住宅生産の要であるはずの大工。その人口は減る一方だ。危機感の表れか、大工を社員化しようと試みる工務店も増えている。しかし、そもそも今の大工・工務店の世界に問題はないのか?『住まいづくりのこれから ○○大工 NEO工務店 シン旦那』の著者のひとりである芝浦工業大学教授・蟹澤宏剛さんに、大工と工務店の喫緊の課題は何か聞いた。
社員大工しか打ち手はないが
大手も攻勢強める
2020年の国勢調査では、大工人口の4割が60歳以上。このままだと2035年には20年の半分、45年には3分の1にまで減ると予測している。プレカットが普及し、大工が減り続ける中でも一定の着工数が保たれてきたが、いよいよ限界だろう。
大工不足・減少の解決策は、もはや社員大工以外にはないと考える。大手ハウスメーカーも大工の社員化に乗り出している。全国的には、数百人単位で大手が、社員として大工を採用していくことになり、工務店が大工を社員化するハードルはどんどん上がっていく。
再び2020年の国勢調査の結果をみると、10代の大工は2000人程度しかいない。この数字があまり変わらないとして、少なく見積もって年間300人の高卒者をハウスメーカーが採用すると考えると、5年間で1500人が大手に雇用される。工務店が採用できる10代の大工は5年間で500人、年間100人しかいないとことになる。ゼネコンも高卒採用に力を入れ始めているし、一方では大学進学者も増えている。工務店が地元の工業高校から人を採用できなくなっている現状がある。
1級技能士と現場の差
大工ではない「大工」像が必要
外国人技能者の問題からも大工の世界の課題を感じている。2027年から始まる育成就労制度では、特定技能2号の水準に達すると5年を超えて日本に在留できるが、大工では成立しないと考える。
なぜなら、1級建築大工技能士の取得が要件になるから。今の現場とは乖離した伝統的な技能が必要で、難易度が高い1級を取得するのは不可能に近い。日本人の大工にとっても、1級は資格のための資格と化している。
そもそも「躯体にこだわる必要はない」というのが私の持論。家づくりの現状を考えれば、建築大工ではなく、例えば「木造住宅仕上げ大工」など、新しい職種名をつくり、ボードや床をきちんと張れるかといった点で技能の展開を図ればよいと考える。
とにかく、来る大工の半減に備えるためには、新しい大工の概念(木造住宅仕上げ大工)をつくって、旧来の大工像から脱却しなくてはならない。大工の世代交代を待っていては間に合わない。
設計も施工も外注なら
工務店の存在価値は?
大工仕事だけではなく、設計さえ自社でやらない工務店も少なくない。2025年4月の建築基準法改正で、伏図も描かなくてはならなくなるが、それもプレカットに外注して済ませる工務店もいるだろう。
これまでの大前提は「現場の大工に任せれば何とかなる」だったが、これがそもそもの間違い。大工は何でも知っている、といってもそれは経験値でしかない。例えば、大工は梁を、柱と柱の間で受けるような伏図にする傾向が見られる。そのほうが刻みも現場の作業も楽だから。しかし、それは親方から聞いたり、見たりして覚えただけのことで、構造上は望ましくない。設計も施工も外注だと、工務店にとって家のあらゆるところがブラックボックス化してしまう。これでは工務店の存在意義がない。
利益率が低いのも大きな問題。家を1棟建てて、粗利が補助金の額とイコールだったりする。要は価格転嫁できておらず、大工や職人にも還元されていない。これでは持続可能性がなく、工務店というビジネスモデルが成り立たない。危機感を感じている。
地域で家の面倒を見る
「店」であることに戻れ
工務店は原点に回帰すべき。地域(商圏)を限定して住宅を提供し、引き渡し後もずっとメンテナンスを引き受けるというのが本来のビジネスモデルだろう。10年間なら10年間、ある程度まで無償で対応し、その分のコストは新築時に上乗せしておく。大工の社員化に取り組んでいる工務店は、おそらくこのようなビジネスモデルを既に構築している。というよりも、その都度業者を手配しているようでは、メンテナンスは成立しない。
最近ではメンテナンス専門の多能工を抱える工務店も出ているが、大工であっても木工事以外に対応できるようになったほうがよい。例えば造作キッチンをつくっている工務店もあるが、多少割高でもメーカーのライセンスや保証に縛られることなく、自社の仕事を増やすことができる。また大工は、体力的な問題から40代で収入のピークを迎えてしまう。新築前提のビジネスモデルでは大工が年齢を重ねるにつれ稼げなくなってしまうが、メンテナンスを内製化すれば大工も働き続けられる。
「工務店」という言葉をつくったのは竹中工務店だ。工務はデザインビルド(設計施工一括方式)のことで「店」はBtoCのビジネスを表す。工務店は、デザインビルドの「店」を構えるということに立ち返るべきではないだろうか。
この記事は新建ハウジング8月20日号16面(2024年8月20日発行)に掲載しています。
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