OPINION2. 収益と付加価値を考える
理念はお題目ではなく活用し続けるもの。ブレずに進むための物差しとなるほか熱意・やる気の向上につながる。また理念は算盤(利益)と合致する必要がある。小さな工務店は特殊スキルを磨き、付加価値と単価を引き上げるのが王道だ。
理念を活用し続ける
理念は「旗」としても活用できます。会社のあり方・やり方・未来を旗印として掲げ社外に発信することで、熱意の種火を持つ共感者が集まるようになります。理念の社外への発信が熱意をもつ社員を増やす一丁目一番地です。
理念を社内や協力業者会などで伝え続けることで、熱意の種火を発火させ、熱を高め広げていきます。そのなかで「理念に共感できる」「そんな仲間がいる会社に帰属意識や誇りを感じる」「会社のビジョンと自分の未来が重なる」「会社・仲間から必要とされ評価されている」といった「精神的動機づけ」でやる気が高まることを目指します。それには理念自体に熱があり、「正しい考え方」が込められ、社員が実践したい・実現したいと思うものでなければなりません。
熱意が高まり正しい考え方を理解した社員が、理念を思考・行動のベースとし、自律的に能力向上や目標・戦術の立案・実践に向かって自走していく。これが理念経営の到達点です。
このように理念はつくっておしまいではなく活用し続けるものです。理念の活用、特に理念の発信と社員の共感・行動も経営における重要な「不易」です。
高付加価値化で単価アップ
工務店の売り上げは単純化すると「1棟単価×棟数+リピート売上+紹介売上」で決まります。売り上げから原価(材料費+手間代)を引いたものが「付加価値」で、業界では「粗利」と呼ばれます。
ここから人件費や広告宣伝費、各種経費などの「販売費及び一般管理費」を引いたものが「営業利益」で、本業の利益を表します。営業利益に家賃や投資などの営業外収益を足し、支払い利息などの営業外費用を引いたものが「経常利益」で、総合的な経営状況を表します。
上記から、売り上げを増やすには①棟数増②単価アップ③棟数増と単価アップ両方④リピート・紹介の最大化が基本だとわかります。なかでも人を増やさずに実現できるのは②単価アップです。
単価アップには家づくり・サービスの高付加価値化が不可欠です。資材高騰を契機に注文住宅の単価アップを図った工務店も多いですが、顧客対応力や設計力、ブランディング力といった能力・人の部分で成否が分かれています。稲盛氏の公式にもあるように、最終的には能力の向上が不可欠。能力向上→高付加価値化→単価アップ→売上増→付加価値(粗利)増という善循環を回す。これも工務店経営における「不易」です。
付加価値(粗利)は人における基礎代謝のようなもの。 代謝が低ければ人は健康ではいられないのと同じように、付加価値(粗利)が低ければ会社も不健康になり、寿命も短くなります。
自社とその家づくりの価値を高め続け、その価値を発信しブランド力を高め続け、単価・売上・付加価値を引き上げ、利益を社員・社内に還元するのが、工務店経営の王道です。
自社独自の価値を高める
高付加価値化を進めるうえで必要になるのが以下の能力です。
①顧客・社会が求める(であろう)価値を特定する能力(顧客・社会視点)
②自社独自の価値を家づくり・サービスに落とし込み、それを提供する組織・仕組みをつくる能力(特殊スキル)
③価値を伝え、理解・納得・欲求してもらう能力(ブランディング)
②を重視し、理念や思い、能力をベースに、もの・サービスの価値を高め世に問うスタイルを「プロダクトアウト」と呼びます。尖るほどそれを求める「ドンピシャ」
顧客に深く刺さってファン化し、それゆえ理想を貫ける格好いい生き方です。ただし一定数の消費者・社会が求めるものでなければ事業規模は望めません。尖り度と事業規模はイコールです。規模拡大を追うなら③の価値の伝達を続け自ら需要を創造する=消費者・社会・市場を変えていく必要があります。
①を徹底的に行い市場に求められるであろうものを提供するスタイルを「マーケットイン」と呼びます。これまではマス層が存在し、そのニーズを特定できれば、成長・事業規模の拡大が可能でした。デフレ期の代表例がローコスト住宅です。しかし、市場が多様化しマス層がぼんやりしてきたことに加え、「考えることはどこも同じ」になりがちで差異化しにくく、マーケットインの難易度は高まっています。
もう1つの道は、顧客・社会の求めているもの・これから求めるであろうものを特定する努力を行ったうえで=顧客・社会視点をもち、自社独自の価値を追求、目指す事業規模との両立を図る「マーケットアウト」です。
特殊スキルを磨き続ける
自社独自の高付加価値を実現する能力を本書では「特殊スキル」と呼びます。
例えば、敷地と顧客要望と社会性、コスト・施工性、そして目標通り「売れる」ことをバランスできる高い設計力は特殊スキルと呼べるでしょう。
特殊スキルをコンテンツ化して発信することでプロフェッショナル、さらには第一人者として認知されます。「スキル」と「人」が自社の「プロダクト(売り物)」となり、ブランドになる。それは高単価の納得感につながります。
設計力をはじめ特殊スキルはクリエイターのほうが発揮しやすいですが、例えば徹底したオペレーション力も特殊スキルで、セミオーダー住宅や小規模リフォームではオペレーション力が差異化&付加価値(粗利)確保の源泉となります。自社の事業と組織に合わせた特殊スキルを磨き込むことが大事です。
自社ならではの特殊スキルを磨き続けることも経営における「不易」です。
この内容は「あたらしい工務店の教科書」(2024年6月30日発行、定価2420円)P8〜11でお読みいただけます。定期購読者の皆様には新建ハウジング6月30日号の付録としてお届けしています。
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