建築家の谷尻誠さんとBETSUDAI(ベツダイ)Inc. TOKYOのCEOの林哲平さんが手がける住宅ブランドyado(東京都渋谷区)は5月末に大阪市内で開かれた建築系のフェアに登壇し、マーケティング視点から同ブランドの今後の事業展開などについて語った。その模様を特別に全文書き起こしで公開する。
谷尻:私は、靴をはいて中庭に傘をさして、台所と部屋を移動するような、ボロい家で育ちました。風呂は五右衛門風呂で、毎日まきを割らされて、毎日夕方になると遊びを中断して風呂を沸かすのが僕の仕事でした。なぜこのような貧乏な家に生まれたのかというのが僕の成り立ちで、このコンプレックスが逆に建築に進んで、きれいな家に住みたいという思いを突き動かしたのだと思います。きっかけはこの家にあるのではないかと今も思っています。
小中学生の頃の僕は、ドラえもんののび太のように、自分で何かをやるというのが大嫌いで、夏休みの宿題は基本的に友達に見せてもらっていまして、期限を守ったこともありませんでした。とにかく“ポンコツ”でした。
高校時代も漫画ばかり読んでいました。インテリアデザイナーという職業は「ツルモク独身寮」という漫画で知りました。その頃はバスケットに明け暮れていたので、授業もほとんど出ておらず、朝練と新聞配達をしていたので、眠くて授業中は寝ていました。
大学にはバスケの推薦で行く話もあったのですが、迷った末に専門学校に入りました。専門学校に入ってからも、夜のクラブ活動で夜な夜な街で遊ぶという。若い時代は結局、ずっと遊んでいました。
その頃にイームズの存在を知って、「こんなカッコイイ建物を作れるようになりたいな」と思いました。専門学校で初めてしっかりと勉強をやりました。授業を聞けば勉強できたので、地頭はそこまで悪くないと思います。
建売住宅に就職
谷尻:卒業後、建売住宅ばかり作る会社に就職してサラリーマンをやりました。学校の先生に「ここを受けろ」と言われて受験したら受かってしまい、そのまま就職したという感じです。自分としてはデザインがやりたかったのですが、デザインが全くない業界に5年間もいました。
5年目は1年間に一人で100棟ぐらい確認申請を下ろしていました。朝会社に行ったら、10分割ぐらいに区分された宅地に10プランを入れて、夕方確認申請を出しに行くような、まるでゲームみたいな感覚で働いていました。
その後、2000年に26歳の時に独立しました。と言っても独立しただけで仕事もなかったので、焼き鳥屋でバイトをしていました。形だけ設計事務所があるというような状態です。
焼き鳥屋のバイトをしていたので、食いっぱぐれることはない。仕事はないけれども困らないみたいな状態で、のらりくらりしていたのが26歳の頃ですね。そこから「そろそろ真面目にやりたい」というスイッチが入りました。今はまるでデキる人のように言われますが、基本はポンコツです(笑)。
ずっと劣等感があって、大学を出ていなかったり、勉強していなかったりしたことが自分の中ではコンプレックスでした。ただ、センスは誰かに習うようなものではないと。それが良くなれば勉強してきた人たちよりも、自分の方が得意で誇れるものができるのではないかと。漠然とセンスを磨くのが良いと思っていました。
「センス」とは何なのか?
