連載2回目は、EuroCucina & FTKの会場展示を中心に、『機能する家具』と呼ばれるキッチンの2024年最新情報をお届けします。vol.1でお伝えしたキッチントレンドがどのように反映されているのか、デザイン・カラー・素材・構成材(扉やパーツ)・ワークトップ・クックトップ・周辺機器などのパートごとに今年らしさや最新の機能などをピックアップし詳報します。
目次
キッチンデザイン / カラー / 素材 / 扉 / パーツ類 / 照明 / ワークトップ / シンク・水栓 / クックトップ・レンジフード / オーブン、etc. / 食器洗浄機(DW) / その他のキッチンアプライアンス
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キッチンデザイン
ボーダレスな大空間の中心にあるキッチンには、空間全体のインテリア性を保ちつつ、キッチンとしての機能を満たすデザインであることが求められました。天然石カウンターの大型アイランドキッチンを核にオープン⇔クローズを使い分けるキッチンが今年の典型的なスタイルです。
■オープンシェルフ:垂直面の活用
アイランドキッチンのバックに天井までの棚を設える。ディスプレイ・本棚・グリーン、オープン棚は大空間ならではの多種多様な『見せる収納』となっています。空間の間仕切りを兼ねている設置例も多くみられました。
■スナックテーブル
示し合わせたかのようにデザインされた『アイランドキッチン+スナックテーブル』スタイル。多くは円形フォルムでしたが、楕円や角型、オーガニックな曲線のデザインも見られました。
■カジュアルダイニング
スナックテーブルをキッチンのどこかにセットすることで、キッチン回りにカジュアルなダイニングスペースが生まれます。
■角R:オーガニックな曲線
薄く見せる・シャープに、というミニマルデザインから温かみのある優しいデザインに変化してきた2024年。キッチンのコーナー部やスナックテーブルの端部は柔らかなR(カーブ)を付けた納まりが多くなっています。
■ヘリテージ
時代を超えたデザインはある意味サスティナブル、70年代・80年代『レトロ』デザインも人気があります。
カラー
『カラーがかえってきた』と表現されるように、今年のキッチンはワークトップ・キャビネット・扉など、至るところにカラーが使われています。
彩度は控えめ、明度は高めの、とんがっていないカラーが主流です。
■カラーMIX
カラーに関しても『ボーダレス』、同一空間の中での多色づかいはキッチンではこれまでにはあまり目にしなかった手法です。
■ナチュラルカラー:自然界の色
自然界にある色にインスパイアされた穏やかでリラックスしたカラー。
トレンドカラーは、グリーン(青磁・モス)、ピーチファズ(Peach Fuzz:color of the year: 桃や人の肌を連想させる柔らかなオレンジ系のベージュ)、テラコッタ。差し色にはピンク・ブルー・パープル・イエロー。
素材
循環型社会を維持していくための大事な要素として素材を捉え、各メーカーは環境保全やエコフレンドリーといった観点から再生素材を取り入れ、100%リサイクル可能なメタルやガラス素材を選択しました。また自然回帰の気運の高まりから、天然素材の人気は予想以上のものでした。その一方で、技術革新によって生み出された新素材も注目の的となっています。
■再生素材
リサイクルウッド・海洋プラスティック・エココンクリートなど廃棄物を素材に多くの工業製品が新素材として再生され、活用されました。
■天然素材
地球の恵みをそのまま使うという傾向に後押しされて予想以上に多くのメーカーが採用しています。無垢材(木)・天然石・土などのローマテリアルの中でもとりわけ天然石の存在感が目立っていました。クオリティの高い素材=長く使える=エコ・サスティナブル、という構図が消費者の中にも徐々に浸透してきているようです。
■ハイテク素材
PVD(physical vapor deposition:物理蒸着)加工を施したステンレス・アルミニュウム・スティールなどのメタル素材は今年のトレンド。特殊な熱処理を加えて耐久性や耐候性などを格段にUPさせた木材も登場しています。
■アウトドア仕様素材
アウトドア志向の高まりを受け人気のアウトドアキッチンの提案。耐候性や耐塩性に優れたステンレス(AISI316)、アルミニュウム、熱処理木材、チーク材等が使われました。
■素材MIX
カラー同様、同一空間に多種多様な素材をミックスさせて使う手法が多くみられます。
扉
フェースともよばれるキッチンデザインのカナメ『扉』。今年のキッチン扉のトレンドは、なんといってもバーチカルリブと框組扉。PVD加工のメタル扉や様々な加工を施したガラス扉等も注目をあびていました。
