深刻な高齢化と後継者難が指摘される大工職人の世界だが、一方で建て方技術力の向上と建て方領域拡大を目指す意欲に満ちた若手・中堅が台頭している。彼らに共通するのは新設木造住宅施工にとどまらず、非住宅木造建築分野へ積極的に挑戦しようとしている点だ。
新設木造住宅一辺倒であった多くの大工職人にとって、非住宅木造建築は未経験だ。非住宅分野で建て方受注を獲得していくには経験を積み上げ、自ら構法や木質構造材等の材料を学んでいく以外に道はない。ただし、挑戦する意欲のあるなしが、その後に決定的な格差となってくるのは言うまでもない。
非住宅木造建築の建て方技術を磨く
新設住宅建て方やリフォームもこなすが、主力を2×4工法の非住宅木造建築に置く千葉県の大工集団事業所合同会社TICプランは県内の2×4工法非住宅木造建築だけで年間50前後の建て方現場を抱える。並行してCLT造の建て方も年間数件受けている。現場監督からの信頼も厚く、建て方速度、施工精度には絶対の自信を持ち現場監督からの信頼も厚く、指名受注が圧倒的に多い。現場監督に対し段取り、納まりなど現場ならではの相談にのれる点も強みだ。
「多くの非住宅木造建築現場を管理する元請側現場監督は経験の少ない若手が多く、現場に来てくれる大工職人の教育、現場監理応援、生産性に優れた建て方段取り、非住宅独特の墨出しの仕方、施工トラブルへの応急対応など相談されることは多い。うるさがられているかもしれないが、安全衛生を含め、現場の基本を徹底させるのが私のやり方だ」
同社のCLT造についてのキャリアはまだ3年ほどだが、全社一丸で建て方技術、工法習得に取り組み、今やCLT関係者間でも一目置かれる存在になっており、200㎡を超えるCLT造平屋建て建築、CLT造集合住宅など、同社特命で建て方依頼が入る。
「元々は2×4工法、木造軸組工法の新設住宅建て方専門だったが、2×4工法の非住宅大型建築に参画したことで非住宅木造建築の将来性を感じ、ATTA工法なども学んできた。CLT造は現場の休憩中にニュースでCLT造の大型木造建築のことを知り、これだ!と確信した」そうだ。早速、日本CLT協会が募集していたCLT建て方講習会に応募、社内から3人が参加し、講師だった木村建造の木村光行社長の下で一から学んだ。
「CLTについて知りたい、建て方の基本を学びたいという思いで木村さんに聞きまくった。その後、木村さんとの縁をいただき、木村さんが手がけていた茨城県つくば市の建築研究所CLT棟建て方にもお声がけいただくことができた。自分は良い人に出会うことができ恵まれた立場だが、昔からのやり方では成長することもなかった」と語る。
同社は現在、15人ほどの大工職人を動かしてさまざまな木構造建築の建て方を受注している。意欲のある若手大工職人に個別で声掛けする。
「非住宅木造建築の建て方は坪数が大きいので売上につながる。声掛けした若手大工職人には、いずれ自分の力で受注できるよう技術力を高めてほしいと伝えている。技術力を磨いた意欲のある若手大工と協業していくことで将来、より組織力、動員力のある建て方技能者集団を目指す。欧米では30階建ての木造ビルまで登場している。日本はまだ遅れているが、だからこそ今、チャンスがあると直感している」。
大工がいなくて建築が成り立つのか?
