新築を超える性能向上リノベを実現するためには、国・自治体の補助金活用も有効だ。つくり手の手間はかかるが、補助金を受給することで住宅性能を高め、不動産価値も担保することができ、住まい手の満足度も高まるからだ。そこで「性能向上リノベデザインアワード2023」の優秀賞に輝いた2社3人――大庄(長岡市)社長の大竹大さんと設計の目黒剛志さん、まごころ本舗(新潟市)設計の平田未来さんに話を聞いた。
大庄 代表取締役 大竹 大さん |
大庄 設計 目黒 剛志さん |
まごころ本舗 設計 平田 未来さん |
――奇しくも、2社の受賞作品はどちらも中古物件を購入して性能向上リノベした社員の自邸(※大庄は目黒さん、まごころ本舗は平田さんの自邸)だ。それぞれのリノベのポイントは?
目黒 そもそも私たち夫婦がなぜ中古を買って性能向上リノベという選択をしたかと言うと、1つは単純に古いものが好きだから。もう1つの大きな理由は、今の中古余り・家余りの時代の一次取得は“中古購入+リノベ”で自分たちの居場所をつくっていくのが当たり前になってほしいという思いがあるからです。
当社のリノベの基本スタイルは、耐震と断熱の2大性能をできる限り上げつつ意匠性も意識するというもの。今回の受賞作『緑道を望む住まい』ではさらに、周辺の緑と暮らしを窓でつなげ、既存の梁・柱の魅力を表現することに挑戦しています。
平田 当社は買取再販がメインということもあって、既存の状態が残っているより、新築のような見た目を好むお客様が多い。コスパと性能、見た目を求める方が多いため、当社のリノベもそのニーズに合うよう、新築以上の性能・快適性・見た目を備えているのに新築よりも安い価格を目指しています。
今回の受賞作『30年後の家族へプレゼント』のポイントはズバリ屋根。仕上げ・下地ともに健全だった既存屋根を残し、太陽光パネルは、やむなく発電条件の悪い2台用カーポートでの限界の数字430W×8枚=3.64kWを設置。ここから建物に必要な性能値を逆算して割り出し、ZEHをクリアしているのが一番のポイントです。
――どちらも補助金を活用できた
目黒 工事後に長期優良住宅認定は取得したものの、秋着工ですでに長期優良住宅化リフォーム補助金の予算が終了してしまったため、わが家では申請を断念。代わりに次世代省エネ建材実証支援事業を使って200万円強の補助金が給付されたので結果的にはこれで良かったと思っています。
平田 わが家の場合は、長期優良住宅化リフォーム補助金300万円に加え、新潟市の空き家活用推進事業30万円が受給できたのが大きかったです。補助金がなかったらこれだけの性能向上は難しかったでしょうし、補助金をもらう意義を自分自身で確かめたかったというのもあります。
長期優良住宅化認定取得で補助金の獲得・税制優遇と共に、住まい手の不動産価値を担保する提案を!
また、国交省はスケルトン改修における「省エネラベル表示」の検討を始めており、これが実現すれば長期優良住宅・BELS取得は今後必須となりそう
――普段は補助金をどう利用している?会社のスタンス、体制は?
大竹 国として、新築よりもリフォーム・リノベに重点を置いた手厚い施策が続いています。私たちは補助金の額の大きさ=お客様のメリットの大きさと捉え、補助金を極力利用できる提案を心がけています。ただし、申請が通らないと着工ができないとか、工期が縛られるとか、補助金利用を前提とした工事が難しいのは確か。当社の場合は申請業務をなんとか自前で頑張っていますが、手間・コストはかなりかかっているという印象です。
目黒 特に私たちがいる新潟の場合、冬期は積雪のため工事が行いづらいという事情があり、余計に補助金のリミットや受給の難しさを感じてしまうんですよね。長期優良住宅化リフォーム補助金はもちろん、先進的窓リノベ事業2024や子育てエコホーム支援事業、自治体独自の補助金もあるので、毎年細かくチェックして対応していく必要があります。
平田 つくり手視点で補助金を捉えると、期間が限られ、給付されないリスクがあり、構造・断熱の計算、長期優良住宅・BELSの審査、申請手続きと手間がかかることばかり。費用もざっくりですが完全外注すると50万円くらいかかり、施工者・施主ともに時間と予算に余裕を持って取り組まないと大変です。とはいえ、住まい手にとっては補助金を受けることでより性能・品質が高いものを取得しやすくなるし、つくり手にとっても集客・受注の助けになっている側面は確かにあり、利用しない手はないはず。
当社では、計算から申請までを私1人でやっていますが、この数字が正しいか、これで申請が通るのか、審査後の質疑応答がうまくいくか、毎回悩みながら進めています。大変ですが、そのぶんで住まいの性能を上げて生涯快適に暮らしてほしいという「思い」で補助金と向き合っている感じですね。補助金を使う性能向上リノベをまだ経験したことのない会社にとっては、この事務作業はかなりしんどいはずで、お金はかかっても外部に助けを求めた方がメリットは大きいかもしれません。
性能向上リノベの会では、耐震診断、補強設計、省エネ計算を含め、補助金申請にかかる工務店の負担を手厚くサポート!
――性能向上リノベという選択肢がようやく知られつつあるが、集客・受注の実情と市場開拓のアイデアは?
大竹 当社が標準としているレベル(エアコン1台で無理なく全館冷暖房ができるHEATH20 G2、耐震等級3相当)の性能向上リノベをしようとすると、新築の建売よりも高額になってしまうため、金額で尻込みされるケースが多い印象です。現状は持ち家の所有者をメインターゲットに据え、そうした人に「同じ性能」という土俵で比べたら新築よりもリノベの方がお得なことをいかに知ってもらうかがテーマ。リノベの魅力はコスパだけではないけれど、経済的な優位性を知ってもらうことが第一歩になるので、両者を比較できるツールをつくるつもりです。また当社では、リノベでどこまで変わるのか、モデルハウスの壁の中を見せることで理解を深めつつ差別化しようとしています。
平田 大竹さんがおっしゃるように新築とリノベを比べると同じ性能値ならリノベの方が確実に安いし、固定資産税もリノベの方が安いため、このメリットは後々地味に効いてくるはずです。こうした税制優遇を含め、性能向上リノベの良さをもっと皆さんに知ってもらう活動をしていこうと思っています。
性能向上リノベの会では、工務店が性能向上リノベに取り組む際のボトルネックになる部分を解消するための総合的な支援をしています。たとえば、物件選定の事前相談から調査・契約・設計・工事管理・引き渡しまで、工程ごとに業務フローやプロセスを公開することで、リノベーション事業への参入障壁となる部分を解消する取り組みをしています。また、温熱計算や耐震診断、住宅ローン・補助金の申請など、各分野の専門企業による提携サービスを取り揃えているのが特徴です。この取り組みが地域工務店の拠り所になれば嬉しいです。
住まい手の方向け”性能向上リノベ”
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性能向上リノベ デザインアワード2024
2024年12月6日迄 作品募集中!
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(sponsored by 性能向上リノベの会)
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