国産材構造用集成材の第二極を目指す
ヒノキを主力とした国産材構造用製材、構造用集成材、CLT製造大手のサイプレス・スナダヤ(愛媛県西条市、砂田和之代表取締役)は日本製紙釧路工場跡地を借り受け、中部電力との合弁で北海道産トドマツを主体とした集成管柱等の国産材構造用集成材、2×4工法用製材等の大型工場を建設する。2024年10月の予定で合弁新会社「釧路ウッドプロダクツ」(仮称、砂田和之代表取締役)を設立、27年4月の製材工場稼働を目指す。
新会社は資本金12億5000万円(予定)、出資比率はサイプレス・スナダヤ80%、中部電力20%。新工場は原木皮むき機、原木径級選別機、チッパーキャンター製材機械、木材人工乾燥機、集成材製造ライン、ペレット製造機械などで、設備投資額は200億円(予定)。原木消費量は操業1年目約10万立方メートル、2年目約20万㎥、3年目約36万㎥を計画する。最終的には2シフト年間50万㎥も視野に置く。
後述するように、近年、国産材針葉樹人工林を活用した構造用集成材大型工場投資が相次いでいる。サイプレス・スナダヤの釧路新工場はそのなかでも最大規模と言え、北海道の豊富な針葉樹人工林資源を活用し、欧州製の最新鋭製材・加工機械を導入することで、品質・価格・供給で安定性のある木材製品供給を目指す取り組みだ。
特に北海道産トドマツを主要な原材料とする考え方の背景には、現在、木造軸組住宅等で主力となっているホワイトウッド集成管柱やレッドパイン集成平角等の欧州産針葉樹人工林を原材料とした内外産構造用集成材に代替する国産材針葉樹構造用集成材を強く意識している。「先行する杉集成管柱等の構造用集成材量産に続くものとして、輸入材から国産材への移行を目指す構造用集成材の第二極を目指す」(砂田社長)と語る。
同社では工場稼働後、まず北海道産トドマツ等を原材料とした集成管柱及び枠組壁工法構造用製材(2×4製材)の量産から開始し、次の段階では中・大断面構造用集成材、CLTについても検討していきたいとする。また、現在の拠点である東予インダストリアルパーク(愛媛県西条市)と釧路新工場の連携(例えばラミナを釧路工場で製材して構造用集成材等を東予インダストリアルパークで製造する等)も今後、検討課題になろうとのことだ。
このプロジェクトは日本製紙釧路工場閉鎖後の地元雇用面にも少なからず影響を及ぼすことから、地元の釧路市も積極的にサイプレス・スナダヤの新工場誘致に動いた経緯がある。同社の北海道進出計画は釧路市としても実現したいプロジェクトとして早くから同社に対しコンタクトを行ってきたという。1シフトで80~90人の新規雇用を見込む。釧路事業の業容拡大とともに直接雇用、間接雇用はさらに増加してくる。
サイプレス・スナダヤは23年2月、スーパーゼネコンの一角である大林組(東京都港区)から資本提携提案を受け、大林組が同社の筆頭株主となった。かねてスーパーゼネコンが木材産業と資本提携するケースはほとんど例がない。
大林組はObayashi Sustainability Vision2050 を策定し、「脱炭素」、「価値ある空間・サービスの提供」、「サステナブル・サプライチェーンの共創」を目指しており、その実現のための施策として、木造木質化建築における川上から川下までのサプライチェーン全体を持続可能で最適なものとする循環型ビジネスモデルCircular Timber Construction®を掲げ、大規模建築のノウハウを最大限に生かした非住宅木造木質化建築に取り組むとしている。
サイプレス・スナダヤとの資本提携もこうした考え方の一環である。特にサイプレス・スナダヤの構造用集成材、CLT等の製造力、販売力は今後の大林組の木構造事業で欠くことができない存在だったといえる。今後、他のスーパーゼネコンでも能力の高い木材産業との連携が出てくるものと予想される。今回の大型設備投資でも大林組グループの協力がファイナンス面等で重要になっている。大林組に提示した釧路での大型設備投資もCSR面では問題なしとの判断だった。砂田社長は「大林組さんには、この事業を必ず成功させるため、私が北海道に骨を埋める覚悟であることも伝えた」と語る。
砂田社長に聞く
何故、北海道なのか。砂田社長に聞いた。
国産材時代といわれながら、木材自給率(国産材比率)はまだ低い。一方、欧州の主要林産国であるフィンランド、スェーデンの素材コストは杉と同等か割高で、林業・木材産業従事者の実質賃金は日本よりかなり高い。急激な円安ユーロ高で格差は拡がっている。さらに欧州産地から日本に木材製品が到着するのに1.5カ月を要する。それにも関わらず、日本市場で欧州産木材製品の競争力が高いのはひとえに1人当たりの生産性に尽きる。
当社は18年に竣工した東予インダストリアルパーク工場の中核製材機械にリンク社(ドイツ)のチッパーキャンター及び丸鋸式製材装置をはじめ、欧州の最新鋭設備を導入した。木材製品は原価率が高く、付加価値もそれほど良くないことから、生産性を高めていくことが何よりも重要だが、リンク社設備の導入により1人当たり生産性は4.5倍になった。
私たちはこうした知見、これまで培ってきた製材、木材加工ノウハウを生かし、資源が潤沢で素材生産性も優れている北海道で、従来とは全く異なる木材製品の量産を目指したいと考えてきた。既に複数の杉集成管柱量産工場が立ち上がっているが、私たちは北海道産トドマツを原材料とした国産材構造用集成材で国産材化に貢献していく。1人当たり生産性向上と欧州最新鋭製材加工設備の導入で欧州材に対抗していく。
北海道産トドマツは欧州産ホワイトウッドの主産地である中欧、北欧と緯度、気候風土も似通っており、木造軸組住宅等構造材の主要部材である内外産ホワイトウッド集成管柱と十分対抗できると考える。強度もホワイトウッドと同等のE95・F315(JAS)としていく。
林業・木材産業従事者の待遇は決して良い状況ではなく、これで次世代に林業・木材産業を受け継いでもらえるのか、この点も長年の悩みだった。山元に収益を還元するにはどうすべきか、若い人々が林業・木材産業に来てくれるにはどうすべきか、私事でなく業界として抜本的な改善に取り組む必要がある。
建基法改正で構造用集成材に追い風か
同社をはじめ、複数の大手木材事業所で国産材を原材料にした構造用集成材量産の動きが活発になっている。第一義は、国産材を活用し生産性を飛躍的に高めることで欧州産原材料に由来する内外産集成管柱に対抗していくことだ。
同時に25年4月着工分から建築基準法の4号特例が見直され、4号建築物の大半が移行する新2号建築物では構造計算書類の提出が義務化される動きにも呼応している。構造計算書類は建築基準法に基づく仕様規定でも可能だが、これでは十分な耐震性能が確保できず、最高等級である品確法の耐震等級3を実現するには許容応力度計算に基づく構造計算が最適である。
構造計算を行う際に木質構造材1本ごとに構造強度が明示されているJASの構造用集成材、機械等級区分構造用製材、構造用LVL、CLT等の木構造材料であれば構造安全性に対する信頼度が高いのは言うまでもない。こうした時代情勢の変化も同社をはじめとした各社が構造用集成材に向けた新たな設備投資を促す一因になっているのではないだろうか。
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