大工職人を取り巻く環境は厳しい。2020年国勢調査を元に全建総連が分析した報告書「大工の将来に関する国勢調査分析」によると、20年の建築大工数(型枠大工を除く)は30万人弱、ピークだった1980年から68%も減少している。20年国勢調査から5年近く経過し、この数はさらに減少しているであろう。同調査分析では建築大工は2035年に14万5000人、2045年に8万人、2055年には6万人水準になると予測している。
20年の建築大工数のうち、60歳以上は13万人弱(構成比43%)、30歳未満は2万人強(同7%)だが、5年近くを経過し60歳以上比率はさらに上昇している。1970年には9万4340人だった19歳以下の就業者数が20年には2560人にとどまり、建築大工数の絶対的な減少とともに高齢化も急速度で進行している。
既に表面化している事象だが、大工職人不足は今後、一層深刻な問題となっている。大工がいなくて建築は成り立つのか、しかしながら、この構造的というしかない現状を打開していく策は見えない。
一方で、新設木造住宅需要はじりじりと下降を続けている。致命的な大工職人不足が顕在化しない原因の一つは新設木造住宅需要減にもある。しかしながらこれは悪循環であり、新設木造住宅需要の低迷で建築大工の所得が伸びなければ建築大工の減少にも歯止めがかからない。
だからこそ大工職人も新たな技術を身に着ける時である。特に非住宅木造建築建て方にどうかかわっていけるかが事業継続の生命線といっても過言でない。建て方職人不足をきっかけに台頭している木造軸組や2×4工法のフルパネル建て方技術を学ぶことも必ず必要になるだろう。
大工の会、大工と設計が水平連携
さきごろ、木造大型パネルを製造するモックの千葉工場に全国から60人もの大工が集合し、大工の会全国大会が開催された。著名な建築家、構造家に加え、大型パネル、CLT、接合金物等のメーカーも多数参画したが、主役は何といっても大工だ。
主宰する木村光行氏の声掛けに呼応し、全国から意欲に満ちた大工が結集した。当日はCLT造のトレーラーハウス量産に取り組む合同会社TICプラン(千葉県香取市、椿純代表)による事業説明、TACT(ティンバー・アーキテクチャー・コンストラクション)と工務店による「大工がCLTで自宅を造る」と題した事業検討などが行われ、大工から多数の意見が出された。
この熱気を目の当たりにし、時代は大きく変わろうとしていると実感させられた。もはや、誰が「ファーストペンギン」になるかという段階を通り過ぎ、非住宅木造建築の担い手として大工が率先して関わっていく時代を迎えている。
CLT建築建て方の先がけの一人は木村光行氏だが、同氏の導きにより、多くの意欲ある大工がCLT造をはじめとした非住宅木造建築に取り組み始めている。
木村氏は「ここから価値を造る大工を目指そう。大工と設計がボーダレスに連携することで最適な答えを出していきたい」、TICプランの椿氏は「木造の可能性を信じている。挑戦、覚悟をもって事業に取り組む」と語った。
木造大型パネル製造事業のモックは「新設住宅需要の減退、特に木造持家の落ち込みで需要環境は厳しい。加えて25年4月からの建築、省エネ法制度の改正も新設木造住宅需要に影響して来よう。
一方、大工職人の高齢化と後継者難が深刻で、とりわけ腕の良い職人の確保が難しい状況だ。木造軸組大型パネルを製造する当社の大型木造パネルも、現場でのおさまりをわかる大工あってだと思う。大工手間は上昇しているが、現場の合理化が実現しないと儲けは確保できない」と指摘する。
大工の会に参加した建築集団のTACTは、「非住宅木造は軸組工法、枠組壁工法だけでなく、構造用集成材、構造用LVL、CLTといったマスティンバー系木質材料を活用した新工法もさまざま登場しており、多様な選択肢のなかで大工が建て方に取り組んで面白いと思う設計を実現していきたい。非住宅木造建築はゼネコンだけの領域ではなくなった。もとより現場で建て方を担うのは大工である。大工が非住宅木造建築の新しい工法や技術を自分のものとし、建築主体を担える時代が訪れることを楽しみにしている」と語った。
当日は参加工務店が計画するCLT造の自宅兼事務所建築にあたってCLTパネルの構造検討、CLTせり出しの工夫、材料積算資料を元にした討議が行われ、多くの大工職人が熱く語り合った。
大工の会に参加した大工は、「これからの大工は木質構造材料、木構造、接合金物など従来にはない知識の習得が求められる。経験のない大工にいきなりCLT造の建て方をやれと言っても無理だが、現場を誰よりも熟知しているのが大工だ。木質構造材料の搬入から、施工工程に即した材料仮置き、施工手順を踏まえた構造材建て方、現場に入っている大工職人の配置や差支配など、机上の管理だけでは解決し難いことが現場には無数にある。納まりがうまくいかない個所をどう納めていくかも大工の経験がものをいう。どこから工事に入り、どうやって工事をまとめていくか、職人をどのように回していくか、本来、現場監督の担当領域ではあるが、非住宅木造建築では特に現場を知っている大工の役割が重要になると思う」と指摘する。
(写真はいずれもTICプラン提供)
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