谷尻:そうは言っても田舎の少年なので、センスがいいという人たちをいろいろ見ては憧れました。センスとは何なのかと辞書で調べると、「物事の微妙な感情を悟る心」と出てきましたので、バランスを取りながら人が考えないところまで、注意深く考えることではないかと思っています。
そこである頃からよく物事をいろいろ考えるようになりました。「境界」のようなものに興味がありまして、頭がいいやつとバカなやつとか、センスがいいやつとないやつとか。日本人は白黒はっきりさせることが好きですよね。「A or B」で語ることが多いなと。
「A or B」「どちらですか」と言われて、こっちが良くてこっちが悪いみたいになるのではなく、拡大して見てみると実はCという領域もあります。すべてを白黒だけの話にするのではなく、この間にあるような概念で物事を捉えられることもあるのではないかと、建築をやりながら考えるようになりました。
僕からするとハイブランドというのは建築界のサラブレッドのようなもので、大学でしっかり勉強して、建築の学会にいて、アトリエ事務所に勤めて独立するという。
片や僕のようなストリートは、どこの馬なのかわからないけれども、G-1に出なければならないような馬もいて。ただ、ストリートながらにハイブランドに対しては、ずっと劣等感を抱いていました。今はイームズのようなストリートと、ルイヴィトンのようなハイブランドがコラボするような時代が来ていて、どちらが良いというよりは、双方が持っているものが融合するような時代背景になったと感じています。
常にいろいろなことが対比的な状態にあります。僕の趣味は釣りやスノーボードをしたり、キャンプをしたり、サウナに入ってみたり。息子がバスケを始めたので、僕も最近またバスケをやり始めたり。また、若い頃から旅が好きでいろいろな所に行っていました。貧乏だけれども高いホテルに泊まりたかった。一泊だと24時間滞在できないので、常に2泊して24時間以上滞在することでそのホテルの良さを自分なりに体験したり、いろいろな建築を見たりしてきました。
「自宅に働いてもらう」という考え方
谷尻:2020年にコロナになって、ちょうどその頃に自宅を建てました。その時に考えたのは事業と作品の関係性で、お金のことだけ考えると良い作品が作れない。しかし、作品を作ろうとするとお金は置き去りになる。
これもA or Bになるのは嫌で、事業性がある作品はできないだろうか…などと考えて、経済やお金に関する勉強を始めました。これまでお金のことには全く興味がなくて、会社の売上も知らないぐらいでしたが。
会社の決算書の見方を学び、事業性や経済、投資、お金の仕組みなどを勉強していくと、日本は貯金が大好きな国だと気付きました。昔から「貯金しなさい」と言われていたせいでもありますが。
海外では貯金するよりも、株式や投資をする感覚があります。日本だと投資をギャンブルのように捉えている人たくさんいます。結果的には日本でも投資をした人の方が資産を増やしています。全然投資ができていない日本人は資産が少ないことも数字で表れています。
そこで僕は、資産にする前提で自宅を建てることにしました。1階にテナント、2階は自宅、3階もテナントで、月々85万円の返済が1階と3階の家賃と同じぐらいで、実質0円で自宅に住んでいるような形を事業として作り出しました。
建築家はお金の仕組みがわかっていませんし、不動産投資のこともわかっていないので、僕なりに勉強して実際にやってみたことで、不動産のことが少しずつわかり始めました。
noteにお金をどこから借りたとかを、全て書き出していてわかったことがあるのですが。僕が今やっている月額1000円の有料のブログみたいなものがあり、1000人ほどフォロワーがいますが、毎月僕がやってことを皆さんにシェアしただけで100万円の収入になっています。
ここで20%の手数料は取られますが(笑)、週に1回に書くだけで月に80万円の収入になるのです。そろそろ設計事務所をやめてもいいかなと思うぐらいですが。そうやって自分がやってきた経験を皆さんとシェアすることも自分がやりたいことです。
コロナ禍で仕事が来なくなった時、自分で運営までやってもいいのではないかとも考えました。「DAICHI」を作って「ネイチャーデベロップメント」というコンセプトでキャンプ場を運営したり、別荘を建てて自分が使わない時に一般に貸し出したりして、利益が上がるようなモデルを作り出しました。
本来のクライアントワークとオウンワークは別々に分かれていますが、自分でやったオウンワークを見てもらって、それをきっかけに仕事の依頼が来ることが増えています。
建つ前に売ってしまう売り建てモデルですが、こういった設計をお手伝いするような仕事が増えてきて、ラグジュアリーな層のプロジェクトから売上が取れるようになってきました。お金持ちを相手にする仕事だけがいいわけではなくて、僕の別荘は意外にローコストで作られています。では、ラグジュアリーとは何かといったことも改めて考えるようになっています。
