2020年春に突如ミラノ市を襲ったパンデミックを乗り越え、ようやく平常な日常が戻ってきたミラノ市内、今年も第62回ミラノサローネ(ミラノサローネ国際家具見本市)が4月16日から21日までの6日間にわたりミラノ郊外のFieraMilano Rhoにて開催されました。

パビリオンのセンターに位置する南エントランス。車での入場に便利。2時間後にはこの通路が来場者で埋まる
17万5000㎡の展示面積を持つ見本市会場では、「ミラノサローネ国際家具見本市」「サローネ国際キッチン見本市/FTK(隔年開催)」「サローネ国際バスルーム見本市(隔年開催)」「サローネサテリテ(若手デザイナーのプロトタイプ展示)」が併催され、国内外から37万824人が訪れました。来場者レコードを記録した2018年(Euro Cucina の併催年)の43万4509人に次ぐ史上2番目の記録です。出展数は1350社、およそ3分の1を国外メーカーが占めています。サローネサテリテ参加デザイナーは約600人でした。

快晴に恵まれた初日、開場1時間前のメインゲート(左)。今年はWebでの事前登録が徹底していたためか以前のような雑然とした熱気はなくおっとりとした雰囲気さえ感じられた。右の写真は地下鉄からの上がり口、今年の見本市のテーマを掲げたバナー
見本市開催期間に合わせ、ミラノ市内では自社のショールームや、貸しギャラリー、工場跡地、歴史的建造物などあらゆる場所を使って「フォーリサローネ」と呼ばれる展示やイベントが繰り広げられます。見本市会場に出展せず市内のみで展示というメーカーも数多く、年を追うごとにその勢いが増してきています。
FOURI SALONEと市内のようす |
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1.サンバビラ広場ではSPUN Rocking Chairが置かれ、楽しみ上手なミラノ市民がひっきりなしにやってくる。この先にはトップブランドのメーカーショールームが並ぶVia Duriniがある 2.ブランドのショールームが並ぶVia Durini、TechnoGymショールーム前には40周年記念のバランスボールがゴロゴロ… |
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3.ブレラ美術館のある一帯《BreraDesignDistrict》の深夜の賑わい 4.MOSCOVA出口を上がった広場に面したValCucineのショールーム。エントランスにはグリーンとアウトドア家具が置かれている |
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5.通りの向こうにはUnicreditタワーが浮かび上がる 6.ミラノといえばDuomo。夜11時近く、ようやく静かになった広場から仰ぎ見るライトアップされた大聖堂の荘厳なたたずまい |
こうした状況下で、近年ではミラノサローネ(ロー・フィエラ見本市会場展示)とフォーリサローネ(市内各所の場外展示)双方を包括してMDW(ミラノデザインウイーク)と呼ぶようになりました。サローネ開催期間中のミラノ市の経済効果は400億円以上と試算されており、官民一体、ミラノ市挙げての世界に類を見ない一大デザインイベントとなっています。

ロー・フィエラ見本市会場。40万平米を越える広大な敷地にマッシミリアーノ・フクサスの設計により2005年に誕生した見本市会場。16の展示パビリオンの端から端まで歩くとゆうに20分はかかる
キッチンは価値観と暮らしを最も反映する空間
筆者自らが撮影したオリジナル画像でお届けする本連載では、MDW(ミラノデザインウイーク)取材を基に、①変化する価値観と暮らしを反映するキッチン空間とデザイン、②そこから生まれる様々なニーズが作り出す革新的な技術や製品の最先端情報、の2点を軸に、独自の視点を交えて、以下の内容をお届けする予定です。
Vol.1 | MDWとEuroCucina&FTK2024の概要・トレンド |
Vol.2 | 最新キッチンデザインPICK UP・・・扉や天板、アプライアンスなど構成材ごとに詳報 |
Vol.3 | メーカーごとのキッチン展示紹介① |
Vol.4 | メーカーごとのキッチン展示紹介② まとめ:これからの暮らしとキッチン空間 |
では、ここからはまず、Vol.1 EuroCucina&FTK2024の概要とトレンドについてお伝えしていきます。
テーマは進化、斬新なレイアウト
今年のミラノサローネのテーマは《進化》。このテーマにのっとり、主催者側では、ロンバルディーニ22などの専門家とのコラボレーションによって会場構成やレイアウトを再編成し、来場者と出展社のメリットをより増大させることに注力しました。神経科学を取り入れ、来場者のストレスや疲労を軽減し、脳を刺激し興味を持続させるためのレイアウトや、体験型の企画とそのためのスペースなどの仕掛けが随所に施されました。
「EuroCucina(25th)& FTK(11th)」は東エントランス(メインゲート)直近のHall2/4に配置され、ホール内ではキッチンとアプライアンスの双方のスタンドが混在する新たなレイアウトです。

2024年会場MAP
キッチン・アプライアンス業界の関係者、デザイナー、ジャーナリストに一般市民、誰もがこの見本市で発信される新たなデザイン、素材、革新的なアプライアンスを実際に見て確認できる2年に一度のチャンスとあって、キッチン開催年(隔年偶数年)は来場者がアップするというのが(2017年vs2018年比、キッチン開催年+30%)通例です。今年はさらにメインゲートの直近というアクセスの良さが加わり多くの来場者を呼びこみ、大盛況となりました。
今年のキッチントレンドは?
ではここからはキッチン業界のトレンドセッターであるEuroCucina &FTK見本市から発信された2024年のトレンドをお伝えします。時代の要請や共通の価値観などから自ずと生まれてくる大きな潮流(トレンド)をピックアップ、キーワードとしてまとめました。
サスティナビリティ(持続可能性)
■全てのモノ・コトに対しての基盤となる。環境への負荷に配慮し循環型社会を目指す
■デザイン・素材、生産プロセス・生産ツール・物流・その他対象は多岐にわたる
■リユース・リサイクル・リプロダクト製品の加速度的な増大