■バーチカルリブ
バックヤードの大形扉・パネルも含めて、バーチカルリブ(縦方向の溝)デザインのオンパレード。リブの太さ(幅)・間隔(等間隔・ランダム)・形状は様々で、素材も木・石・メタル等多岐にわたっていました。
■框組
姿をひそめていた框組扉が増えています。10㎜程の細框から太めの框、多段框など、多彩な形状が見られました。モダンからレトロ・クラシックデザインまで幅広く使われています。
■メタルドア
PVD加工(Physical Vaper Deposition)のメタルドア、着色やスクラッチ加工・鏡面仕上げなどに加えて、高度なテクニックを要する3Dやリブ加工も登場しました。技術革新の進む分野として注目を集め、ドア材だけでなくワークトップにも使われています。
■ガラスドア
人気の高かったガラスドア。凹凸加工・サンドブラスト・ファブリックテイストなど多彩なパターンが使われていました。いずれもハーフトランスペアレント(半透明)な見せかたです。
パーツ類
キッチン家具の新しい機能を担うパーツ類も常に進化を続けている分野ですが、例年に比べ話題を集めるような新味を感じさせる金物はあまり多くは見られませんでした。
■アルミプロファイル
ドアの上部の突出部をハンドルとして使用するいわゆる『手かけ』スタイルのベースユニット、キャビネット側にアルミプロファイルを取り付け、扉はプッシュオープン。
■把手・つまみ
プッシュオープンの扉が増える中、框扉などのデザインポイントになっていた丸形のつまみはほとんど姿を消していますが、シンプルな細く長いハンドル型の把手は多く目にとまりました。レトロモダンなテイストには真鍮、カラーはゴールドが多くなっています。
■見せる・隠す回転金物
2023年インターツムにてアワードを取ったFURN SPIN(ヘティヒ社)の回転収納パーツ。キャビネットを水平にくるりと回転させキャビネット内部を『見せる、隠す』を簡単な操作で可能にしました。
■ポケットドア
大開口のキッチンバック部の扉を『開いて・閉じる』ポケットドアに最も多くみられた金物です(HAWA、Blum)など。ワンプッシュで扉を山折りにしてスライドさせ袖壁に引き込む仕組みです。
■フルハイトドア(その他大型扉)
キッチンの大形収納扉だけではなくパントリーや、ランドリールーム、そのほか隣接する空間へのコネクティングア・パッサージドアに使われた金物。
■アクセサライズドチャネル
モジュール化されたBOXを埋め込んでキッチン回りの小物類やキッチンツールなどを使いやすく美しく収納するパーツです。作業性とデザイン性を兼ねた『見せる収納』として多くのキッチンで使われていました。
照明
空間に驚くべき効果をもたらす照明デザイン。年々進化し、スリムになったLEDラインライトは今年のキッチンデザインのハイライトです。消費電力の大幅減、長寿命、カラーセレクト、調光など、美しさと機能の双方を実現させるLEDライトがキッチンのデザインを変える大きなエレメントになっていました。
■LEDライン照明
キッチンキャビネット内、カウンターの下、幅木部分、引出の中、壁面、キッチンの至る場所にLED照明が組み込まれました。輪郭や線を強調する視覚的な魅力でキッチン空間に強力なインパクトを与えています。
ワークトップ
アイランドカウンタ―が中心の今年のキッチンではこれまで以上にワークトップの存在がクローズアップされました。天然素材としてのクオーツやマーブルと最先端技術によって生み出されるシンタードストーン(焼結石)、二つの素材が共に脚光を浴びていました。耐水性・耐久性・耐熱性・耐候性など多くの点で天然石を凌ぐ物性的優位性をもつシンタードストーンは、注目度NO1の素材です。
■端部の形状:水返しの復活
大型のアイランドカウンターで端部(四周)に立ち上がり、いわゆる水返しがついたデザインを多くのメーカーが提案しました。ミニマムキッチンでは影をひそめていたデザインです。
■素材:天然石
「石の文化の国イタリア」を思いっきりアピールするかのように天然石を使ったワークトップが増加、各社のメインデザインに使われています。淡いピンク系のクオーツ(石英石)、トラバーチン、ボルドーやグリーン、ブラック系等の濃色のマーブル(大理石)、など個性の強いラグジュアリな石種が人気でした。
■素材:焼結石(Sintered Stone)
天然石と並んで多くのメーカーが採用した焼結石は天然素材を使って作られた人工石。デジタルプリント技術の進化によりカラーやパターン(柄)テクスチュアを自在に作成することが可能で、天然石と区別がつかない、あるいはそれ以上の完成度の高いパターンも作られています。(TOPに貼ってあるクレジットでようやく見分けがつくほど!)
