厚生労働省が8月6日に発表した6月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)は、現金給与総額(名目賃金)に物価の変動を反映させた実質賃金が前年同月比1.1%増だった。夏のボーナスの増額が名目賃金を押し上げ、実質賃金は27カ月ぶりにプラスに転じた。しかし、賃金の上昇が個人消費の拡大につながるかは不透明で、政府の掲げる「賃金と物価の好循環」の実現は道半ばだ。
名目賃金は労働者1人当たり平均で4.5%増と、消費者物価指数の上昇率3.3%を上回った。好調な企業業績を背景にボーナスの支給が伸びたほか、2024年春闘で妥結した高水準の賃上げ率の反映が進んでいる。
実質賃金の見通しについては、7月の毎勤統計では、夏のボーナス支給の影響の剥落や、電気・ガス代補助金の休止による物価の押し上げで、再びマイナス圏に沈む可能性がある。ただその後は、中小企業での賃上げの一層の拡大のほか、8~10月使用分については同補助金が再開される。エコノミストの間では、秋以降の実質賃金は対前年同月比プラスが定着するとの見方が多い。
一方、米景気の先行き懸念の強まりに加え、東京市場では株価が乱高下しており、消費者マインドの低下につながりかねない。第一生命経済研究所の新家義貴シニアエグゼクティブエコノミストは、「消費が思うように伸びない場合、企業は賃上げ分(の人件費)を価格転嫁できなくなる」と好循環の実現に悪影響を及ぼす恐れを指摘している。
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