イタリアの大手キッチンメーカーNobilia はスタンドの80%を2022年に使用した機材で構成、これからの見本市のスタンドづくりの指針を示している

Lagoも環境問題に向き合い100%廃棄ゼロをうたった会場づくり、材料の重量と量を減らす取り組みで物流の負荷を軽減する試みなどに実績をあげている

左:硝子とアルミで構成されている100%リサイクル可能なキッチン。この2つの素材で作るキッチンは20年ほど前に発表し、改良が重ねられている。同社は地球環境の保全のための植林などの啓蒙活動に1990年代からすでに取り組んでいる(ValCucine )。 右:100%リサイクルOKなキッチン。カラーは今年の色、ピーチファズ(Nobilia)

リサイクルガラスをワークトップに使用。アウトドアでもテーブルトップなどに多用されている素材、美しいカラーが魅力(Paora Lenti)
ボーダレス&ハイブリッド
■空間構成のボーダレス化(つながりのある空間づくり)
■ハイブリッドデザイン
■既存概念に捉われない素材・カラーなどの組み合わせや使い方が定着

キッチンリビングは広く自由な空間に、オープンで既成概念にとらわれないハイブリッドな組み合わせも定着してきた(FebalCasa)

キッチンのすぐ後ろはランドリー兼クロゼット。フルハイトドアでさらっと目隠し。展示面積を大きく取っているスタンドでは定番となった日常感満載のレイアウト(Nobilia)

若者向けのコンパクトなボーダレス空間。現実的でホットするような気楽さのあるLDK(Schüller)

《時代を超える》という形のボーダレス。レトロなインテリアデザインのキッチンを最先端のLEDで美しく照らす(Aran cucine)

クラシックデザインの定番シリーズをリ・デザイン。把手やドアの装飾などの真鍮部分をハイグロスのステンレスに、形状もストレートラインでレトロモダンなキッチンの出来上がり(La Cornue)

扉のカラーやデザインは揃えて当たり前だったこれまでの常識はどこへ?今年はカラーやデザイン、フィニッシュが違ってもびくともしないおおらかさ
インタラクティブ
■住空間の中で最もインタラクティブな空間としてキッチンの存在感を再認識
■『食とコミュニケーション』の重要性を再確認。食を介してつながり、広がる人と人とのコミュニケ―ションの輪
■人と人のみならず、スマートフォンなどを介して人と物(キッチン周辺機器)のインタラクティブな関わり

食とコミュニケーションはいつも隣り合わせ。キッチンとおいしい料理のある所、笑顔とおしゃべりが絶えません

キッチン家電と使い手との間にも広い意味でのインタラクティブな関係性が生まれています。仲介役はスマートフォンやタブレット、PC。人が近づくとモーションセンサーが「いらっしゃい」と点滅する冷蔵庫も

こちらは調理器具とIHクッキングヒーターの“会話”。IHクッキングヒーターと専用の鍋やフライパンが、ブルートゥースを通して温度管理などの情報を交換する(Asko)
アウトドア
■IN⇔OUTの境界が希薄に、内と外の一体化した空間づくり
■自然と共に在る暮らしへの希求、グリーン(植物)を生活空間に取り入れる
■アウトドアキッチンの提案、各社から

キッチンリビングに続くアウトドアリビングにはグリーンを配置する設えは欠かせない。左:PaoraLenti 右:Kettle

キッチンのどこにおいてもあるだけで目も心も癒される。壁面にキッチンプランツなどをハンギングしてデザインと実用を兼ねて楽しむスタイルも多い(Stosa/Bimnova/Nobilia)

無垢チーク材にフレームはアルミブラック塗装。TOPはシンタードストーン(セラミック)。キャスター付き(Aran Cucine)

アウトドア用に耐候性に優れたAISI316(ステンレス)を使用。キャビネットと扉はトレンドカラーのテラコッタ
スマートソリューション
■キッチンアプライアンスの分野がリードするAI・IoT(Internet of Things )などの技術革新
■デジタル技術を活用したアプライアンス(キッチン周辺機器)が多数登場

スマートハウス化で家全体のエネルギー効率を管理するエコパネル展示。テクノロジーが生み出す環境負荷への軽減を分かり易く伝えている
パーソナライズ
■多様化する価値観に対応する多種多様な選択肢が用意された

アプライアンスの世界でも、本体や把手のカラーを選んで、カラーコーディネート。
ハンドルやサイドパネルなどをユーザーが簡単に取り換えられるフレックス・デザインシステム。手軽さをアピール(NEFF)

クラシカルスタイルのラグジュアリなつまみは純金メッキとのこと
以上、エウロクチーナ&FTKで発信されたトレンドキーワードをお伝えしました。
次回は『機能する家具』と呼ばれるキッチンの2つの要素、『家具』としてのキッチンと『機能』としてのアプライアンスの双方をパートごとに詳報します。
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