3月19日の金融政策決定会合で、日本銀行は「2%の物価安定の目標が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至った」との判断を示し、異例の金融緩和の修正を決めた。
このマイナス金利政策解除に伴う17年ぶりの利上げにより、今や大部分の住宅購入者が利用している住宅ローン金利の上昇予測が大きな話題となっている。この事が、我々の業界にどのような影響を与えるのか、私たち住宅業界にかかわる者たちはどのように家づくりと、家を建てる人たちへ向き合っていくべきなのか。今回は、株式会社ナック建築コンサルティングカンパニーの代表である大場直樹氏、株式会社ONE STONES代表の吉安孝幸氏に話を聞いた。
株式会社ナック 取締役上席執行役員/建築コンサルティングカンパニー代表
立教大学大学院 ビジネスデザイン研究科前期博士課程修了。経営管理学修士(MBA)。株式会社ナックは1971年創業、1999年東京証券取引所市場第一部(現東証プライム)に上場(1997年の東京証券取引所市場第二部上場より昇格)。「企業は損得に非ず、常に善の道を歩み、広く社会に貢献するため発展成長を第一義とすべし」を企業理念として展開。建築コンサルティングカンパニーは、1992年の事業スタート以来、「住まいを通じ豊かな未来を創造する」を事業ミッションとし、地域密着の住宅会社支援と時代に先駆けた価値創造に挑戦
株式会社ONE STONES代表
建築家との協業や若手設計士の育成により、高いデザイン性のプロダクトを量産する試みを行い、かつて創業以来10年間でおよそ1000棟の住宅を手掛ける。創業10年を節目に事業を手放して、現在は地域ビルダーのブランド化を支援。今後はアフターデジタルの社会を見据えた新しい建築ビジネスを展開していく。
株式会社ONE STONESは、「住まいを、正す」使命として掲げ、住宅産業界の現状に一石を投じ、ビルダーとして地域の暮らしを担う誇りと喜びを取り戻すことをライフワークとする
日銀によるゼロ金利政策解除の発表後、住宅業界では住宅ローン金利の引き上げ観測が大きな話題となっていますが、この点に関していかがお考えでしょうか。
大場:まず言えるのは、17年もの間「ゼロ金利」の世の中で生きてきた我々が、いよいよ「金利」というものに対し本気で向き合わなければならない時代になった、ということです。
金利0.003%では、金融機関に100万円を30年間預けてもわずか900円程度の利子にしかならなかった。これが17年前の0.4%で計算すると、利子だけで12.7万円程度のプラス、実に141倍にもなります。(図1)
ただし、預けた際の利子が大きくなるということは、当然借りた場合の利息も大きくなるということです。特に我々の住宅業界では、住宅ローンという金額の大きなものが扱われるので、この部分への知識は必須ですね。
例えば金利1.84%で2500万円、35年間の住宅ローンを利用した場合、利息のみで約900万円分の返済が発生します。これが17年前の約3.09%で計算すると、約1600万円もの利息になるのです。
2500万円の買い物をして、利息を含めると合計4100万円を支払うことになるのですから、これから住宅を購入する人(エンドユーザー)は、今までよりもさらに「総支払額」を考えながら購入を検討しなければなりません。(図2)
特に今までの金利は圧倒的に低いといわれていた分、まだ金利が上がりきる前に、(住宅購入を)決断することが重要ですし、そのことをエンドユーザーにしっかりと伝えていくことこそが、私たちの使命だと考えています。
吉安:確かに、お客様の支払う金額は上がったとしても、それは金利が上昇した分なのであって、住宅価格が上昇したわけではありませんよね。
先ほどの例をお客様の目線で考えると、同じ(品質の)住宅を700万円高く買うことになりますよね。
大場:しかもそのお金は、住宅の品質とは全く関係のない、金融機関に支払われるものという。。。(笑)700万円あれば、だいぶ住宅の品質を上げることができるのではないかと思うのですが、吉安さんいかがでしょう?
