林産物に関する複数のJAS違反事件が大きな波紋を引き起こしている。これらの違反は最終需要家であるビルダー、工務店を直撃するものだが、事件の背景にはJAS (日本農林規格)に対する最終需要家の意識の低さもあり、改めてJASとは何かを考える必要がある。
特にJAS材使用を義務付けている枠組壁工法(2×4工法)では構造材等のJAS認証が大前提となる。また、JAS材の使用を前提とした林野庁の各種補助事業に参画する際に適正なJAS材が供給されているのか検証しないと補助金返還や補助事業への応募停止といった事態につながる恐れがある。
JASを愚弄する今回の事件
2024年4月5日、製材のJASに関する登録認定機関である全国木材検査・研究協会(全木検、東京都千代田区)は複数のJAS認定工場に対し、製材及び枠組壁工法構造用製材等のJAS認証取り消し措置を公表した。
全木検では「違反は故意または重大な過失によるもの」と結論付けた。この事件は、林野庁が所管し、全国木材組合連合会(全木連、東京都千代田区)が実施主体となりJAS材の需要拡大を目的とした主な補助事業である「JAS構造材実証支援事業」において複数のJAS違反が発覚したもので、通報を受けて全木検が臨時監査した結果、JASスタンプをJAS認定工場敷地外に持ち出したこと、JAS選別格付士認定証を持たない者が押印していたこと、該当JAS製品以外にも現場でJASスタンプを押印していたこと、既に閉鎖されたJAS認定工場のJASスタンプを押印していたことなど、「前代未聞の事件。JASの考え方を愚弄するものだった」(全木検)と指摘する。
現在、全木連が実施主体となっているJAS需要拡大を目的とした主な補助事業は、「JAS構造材実証支援事業」、「都市における木材需要の拡大事業」、「外構部等の木質化の支援事業」、また、JAS材の使用を推奨し杉材の需要拡大を目的として今年度から開始された「花粉症対策木材利用促進事業」などがある。
これらの補助事業申請者要件は建設業法の建設業者であることなどとなっており、工務店等が申請者の主体となる。これらの補助事業に応募、申請するに当たり、申請者の要件の一つに「過去3か年度内に、全木連が実施した林野庁所管事業補助金において補助金の返還命令を受けた者でないこと」と明記されている。
上記した事件でも補助事業不採択となり、補助金の返納が命じられた。今回の事件でJAS取り消し措置を受けた工場がJASを再申請するとしても1年間前後、認定取得は難しいと予想される。
近年のJAS違反では2022年10月、登録外国認証機関を通じ中国の合板工場がJAS認定取り消しとなった事件がある。この時はJASと書き込まれた設計仕様に基づき購買した工務店がJAS材として使用できなくなったこと、JAS合板で販売した流通の在庫毀損問題を引き起こしたことなど、当時、ウッドショックで合板入手が困難だったこともあって混乱に輪をかけた経緯がある。
JAS認定工場の重要性
JAS工場認定を有する2×4工法の大手コンポーネント事業所では、以下のように指摘する。
「今回の事件ではJAS関係の補助事業をはじめ、当社も取引先工務店等から多数の問い合わせを受けたが、関係者のJASに対する知識が決して高くないことも痛感させられた。
2×4工法は当初からJAS材使用が法律で義務化されているが、2001年の法律改正で、国土交通大臣がその許容応力度及び材料強度の数値を指定したものは海外の規格の製材も使えるようになった(国土交通省告示1540号)ことから、これに該当する海外の製材規格も通常の2×4工法建築ではJASと同等となっている。
ただし、JAS材需要の拡大を目的とした全木連の補助事業では海外機関が認証したJAS以外の認定材は補助対象外と明記されている。補助事業以外の通常の2×4工法建築においても、JAS工場認定を持たない大手住宅会社がJAS同等材として輸入し、JAS工場認定を持たない提携先2×4コンポーネントに材料支給するケースでは、当該住宅会社向けに支給材を加工納品する場合は輸入元がJAS同等であることを証明できるが、支給材料の余りを提携先でない住宅会社、ビルダー、工務店等に販売する場合、JAS同等であることを証明できなくなることも理解してほしい。
こうした支給材の余り材を転用する行為は原価0円と言ってもよく、認定工場は迷惑している。2×4工法用製材は構造材だけでなく、枠組壁工法用枠材は当然のこと、短尺加工される各種転び止めまで、すべての製材でJAS材またはJAS材同等であることが義務付けられている。材料のなかには短くカットするためJASスタンプが押印されていないものもあるが、それらを含めJAS材であることは私たちがJAS認定工場であり、選別格付技士認定を有したものが管理し出荷証明することで甲種2級等の品質が担保されている」。
2×4工法ではJAS材であってもプレカットすることでJASスタンプ等がない材料が出てくる。例えば長尺構造材からハイスタッドを2本取りする場合などどうなるのか。通常の2×4工法建築であればJAS材またはJAS同等材を使用していることから、押印がない方の材料に改めてJASスタンプ等を押印する必要はないが、上記した補助事業ではJAS材を使用していることを証明するために提出する写真にJASスタンプ等がない場合、差し戻される恐れがある。JAS認定工場であればJASスタンプ等を押印することができ、出荷証明も提出することができる。ただし、既にJAS等の押印がある材料に改めて認定工場のJAS等のスタンプを押印することは違法となる。
