このほど新建ハウジングが発刊した「あたらしい工務店の教科書」の巻頭言では、本誌発行人の三浦祐成が工務店経営における本質の「不易」について述べている。高まる住生活産業の“不確実性”に講ずべき打ち手とは何なのか−。「人」をベースとしたあり方を提示しながら、本書のタイトル通り、“教科書”として具体に落とし込んで解説している。発売開始早々、多くの反響を頂戴したことを受け、より多くの方にご覧いただけるよう、巻頭言からOPINION1〜2まで全文公開する。
OPINION1. 人と組織を考える
巻頭言では、工務店経営における「不易」(本質)について考えていく。経営における最も重要な「不易」は「企業は人がすべて」だと理解して経営の基本にすえ、「人」が活躍し「人」が強みとなる組織を目指し続けることだ。
「不易流行」で経営する
新築需要の減少は一過性ではなく常態化するため、住宅業界もマインドセットの変更・産業構造の転換を迫られています。本書はそのなかで工務店が考えるべきこと・取るべき打ち手を整理した「あたらしい工務店の教科書」です。
基本テーマは「不易流行」(ふえきりゅうこう)としました。不易=本質を追求すること。流行=変化にあった打ち手を取捨選択すること。この両立によって自らを進化させ生き残っていくのが「不易流行」の経営です。
変化が速く大きくなる今後、従来は「不易」だったことでもアップデートを迫られ、「流行」の賞味期限も短くなっていくでしょう。本書のタイトルとした通り常に「あたらしい」経営を模索・実践し続ける必要があります。
「人」を経営の基本に
この巻頭言では工務店経営における「不易」について考えます。
経営の基本は「人・物・金」の質・量の向上とこれらの最適・最良の組み合わせを実践すること。これは変わることのない「不易」(本質)です。
特に重要なのが「人」です。「人」の質・量を向上すれば、「物」(建築・サービス)と「金」(売上げ・キャッシュ)の質・量も向上します。
住宅業界では職方を含め「人」の優先順位が低く、ある種「使い捨て」にしてきた感も否めません。ですが人手不足&転職志向が加速するなか、改めて「企業は人がすべて」だと認識し、「人」を経営の基本にすえ、「人」が活躍し強みとなる組織とすることが、工務店経営における重要な「不易」になっています。
人にはタイプがある
「人」について社長が考えるべきことの1つが、その能力を高め活躍できる組織をどう作るかです。
人のタイプは創造的な仕事が好き・得意な「クリエイター」と、ルーティン的な仕事に向く「オペレーター」に大きく分けることができます(実際は1人の中に2つのタイプが混在していますが、どちらかに分けることは可能でしょう)。
日本企業には多いのはオペレータータイプです。小規模リフォームや規格住宅・セミオーダー住宅が中心で規模が一定以上の工務店はこちらのタイプを多く採用し、標準化・マニュアル・チェックシートなどの仕組み化を徹底することで、品質と成長を両立することができます。
一方で注文住宅やフルリノベが中心の工務店、特に設計施工力を強みとする「アーキテクトビルダー」型工務店に必要なのは、広義のデザインに向くクリエイタータイプです。そもそも「アーキテクトビルダー」は社長がクリエイタータイプで、自身がデザイン業務を兼務していることも多いはずです。
どんなタイプの人を採用するか/外部化するか、また人をどう組み合わせるかは、社長が目指す家づくりや組織、言い換えれば「ビジョン」で変わります。
ビジョンと組織を合わせる
「ビジョン=どこに向かうか(ゴール・理想)」です。
例えば、「アーキテクトビルダー」型の工務店が「自分たちの理想の建築を突き詰める」というビジョンに即して、建築愛の強いクリエイターだけを集めたとします。面白くやれそうではありますが、オペレーターがいないとルーティン業務が回らない。またクリエイターは総じて収益向上の意識が低くスケール(規模拡大)には向きません。
事業規模を含めたビジョンを明確化し、採用・外部化=組織づくりをセットで実施していく。これも経営におけるあたらしい「不易」です。
熱意ある集団を目指す
京セラ創業者の稲盛和夫氏は「結果=考え方×熱意×能力」という言葉(公式)を残しました。結果を出すには能力が高い人を集める/育成することはもちろん、それだけでは足りず、「考え方=仕事や人生に対するポジティブな心構え」と「熱意=一生懸命さ・ひたむきな努力」も必要で、それを理念や行動指針、そして社長と社員・社員同士の対話を通じて社内に浸透すべきだ、ということです。
厳しい経営環境にある工務店に必要なのはこの「熱意」です。熱意ある人の集団はそうでない集団と比べ良い成果を出すのは当然です。中小企業は能力の高い人だけを採用できるわけではありませんが、稲盛氏の公式どおり熱意が高ければ能力不足を補うこともできます。
また熱意ある人・集団は社内外から応援される。熱意ある人が集まる場は清々しく心地も良く、人の採用・育成・定着にも寄与します。能力が高い人がジョインする理由になる。顧客としても仕事に熱意を持っていない人・集団よりも熱意を持って家づくりをしてくれる人・集団に依頼したいと思うはずです。
熱意の発火・延焼は、昭和的価値観のリバイバルではありますが、「成果=考え方×熱意×能力」の公式とともに工務店経営における「不易」となるはずです。
「やる気」問題を解決する
とはいえ、「仕事への熱意がある」と回答した日本企業の従業員は5%に留まるなど125カ国中最低とのデータがあり(ギャラップ社調査)、熱意のある社員は少ないのが現状。働き方改革の影響、熱意=一生懸命さ・直向きさという「昭和的価値観」への批判・冷笑もありそうです。
また熱意は「やる気=モチベーション」と重なる部分もあります。日本では教育や仕事においてやる気を重視し、それゆえ逆に「やる気が上がらない」ことが言い訳になっています。その点、クリエイタータイプは好きで得意な業務にはもともと熱意とやる気があり、さらに自社への共感があれば自ら発火して業務や能力向上に取り組みます。
オペレータータイプには、まずやる気に関わらず求める質・量をキープし続け習熟による能力向上に向かうための仕組みが必要です。そのうえで「働く時間が長すぎる」「給料が低い」といった環境面の不満要因をつぶします。
ただ、労働環境や給与は上を見ればきりがありません。熱意を持つ人を増やす・やる気を高めるうえで重要になるのが「理念」の発信・浸透です。
理念とは「会社のあり方とやり方の物差し」であり、「未来への道しるべ」です。前述のビジョンも理念の1つで、未来への道しるべとして活用できます。
理念には他に「ミッション=自分たちは何者か、何をするか」、「バリュー=ビジョンをどのように実現するか(価値観・信条)」、「パーパス=なんのために自社は存在しているのか、存在意義」などがあり、物差しとして活用します。
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