吉安:一般的に、それだけの費用をかけられれば、断熱性能を上げ、太陽光パネルと蓄電池、それもかなりいいものを設置し。。。それでもお金が余るのではないでしょうか(笑)。
自家発電や給付金・住宅ローン控除まで考慮すると、それこそ実質的な支払いがほぼ0円となるんじゃないかと考えられます。
大場:ぜひ今度、そのスキームや仕入れルートを教えてください(笑)。ともあれ、住宅を検討している方に対し、早めの決断を促すことは我々の使命ですね。
お二人ともありがとうございます。まずは、今住宅購入を検討している方が、できるだけ早めに決断することが、どれだけ重要かということがわかりました。
では、これからの時代に住宅購入の検討を「始める」方についてはいかがでしょう。我々住宅業界にかかわる者が押さえておくことを教えてください。
吉安:購入価格が上がることはもはや避けられないと思います。金利上昇だけではなく、世の中の原価高騰や円安に起因する物価上昇の流れは、住宅も例外ではなく、建物の価格自体も上昇していて、特に年間1~30棟を手掛ける地域密着の住宅会社では、コストダウンなどでの対応には限界があります。
なので、住宅購入において生じるお金を、一時的な支出だけではなく、結婚・出産・子育て・教育といったようなライフイベントなども考慮しながら、いずれ購入した家を手放すまでを視野に入れて考えることが必要だと考えています。そのためには「デザインとは何なのか?」を追求した、本質的なものづくりの時代に突入したといえると思います。
これは、私がHPで「住まいづくりの本分に立ち戻り、他社が追随できない住まいづくりを行い、唯一無二の存在になろう。」とも謳っている「真に価値のある住まいづくり」の重要性だとも考えています。
大場:「真に価値のある住まいづくり」というと、自動車業界で人気の「残価設定型ローン」をメガバンクが扱い始めたことで住宅業界でも注目されるようになってきましたね。
かつて日本の住宅は、寿命が30年と言われていましたが、「長期優良住宅」として100年間の耐用年数を持つことを国から認定された住宅が普及するようになり、この形式のローンの重要度が増してきました。
ただ、自動車と違い住宅は、「衣食住」という人の暮らしと切っても切れないものであるため、単純に「資産価値が下がらない」だけでは他社との差別化になりません。
例えば、「徹底的に建築費用を抑える+α」といったような差別化ポイントが必要です。
吉安:私が直接住宅会社を経営していた時、多くのお客様が望んでいたのは、デザイン性の高い住宅でした。当社が創業以来、デザインを追求することを信条としてきたことと、その甲斐あってグッドデザイン賞を受賞したからというのもあるかもしれません。
ただ、私が考えるデザインとは、「限られた予算の中で」「住む人の求めることを最大限叶える」「カタチ」です。決して装飾的なものですとか、華美なものをいう訳ではありません。例えば、予算を抑えるために、部屋ごとの「間仕切り壁」をなくすことは1つの手段です。なぜなら「間仕切り壁」の役割は、部屋と部屋を区分けすることなので、壁でなくてもよい、という発想です。
足し算で機能や設備を付け足してきた日本の家づくりを、根本から見直すのにもいい時期なのではないかと思います。
同じように、現代の世の中では、ミニマリストと呼ばれる、必要最低限のもので過ごすライフスタイルも大きく注目を集めています。
「浪費が減り自分の好みや価値観がわかる」「掃除がしやすくなる」「ストレスが減る・心に余裕ができる」といったメリットが生まれることもあり、モノ疲れした現代の方々にフィットしたデザインといえますね。
大場:確かにこの考え方は、「浪費を抑える」「部資材の無駄遣いを抑える」「予算を抑える」かつ「自分らしさを表現する」といった観点からも、非常に社会性の高いものと言えますね。これからの時代に、社会性と事業性を両立させるため、私たち住宅業界にかかわる人間が持つべき必須の考え方でしょう。
ありがとうございました。金利上昇や物価高騰により、消費者の家計が圧迫されるこれからの時代、「家計」・「エンドユーザーのライフスタイル」・「デザイン」・「社会性」すべてに目を向けた家づくりが重要になりますね。住宅業界に一石を投じるお話だと感じました。
本日お話をいただいた大場直樹氏が代表を務める、株式会社ナック 建築コンサルティングカンパニーでは、住宅会社を支援する無料会員制サービス「D-mot」を提供しています。
この度ご紹介させていただいた、株式会社ONE STONES代表 吉安孝幸氏のプロデュースする住宅デザインのパースとコンセプトの一部を「D-mot」内でダウンロードいただけます。
(sponsored by 株式会社ナック建築コンサルティングカンパニー)
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