「小さくて緻密なものに価値がある」
谷尻:北海道の美瑛に4万平米の土地を買ってこれを畑にしています。去年はずっと土作りをして、無農薬の畑作りをするといった活動をしていました。ここは本当にきれいな場所ですので、ウェブサイトを作って、いずれは別のブランド作りをしたいなと思っています。
ここに小屋を作ろうと工事を進めてきましたが、ようやく小屋ができてきました。僕はこういう大きな敷地の中の小さな建物に価値があるのではないかと思っています。建築家は公共建築の方で有名になると、住宅みたいな小さいスケールをやらなくなりがちですが、僕は大きくて雑なものよりは、小さくて緻密なものに価値があるように思います。
自分自身は住宅から始まったので、今後も住宅を続けたいと考えています。これは今からリリースするものですが、世の中の不動産会社はこんな土地だけを見せて売って、よく売れるなと思っています。
ほとんどの不動産会社さんは、これが何なのかわからないような状態の写真を載せて売っていますが。“見えている”会社では、こういった更地にこのような家が建ちますよというところまで見せます。
僕たちはボリュームをチェックして、画像生成までして、売り出すようなサービスをこれからやろうと考えています。地方の土地にもこういう建物があれば、不動産の流動性が図れるのではないかと思います。これは7月中旬のリリースを予定しています。
これは北海道の東神楽で、家をこれから作ろうと思っています。先に車を買って旭川空港に停めたままにしています。向こうに行ってはキャンプをしながら畑づくりをして、これから家作りに取りかかります。こういう広大な自然しか見えないような場所に6~7万㎡入手しました。北海道の設計事務所を作りましたし、施工会社を作りました。自分たちで土地を買って建物を建てるといったことにトライしていこうと思っています。このような古民家を作りたいです。
建築家が「大量生産」を考え、実現可能にする
谷尻:「yado」という名前を付ける前から、「yado」のようなことはやりたいと思っていました。僕はもともと建売で大量生産する世界が嫌になって、今の一点ものを作る設計スタイルに飛び込んで、「SUPPOSE DESIGN OFFICE」という会社を作りましたので。確かに良いものは作れるようになりましたが、街の風景を変えるほどにはインパクトを持っていません。
一点ものと大量生産はかけ離れたものではありますが、建築家が大量生産を考えるという行為を今ならやれそうだと思い、哲平(BETSUDAI(ベツダイ)Inc. TOKYO CEO・林哲平)さんに相談しました。
「泊まるように暮らす」というコンセプトを掲げて、以前建売をやっていた頃とは違う、これまでに培ってきたもの、デザインの知識だとかを踏まえて作ります。僕には26歳から始めて、50歳までの26年間で養われたものがあります。あとは哲平さんがやってきた経験を組み合わせながら…。
本来であれば、二人は同じ場所に立たないような仕事のやり方をしてきましたが、あえて僕のような建築家と哲平さんが組むことで、良いものができたらいいなと考えています。
《関連記事》「泊まるように暮らす」規格住宅ブランド設立―工務店に展開
谷尻:僕は建築をやりながらも、マーケティングやブランディング大好きですので、いつも他業界を見ています。その中で好きな会社が二つあります。バスケットずっとやってきたので、まずはナイキが好きです。ナイキは運動靴を作る会社にも関わらず、「この靴は素晴らしい」という広告を全く打たずに、いろんな選手とスポーツが素晴らしいということを広めている会社だと思っています。選手とともにスポーツを支えています。建築業界では「うちのは高気密・高断熱・高耐震性ですごいだろう」とやっていますが、当たり前のことしか言っていない。その当たり前のフレームの外側にある建築と、ある種カルチャーみたいなものの関係性が大事だと思っています。
もう一つの好きな会社はアップルです。彼らは「世界を変えるんだ」という思想を体現しています。
僕らは何をやるべきなのかを考えました。「yado」は「泊まるように暮らす」ということに基づいて、素敵な宿を取材したりだとか、素敵な暮らしをしている人たちを取材したりとか、建物だけというよりも建物を作った時にどういう暮らしができて、どういう豊かな気持ちになれるかみたいなことが、僕らがやるべきことなのではないかと考えました。良き生活者をたたえるようなことをやりたいです。だから今は「yado」を成長させていきたい。
インスタグラムをやったり、ウェブでメンバーを集めたりしながら、建築家が作る企画住宅を世の中に届けていけばいいなっていうのが「yado」でやりたいことです。僕らは必死で新しい企画住宅の開発をやり続けて、それを届ける方法を哲平さんに考えてもらって、彼がやってきたことを参考にしながら世の中に届けていきます。
「辞める」ことで時間を捻出