マット仕上げがほとんどですがマットとグロスの双方が混在する仕上げや表面に凹凸(3D EFFECT)を付け天然石の質感を見せるといった先端技術も登場しています。
■テラゾー
天然石の断片を樹脂で固めたテラゾーはパンデミック前からレトロ感などから徐々に採用されていましたが、資源の活用や再利用としての価値も見直されています。
■メタル:PVDフィニッシュ
メタルをベースにPVD加工を施し、さらに表面にスクラッチ加工も加えたワークトップも登場しました。
シンク・水栓
食器洗浄機が標準仕様の欧米では既成のシンクは比較的小さめ、ダブルシンク・多段シンクなどが使われています。
既成シンクのカラーとしてはブラック・アンスラサイト・ゴールド(真鍮)、天然石や焼結石ではワークトップ共材です。
アイランドカウンターが主役のキッチンでは水栓をデザインポイントとして見せている例も散見されました。
■シンク:ワークトップ共材
天然石や焼結石のTOPではシンクを同一素材で製作しワークトップとの一体感を出しています。
■水栓:形状
グースネック水栓・セミプロ水栓、など曲線と高めの立ち上がりを持つ水栓が多用されています。シンプルなデザインにはボディ部分が極端にスリムな形状の水栓、レトロデザイン向けにツーハンドル水栓がセレクトされていました。
■水栓カラー
ブラックカラーが主流。天然石を使ったラグジュアリなキッチンにはゴールド(グロス&マット)や、ツートンカラーの水栓。カラーシンクとコーディネートしたカラー水栓がPOPな空間に使われました。
クックトップ・レンジフード
キッチンを核にした空間づくりの変化に伴い、キッチンアプライアンスの分野では技術革新のスピードが加速中です。その中でも特に、クックトップに大きな変化が見られました。コンロ+排気が一つになったハイブリッドクックトップを多くのメーカーが採用し、レンジフードはどこ?というキッチンが至る所に出現していました。ガラストップのみのシンプルさ、そのうえレンジフード不要とあってキッチンデザインの自由度が大きく広がっています。
■クックトップ:コンロ+ダウンドラフト(排気)のハイブリッド
ダウンドラフト(下引き換気扇)を組み込んだクックトップは1m/秒という高速吸引力により油煙と水蒸気を瞬時に吸い込む機能を備え、油煙をまき散らすことなく空間をクリーンに保つことができます。多くのデザインバリエーションが用意されていました。
■3 in One のクックトップ
『Lhove』、3 in One のハイブリッド機器。オーブンまでが一体になったハイブリッドクックトップがレンジフードメーカーElica 社から発表されました。
■クックトップ:インビジブル
カウンター下に電磁誘導コンロを仕込んだアイランドキッチン。ワークトップには小さなサイン以外何も見当たらないミニマルデザイン。ほとんどがプロトタイプですが革新技術がもたらす新たな加熱システムとしてどのように育っていくのか今一番行方が気になる製品です。
■ヘリテイジデザイン
機能はそのままに装飾性を持たせたクックトップ。レトロキッチン向けデザインのガスクックトップもインテリアに合わせてビルトインされています。
オーブン、etc.
