若手設計士のみなさんこんにちは。
前回までは、たくさんの小さな場所とつながりによって住まいを楽しく豊かにすることを語ってきました。
もっぱら図を用いてお話ししてきましたが、実際の住宅設計の場で場所とつながりはどのように生み出されているでしょうか。今回は実例の写真を見ながら、住まいのすてきな場所とつながりをじっくり見ていくことにいたしましょう。
LDKの実例で見る場所とつながり
さてはじめはLDKの作例から見ていきましょう。
現代の住まいでは居間、食堂、キッチンをワンルームで設けることが一般的になってまいりました。みなさんもプランニングをするときに「ここはLDKにしよう」と考えて大きな部屋を設けることと思います。
けれども実際にその中に3つの場所をどのように並べるか、意外と悩むことが多いのではないでしょうか。居間食堂キッチンの設け方は、同じ間取りでも何パターンも存在します。いったいどれが使いやすくてすてきなのだろうか・・・悩むところですよね。
まずは下の写真をご覧ください。ある住宅のLDKです。
ここではリビング、ダイニング、キッチンはひとつの広い部屋に収まっていますが、それぞれの場所は明らかに独特の個性を持ちながら、ほかの場所とゆるやかにつながっています。
いちばん奥のキッチンは天井が低く、カウンターによってとなりのダイニングと分かれていますが、カウンターには対面式のシンクが設けてあり、家族が顔を向け合っていっしょにいられる配慮がなされています。
またダイニングとリビングはともに天井が高くて開放的ですが、リビングは床の段差によって少し下がった位置に設けられ、床仕上げもカーペットに変わっています。
さらに腰高のキャビネットでダイニングと仕切られていますが、キャビネットの高さは家族の気配が十分伝わりやすいように低い高さに抑えられています。ワンルームの中にあって、3つの場所それぞれが個性を持ちつつゆるやかにつながっている様子がよくわかりますよね。
そしてここでもう一つ着目していただきたい部分があります。それは上の写真左端の部分です。また下の写真は同じ部屋を別アングルから見たものです。
2枚の写真を見ますと、庭に面した窓辺の部分が3つの場所間を移ろうための場所になっていることがわかります。つまりこの部屋にはL、D、Kに加えてもう一つ、移ろいのための4番目の場所が設けられているんですね。
奥からこちらに延びる造り付けの長いキャビネットによって、この移ろいの場はいっそう姿を明確に輪郭づけられています。
そしてこのキャビネットはまた、よいしょと上がって庭のデッキに出られるための出入り口でもあります。この移ろいの場はLDKをつなぐだけでなく、なんとLDKと庭をつなぐ役割まで果たしているのです。
この例のように広い部屋の中にLDKを並べるとき、すてきな場所をたくさんこしらえようという意図を明確に持つことによって、それぞれの場所はどんどん生き生きとしていってくれます。そして場所どうしのつながりも大切にすれば、広々としたすてきな一体感が誕生します。
すてきな場所がいくらたくさんあっても、工夫を重ねれば一体感は決して損なわれないものです。
たくさんの場所が凝縮されて変化に富んだワンルーム
もう一つの例を見てみましょう。下の写真をご覧ください。
この住まいでも、ワンルームの中に実にたくさんの場所が存在していることがわかります。
リビングのソファ、ダイニングテーブルに加えて、奥の窓辺には小さな小上がりのコーナーが設けられています。
そしてさらに右奥には小さくてモダンな「床の間」までがしつらえてあります。ガラスブロックの壁が柔らかく包み込んで床の間を照らしています!
下の写真は同じ部屋の別アングルですが、この位置から見ると場所の雰囲気は一変します。ダイニングとキッチンと小上がりは、実は一体の密実な存在であったことがわかります。
場所の並べ方、つながり方を工夫することで、見る位置によって奥行きが感じられたり一体感が感じられたりと、こんなに変化に富んだ楽しい住まいを作ることができるのです。
光と床段差で場所とつながりをすてきに演出する
せっかくですからもう一つ見てみましょう。下の写真の住まいもたくさんの場所であふれています。
手前にダイニングのコーナーと右奥にキッチンがあります。また正面には居間があります。
さらに左手の窓辺には読書や書き物をするためのカウンターもあります。
これらは広々としたワンルームですが、奥の居間は一段上がっていて格子のスクリーンで柔らかく縁取られ、やや独立感のある場所になっています。
ここで注目したいのは外からの光です。ダイニングとキッチンのエリアは控えめなトーンで落ち着いた明るさに抑えられているのに対して、居間は大きな窓からの光でとても明るく照らされています。そして光源となる大開口部が控え壁によってあえて隠されているため、光のコントラストはいっそう強調されています。
光というものもまた、場所の豊かさと個性を彩る大切な素材なのです。
ところで居間とダイニングとの間に段差がありますが、この段差には実は深い意味があります。
ダイニングチェアの高さはだいたい床から400ミリ程度。わりと背筋を伸ばして垂直に近い角度で座ります。ところが居間のソファ、いちばん奥に見えていますが、こちらの高さは一般にはせいぜい350ミリくらい。背をもたれてかなり斜めの姿勢で深く座ります。当然目線の高さも異なります。居間の人の目線の方がかなり低いんですね。
そこでこの例のように居間の床を少し高くしますと、居間にいる人とダイニングにいる人の目線がほぼ同じ高さで揃ってくれます。つまり両者とも楽な姿勢で目線を揃えて話したりができるのです。この段差にはそんな意味があるのです。なぜ居間のソファが庭に向かってでなく、ダイニングに向かって置いてあるのかがよくわかりますよね。
このLDKにはまだまだ魅力があります。下の写真は別のアングルからダイニングとキッチンを見たものですが、ダイニングの脇には階段室までが一体の場所として存在しています。そしてそのさらに右奥には屋外ユーティリティーからの明るい光が入ってきています。ダイニングから屋外の場所へと向かう足取りをうながすような、存在感のある並び方です!
さて、3つの住まいのLDKを紹介したら、早くも字数が尽きてしまいました。
私の話が冗長だから・・・?
はい、それもあるかもしれないですが、むしろこれら3つの住まいが、これほどまでに豊かな場所をたくさん備えているんだということなのでしょうね。
短い文章でまとめきってしまうのがもったいないほどに楽しくて魅力的な住まいたちなのです!次回もまた実例を見ながら、住まいの場所が持つ魅力をたくさん紹介いたしますね。
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