している」という。「中堀さんと本質は一緒で、選択肢を持つことが大事。中古物件ひとつとっても、建て替えもリフォームも提案できれば、お客様に寄り添えることがマルチブランド戦略の強み」だと説明した。
また、同社はコロナ禍からオンライン営業を開始し、オンラインでも一定の受注を獲得できるようになった。直接現場を訪れる必要があった施工管理も、遠隔で巡視できるLog Systemを導入してDXを達成。社員の確保と育成を両立し、大規模な事業展開を実現するに至っている。
リノベトークNo.6|若い世代に向けたリノベーション需要の開拓
若い世代をどう獲得する?
実例から見えてきた若年層攻略のカギ
リノベーションでは高年代層がターゲットになりやすいが、事業を成長させるために若年層を獲得することも重要。20~50代の現役世代がリノベーション受注の4分の3を占めるというサンプロから専務の安部賢治さん、多様な選択肢を持たせた性能向上リフォームや本質改善型リフォームで若年層を取り込んでいるLivearth(リヴアース)社長・大橋利紀さんをパネラーに、若年層への提案手法について、各社の実例を提示してもらいながら議論を深めた。
サンプロは、リフォームにおいて13年連続で長野県1位の売上を誇る。このリフォーム事業の核となるのが断熱リフォームの重要性を認知させるためのブランディング、そして断熱リフォーム前後の温熱環境が体感できる実験モデルハウスだ。安部さんは、モデルハウスで断熱された空間と無断熱の違いを実際に体感してもらうことで、リフォームが経済的なメリットだけでなく健康ソリューションにもつながると実感できることが若年層への需要喚起につながっているとした。
大橋さんは、「どのような未来を実現したいのか」を前提条件として設定し、そこに合わせた段階的な提案をしていく手法を紹介。新築ではなく性能向上リフォームを前向きに選択してもらうために、3つのキャズム(性能・コスト・自由度)を超える必要性を訴えた。また、基本性能、感性デザイン、基本デザインの3つの価値を設計により高い次元で統合できたときに初めて高い質の暮らしが実現できるとし、予算に合わせて選択肢を多く提示することのできるリノベでは、これを実現しながら若年層を獲得していけるとした。
また、断熱リフォームを積極的に推進するLIXIL Housing Technologyの営業本部リフォーム推進部・黒坂幸二さんも登壇。2025年の法改正に照らしながら窓や外回りを中心とした断熱リフォームの意義などを伝えた。黒坂さんは、各社の事例を受けて、補助金を上手に活用しながらリフォームできる屋根・壁・窓・ドアの断熱リフォームパッケージ商品を提案した。
リノベトークNo.7|記者フリートーク 取材現場から考える「工務店リノベ」の可能性
工務店リノベに必要なことを記者が議論
東京リノベサミットの閉幕は、新建ハウジングタブロイド判デスク・荒井隆大と、月刊アーキテクトビルダー編集デスク・松本めぐみの2人で、工務店のリノベーションについて議論した。
冒頭、荒井が中古住宅のリノベーションで新築と同じ顧客層(=一次取得層)をターゲットに狙う事例などを紹介しつつ「アフター重視の戦略」が基本と唱える。「手間がかかる部分はDXで解決できることもある。時流の技術を活用することで、ストック住宅市場で勝てる工務店になるのではないか」と説明した。
松本は、不動産事業への取り組みで重要な、新築以外の市場を見据え、事業がシナジーを生む分野に参入する「複合化」をテーマに挙げ「“多業化”して安定経営につなげている事例も多くある。確立する時間はかかるが、工務店も“多業化”するべき時期がきたのではないか」と締めくくった。
この記事は新建ハウジング8月30日号4・5面(2024年8月30日発行)に掲載しています。
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。