JAS事業ではAQ認証も補助対象外
今回、全木連のJAS材需要拡大補助事業「都市木材需要拡大事業」で注目される動きがあった。応募者、特に大工、工務店、ビルダー等の最終需要家でJAS材に対する理解に温度差があることから、同事業公募を開始した後の8月1日に「写真撮影の手引き」資料を追加した。この追加資料では、①強度等級表示があってもJAS製品でない場合があり同事業の補助対象外であること、②海外機関が認証したJAS以外の認定材は同事業の補助対象外であること、③JASと同等の性能があってもJAS以外は同事業の補助対象外であることが明記された。
例えば木材の耐久性については、製材のJAS(JAS1083)にK1からK5まで保存処理の性能区分が規定されている。一方、JASに規定されていない新しい木質建材の認証を行う日本住宅・木材技術センター(東京都江東区)は優良木質建材等認証(AQ)認定を実施しており、木材の保存処理の性能区分についてもJASのK4相当がAQ1種、K3相当がAQ2種、K2相当がAQ3種となっている。
しかしながらJASとAQが同等の性能であってもJAS以外は同事業の補助対象外となっており、AQ認証材も補助対象外となる。ただし、非JAS材(無等級材)を原材料とする場合でもJAS認定工場で木材保存処理が行われれば同事業ではJAS材として補助対象となる。
1974年に建設省が技術基準を定め、オープン化された枠組壁工法(2×4工法)では、JAS材義務化が規定されたが、2001年の法律改正で海外の規格の製材も使えるようになった。これによりJAS材使用が必須だった2×4工法建築物の構造材ではNLGA等の国が認めた海外規格で格付けされた製材もJASと同等に使うことができるようになったが、同事業では海外機関が認証したJAS以外の認定材として補助対象外となる。
ちなみに2×4工法構造材における品質基準の一つである「Jグレード」をJASと思い込んでいるケースが見受けられるが、Jグレードは日本側の製材需要家と北米等の製材産地側が相対で定めた独自の品質基準であり、たとえJASの品質より優れた品質であっても、同事業では補助対象外となる。地域材需要拡大の一環として、原産地証明(トレーサビリティ)などと連結させ、JAS同等などの表現を用いて独自の品質基準を策定するケースがある。こうした独自の品質基準がたとえJAS以上であったとしても同事業の補助対象外になる。
同事業で採択された事業者は事務局(全木連)に対し、荷受け検収写真、施工写真、内観写真、外観写真の提出が義務付けられている。特に施工写真ではJAS構造材の種類ごと、部材種ごと(柱、梁、壁、床等)にJAS押印等が判別できるようにアップ撮影するといった指示が記載されている(下図)。実際にはJAS材を現場やプレカット工場で加工する段階でJASマークの箇所が切除され写真でJASマークが確認できないこともあるが、その場合は交付申請時にJAS製品であることの証明書提出が義務付けられている。
JASは最低品質基準だが唯一の公的基準でもある
建築物の木造・木質化は国が率先して取り組むべき重要課題と位置付けられ、2010年10月に「公共建築物等木材利用促進法」が制定され、低層の公共建築物は木造を優先するとともに品質基準はJASと明示された。同法は21年10月に民間建築にも木造を推進する「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」として改正され、同様に品質基準はJASとなっている。
ビルダー、工務店のJAS材に対する意識はまだ低い。非住宅木造建築に取り組んでいる事業者はJASが大前提であることを理解しているが、4号特例対象に分類される新設木造住宅では、2×4工法や住宅金融支援機構のフラット35等を活用するケースなどを除き、木造軸組住宅に典型的だが、JASが必須となっておらず、取り組みが緩いまま今日に至っている。
しかしながら25年4月着工分から4号特例が見直され、4号特例に分類されている大半の木造住宅は2号建築となり、建築士による確認申請時に仕様規定に基づく簡易な構造安全性検討資料の提出が義務化される。4号特例が見直されるから構造材にJAS材を使えというわけではないが、構造安全性を検討する前提としてJAS材は有効であり、30年までに導入が予定されているZEH義務化ともなれば、厳格な壁量基準、柱強度、柱太さなどが求められ、安全率を考慮して基準強度が低く設定されているJASでない構造材(無等級材)の使用は極めて困難になる(下表)。
建築基準法は第一条(目的)に「建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする」とある。建築基準法は最低基準であると明示しているが、JASも同様で、13品目を対象とした林産物JASは当該林産物の品質に関する最低基準を明示したものであるが、唯一の公的品質基準でもあることを理解してほしい。
今回のJAS違反事件、さらに昨今の建築法制度改正を踏まえたとき、ビルダー、工務店もJASに無関心ではいられないはずで、自分たちが調達する木材製品の認証がどうなっているのか、適切に把握する必要がある。
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