戸建て住宅を専門に手がけてきたオーガニックスタジオ新潟が、初めてマンションリノベーションに取り組んだ。マンションの一室に、オガスタ流の空間を「インストール」することに成功。社長の相模稔さんは、今回の事例をテストマーケティングとしつつ「ふたを開けてみると他社には真似できない事例になった」と、大きな手応えを得た。【編集部 荒井隆大】
新潟では25年ほど前にマンションブームが起こり、多数のマンションが建設された。同社が初めてリノベーションを手がけたのも同時期にできたマンションの1住戸で、JR新潟駅にも近く、管理状況が良好だったことから、相模さんが顧客に購入を薦めた。
設計は、長年同社の設計パートナーを務める一級建築士事務所maの山下真さん。山下さんもマンションリノベーションの設計は初めてで「マンションはフレームがきちんと決まっているのが難しく、割り切りも必要だった」と話す。
マンション特有の要素としては、室内に露出した梁が挙げられる。山下さんは、ボードを張って照明を設置し「低い天井」のように見せたり、また梁を覆うように収納をつくるといった工夫で梁の印象を弱めている。
バルコニーに面する掃き出し窓は高さがやや低いため、周囲の「しつらえ」でその印象を払拭する。内窓は、性能よりも室内の雰囲気を優先し造作で制作した。一方、共用廊下に面した玄関や寝室の窓は樹脂製の内窓を設置し、外気に接する部分にはXPS50㎜厚を施工して断熱性も確保している。
施工においては、戸建てと同等以上に大工の技能が問われるという。「マンションでは家具で空間をしきることになるので、家具をつくる大工の腕が重要になる」(山下さん)からだ。見方を変えれば「造作できる大工・工務店でなければ参入できない世界」(相模さん)でもあり、高い施工レベルを持つ工務店は強みを持てる分野ともいえる。
戸建て派もマンション派も
どちらも取り込むリノベーション
相模さんは、マンションを「パラレルワールド」だと捉える。これまでだと、同社の顧客になるのは「オガスタ(の家づくり)が好きで、戸建ての持ち家を前提に考えている
人」。マンションの購入を検討する層は「戸建てが目に入らない」ので、同社とは交わることもなかった。
ただ、工務店が手がけたマンションリノベーションは、工務店の今のフィールドと、マンションというパラレルワールドの「中間に位置するもの」と相模さん。マンションで
もオガスタらしさが発揮できれば、戸建て志向の層(「これだったらマンションでもいいかも」)、マンション検討者(「マンションでこれができるのか」)の双方を、自社の顧客として取り込むことが可能になる。
相模さんがマンションリノベーションの顧客として有力視するのが、定年が近づき、子どもも独立して夫婦2人暮らしになったりする「55歳前後」の層。マンション居住の経験がある人は、戸建てを手放し再びマンションで暮らすことを検討する傾向もあるため、自社のOB顧客を含めたマンションへの住み替えニーズが事業化のキーワードになると見ている。
引き渡し前には戸建てと同じく見学会を開催したが、集客も勝手が異なることばかりだった。戸建てとマンションを並行して検討する人は極めてまれなので「今ある名簿は通用しない」(相模さん)。普段通りに発信しても反応は芳しくなかった。
そこで、OB顧客とのコミュニケーション用につくったLINEグループ「オーナーLINE」に案内を投稿し、OB顧客に来場を促した。実際に、普段はイベントなどには顔を出さない人がやってきたりもしたという。
また新聞の折込チラシも利用した。新潟市内の3エリアに1万部を配布したところ、4人が来場。打率は2500分の1と決して悪くはなかったし、費用も3000部で1万5000円と手頃。狙ったエリアに、ピンポイントで配布できるのが大きな利点だった。今回、広報を担当した眞名垣麻衣子さんは「今までとは違う層にリーチすることができた」と話す。
この記事は新建ハウジング6月30日号3面(2024年6月30日発行)に掲載しています。
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