加熱調理の多くをオーブンが担っている欧米のクッキングスタイル。使い勝手の良いアイレベルの高さに複数をビルトインして使います。スティーム機能・複数同時調理機能などを搭載した電気オーブンに加えて、コーヒーメーカーやバキュームドローワー、ウォーマー、ブラストチラー(急速冷凍機)などをニーズに合わせて組み合わせています。
際立った新機能は見当たりませんでしたが、メーカーのアプリを使ってPCやスマートフォンで操作するいわゆるスマート家電化が着実に進んでいます。
キッチン空間のカラー化を受けて、ビルトイン機器においても操作ハンドルやトリムをカラーチェンジするパーツなども提案されました。
■レイアウト
異なる機能を持つ機器を複数台並べてアイレベルの壁面にビルトイン。縦・横と並べ方は様々です。
■カラーカスタマイズ
消費者の手で気楽にチェンジできるアイテムを提供し、機器もインテリアの一部として楽しむことができます。
食器洗浄機(DW)
欧米の家庭では、ほとんどのキッチンにDWがビルトインされています。地球資源の保護・水の節約の為といった観点は当然のこと、大前提です。そのうえで、空間の作り方が変わったことからこれまで以上にデザイン性や静音性が重要視されるようになってきました。さらにパンデミックをへて、衛生という部分への関心が高まり、洗浄力の強さはもとより抗菌機能の有無などもチェックポイントとなってきました。
■操作時の機械音
キッチンリビングに混在しているDW。生活空間での会話や寛ぎを妨げない 39dB(デシベル)(図書館での静けさ)というかなりハイレベルな静音機能を持つ機種が展示されていました。
■殺菌機能
汚れを落とす機能はどのメーカーも甲乙つけがたいほど研究し尽くされており、他社との差別化を図る機能として細菌を死滅させるUVライトを搭載していることを謳ったメーカーもありました。
その他のキッチンアプライアンス
キッチン関連の家電は日進月歩の分野です。最先端技術が投入され、様々な便利機能をスマートフォンやPCを介して設定・操作することができる製品が続々登場していました。
■ワインセラー
大型のワインセラーは、赤・白それぞれの温度帯を使い分ける機能やデキャンタ―ジュ用の木製引き出しがついた高級感のあるデザイン。1台だけでなく数台を並べて設置しているレイアウトも多く、キッチンのステータスシンボルとなっていました。
■冷蔵庫・冷凍庫
AIを活用したスマート家電の分野にあってこれからの新しい時代を目に見える形で見せた冷蔵庫の展示。温度管理(省エネ)、庫内の食品チェック(食品ロスの軽減)といった、どのメーカーも一様に対応している機能に加えエンターテインメント性まで搭載した冷蔵庫が登場。これからのキッチン空間の中で家電製品が果たす新たな一面を垣間見せ、来場者の目を惹きつけていました。
■洗濯機
一続きの大きな空間に暮らしのすべてをレイアウトして見せた2024年のEuroCucina&FTK では洗濯機も展示に参加しています。省エネ・節水などに加えて、使用する水に含まれるマイクロプラスティックをフィルターを使って取り除く機能を持たせた洗濯機は地球環境を守る小さな取り組みの一つでした。
ここまでVol.2 では、ホール2&4と他ホール、すべてを合わせて100を超すメーカー各社のキッチンとキッチンアプライアンスの展示の中から、新たなデザイン・素材・パーツ・ビルトイン機器などをピックアップしてお伝えしました。
次回は、今年のハイライトデザインをメーカーごとにご紹介いたします。
写真は21世紀に入ってから進められているミラノの再開発プロジェクトの第一号、 ポルタガリバルディ地区、LEED®とWELL®の両方のコミュニティ持続可能性認証を取得した世界初の地区。アイコンとしての建築ヴォスコ・ヴェルティカーレ(垂直の森)が青空に向かってそびえたっています。サローネ取材の合間にちょっと一息、芝生に寝転んで青空と緑を堪能しました。
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