若手設計士のみなさんこんにちは。
前回は小さな場所を住まいの中にたくさん並べてみました。そこで今回は、これらの場所がどのようにつながったら楽しい住まいが作れるのか、そこを考えてみましょう。
《前回連載》【善き設計士であれ】生きる楽しさ、暮らす楽しさを表現せよ
まず下の図をご覧ください。前回お見せした立体図に「こんなつながりを作り出したい」というイメージを書き込んでみました。
このように、つながりのイメージはたくさんあることに気がつきます。そしてそれらの多くは内と外とのつながりのイメージであることもわかります。
廊下を広げればそこはつながりの中心となる
さらに下の図をご覧ください。
ギャラリー部分を濃く塗り、ギャラリーに関わるつながりを赤く強調してみました。「ギャラリー」とは単純に言えば、単なる廊下以上の魅力を持つ通路という意味です。
ご覧のように内部どうしのつながりの大半は、ギャラリーとそれを取り囲む場所たちとのつながりであることがわかります。
つまりこの住まいでは、ギャラリーがたくさんの場所をつなげるコンコースになっているんですね。
このギャラリーはいわゆる「中廊下」です。両側に部屋がズラッと並んだ振り分けプランの典型的な作りです。が、この住まいではこの「廊下」は幅が1365ミリ(4尺5寸)あります。一般の住宅の廊下よりも455ミリも広いんですね。
これだけの広さがあると、通路というよりもはや一つの部屋と言って良いくらいです。端にスツールやベンチ、カウンターなどの家具造作を置いても大きな観葉植物の鉢を置いても、横を十分通れる広さなのです。
ふつうなら910ミリ(3尺)で作ってしまう廊下幅を455ミリ広げるだけで、住まいに数多くの楽しい場所とつながりがこんなにたくさん生まれてくれるのです・・・!
話が少し横にそれたけれど、これはとても大きなポイントなんです。
つながりは形をまとうと開口部になる
さて話を戻しましょう。
次の図をご覧ください。今度はつながりのイメージをもとにして、実際につながりをリアルに設けてみました。
青色で示した部分がそうです。
「なんだ、これは開口部のレイアウトじゃないか」と思われると思います。
そう、実際にはこの青色部分はやがて開口部となる部分です。
一般的なエスキースでは、間取りを決めたら壁を立てて開口部を開けてというのがスタンダードな手順だと思います。耐力壁を考慮しつつ開口部の位置とサイズを決めて、有効開口面積や有効換気面積がクリアされているかチェックする、といった手順ですね。
しかしこの手順の中に「場所どうしをどのようにつなげていくか」を加えられたら、どれだけの楽しさ豊かさが生まれてくれることでしょう。
機械的に(と言い切っては乱暴ですが)開口部を並べてしまう前に、まずそれぞれの場所が周りとどのようにつながりたがっているのかをぜひ考えてほしい。
そしてそのつながりがそのまま形になったような開口部を描いてみてほしいのです。
図の青色の部分はまさにそのような「つながりの架け橋」なのです。開口部誕生の母胎となる、楽しさ豊かさの素です。
そして大切なことをもう一つ。上の図ではまだ壁を表現してないところに注目してください。
もちろん壁はあとから設けるけれど、仕切ってしまう前にギリギリまでつながりを考えることにこだわりたいのです。
家具造作もつながりの大切な演出ツール
次の図ではいよいよ壁部分に色を入れてみました。黄色い箇所が壁です。
そしてカウンターや棚などの造り付け家具とテーブルやベンチ類の家具を茶色く塗りました。
ご覧のようにこれらの家具造作類は、場所どうしのつながりに非常に強く関係しています。
こうした家具造作類と開口部とがセットになることで、場所どうしのより強力なつながりが生まれるのです。
■場所とつながりが楽しい住まいを生み出すプロセスを振り返ると・・・
さて、ここで今までの流れを少し整理してみましょう。
①楽しくて豊かな住まいをつくりたい
②住まいを小さな場所の集まり、場所どうしのつながりで考えてみる
③まずは大ざっぱな間取りを作る
④住み手が暮らす様子を想像し、そこに小さな場所をたくさん植え込んでいく
⑤場所どうしのつながりを考える。それに合わせて当初の間取りを修正する
⑥場所の魅力にマッチするように家具造作類を並べてみる
⑦場所どうしのつながりをイメージしながら開口部を設けてみる。壁はまだまだ設けない。耐力壁も考えない
⑧開口部に合わせて家具造作類の配置を修正、場所どうしのつながりをより具体化
⑨ここまで来たら初めて壁を立てる。でも耐力壁はまだ考えない
目下ここまで作業をいたしました。
ここまで来たら、ここから先は従来のエスキースの流れで進めて大丈夫です。すでに場所とつながりの大切さは十分わかっていますから、耐力壁や細部などを検討しても、常にそれらを意識して進めることができます。
時にはあきらめも肝心
もちろんここで考えたたくさんの場所やそれらのつながりのうち、いくつかは現実的な理由であきらめざるを得ないかもしれません。
耐力壁や予算、法規の制限などの結果、せっかく考えたすてきな場所や家具、開口部などを変更せざるを得ない。そうしたことは避けがたく起こってしまうものです。
しかしどうでしょうか、もしも「いくらがんばってすてきな住まいづくりをしても、どうせ構造、予算、法規などであきらめなきゃならないんだ」と考えて何もしなかったら、当初からすてきな住まいづくりを放棄してしまったことにもなりかねません。
設計とはある意味、考え出すことと同じくらいにたくさんあきらめる作業なのだとも言えます。
この部分はこうすればすてきで楽しいのにと思いながら泣く泣くあきらめつつ進める、その繰り返しが設計という作業なのだと言えるでしょう。
3つの楽しさ実現のために30個のアイデアを出そう
おそらく一軒の住まいですてきな場所が3つあるとしたら、それらをつくり出すために20~30個くらいのすてきなアイデアがほかにあったはずです。
確率的には本当にそんな感じかもしれません。
けれども何も考えずに作った住まいには、すてきな場所はなかなか生まれてくれないものです。エスキースの過程のどこかですてきさ楽しさをたくさん考え、そしてたくさんあきらめて3つ生まれてくれるのなら、むしろ大殊勲だと思いませんか?
だってそれらの3つは現実的制約をぜんぶクリアして生き残ったのですよ。それらを生み出したのはほかならぬ、あなた自身なのです!
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