谷尻:これまでメディアに取り上げていただき、今回のような講演会で話してきました。多い時は1年間に100講義ぐらいやっていた年があって、このままだと建築家ではなく“はなし家”になるのではないかというぐらいだったので、今年はもう全部やめようと。広く浅くから狭く深くやっていこうと。基本的にいろいろ辞めようと決心して、講演会もやめます。
ならば、なぜ今ここでしゃべっているのか言われると、「yado」のことしゃべってくださいと言われたので来ました(笑) 。
今まではイベントの催しの客寄せパンダ的に呼ばれていることも多かったですが、自分たちが発信したいことに関しては足を運ぶけれど、それ以外のことはすべてやめます。
一同:笑
谷尻:他に、大阪芸大に准教授として毎週火曜日の授業を教えに来ていました。僕は大学に行ったことなかったので、4年間大学に行ったら辞めようと思って通っていましたが、「4年経ったので卒業させてください」と言ったら、「ダメだ」と言われました。火・水曜日に行くとなると時間の拘束が大きいので、本気で辞めると言ったのですが、「1日だけでも」言われました。
結局、8年間続けました。ただ、大学でお金を稼がなくても支障はないですし、辞めました。設計にできるだけ集中しようと考えて、時間を捻出しています。
大学は辞めましたが、もっと建築のことで世の中に深く伝えていくために、「CHANGER(チェンジャー)」というスクールを作って、いろいろ発信をしたり、月に1回はみんなで集まってオフ会をやったりしています。
《関連記事》谷尻誠さんがコミュニティプラットフォーム「CHANGER」創設
林哲平が考える「yado」
林:僕からも「yado」についてお話します。「yado」は1年半前に二人が半分ずつ出して作った会社です。谷尻誠という建築家は極められた建築を作るジャンルでやってこられた人です。僕は住宅業界ではフランチャイズのプレーヤーで13年ほどやっています。
「LIFELABEL」と「Dolive」という二つの住宅ブランドをやっています。このブランドを扱う工務店が全国に約300社あります。住宅フランチャイズは面白いです。戸建て住宅のフランチャイズは無数にあって、工務店業界では多くのコンサルティングがはびこっています。
《関連記事》【全文掲載】LIFE LABEL、外遊びを楽しむ規格住宅を発売
林:僕は元々20代の頃は映画の宣伝をやっていまして、建築・不動産とは全く関係のないファッションや映画などのエンターテイメントコンテンツの宣伝をやっている広告代理店で働いていました。30歳から今の業界に飛び込んできて、自分で住宅ブランドやることになりました。
僕はこの業界に来て思うのは、住宅市場も不動産市場も勉強熱心な方が多く、自分たちで家を作って売っている小売業ではありますが、なぜかメーカーという自覚はなく、ブランドを仕入れたり、販売の方法を仕入れたりされています。
そのレガシー的なルールが僕にはすごく意外に見えました。この業界は面白いなと。あるタイミングで谷尻さんから一緒にやらないかと言われて…。僕は谷尻誠のブランディングを損なう可能性があると思ったのでその時は断りましたが、その時の彼の熱意が本気で「そういうことじゃないんだ」と。
サポーズデザインオフィスができることはミニマルだが、自分たちがランドスケープを変えていくためには、日本のランドスケープデザインのほとんどは戸建住宅からできていると言っても過言ではないので、納得した上でチャレンジすることになりました。
僕はプロダクターであり、マーケッターとしてビジネスをやってきましたが、両極にいるようなこの二人がタッグを組んで生み出す作品になっています。
コンセプトの「泊まるように暮らす」というのは、すごく真新しい言葉ではなくて、ひょっとしたら昔から聞いたことがあったのかも知れませんが、谷尻さんが「どうしてもこのテーマでやりたい」と言って始めたことが今はボディになっています。
「yado」のデザインは、もちろん谷尻誠がディレクションしますが、将来的にはさらに多くのデザイナーの方々に参画していただこうと思っています。世界各地のいろいろな建築物のアイデアをインスパイアしながら、クリエイティブをしていきます。
消費者の要求を建物に
林:「yado」は三つのジャンルのハウスレベールを持っています。「yado local(ヤド・ローカル)」、「yado journey(ヤド・ジャーニー)」、「yado gallery(ヤド・ギャラリー)」の三つです。
「yado local」は、建売ができるような全て規格が決まった住宅商品です。「yado journey」には秘密があって、オープンにするのは難しいのですが、僕らの仲間になっていただいた方にはお話ししていこうと思っています。名前の通り、旅しながら建てていくのがテーマですので、そこから連想してください。
僕は十数年、住宅のフランチャイズやってきていますが、自分たちで商品を作り続けるのは難しいです。住宅商品を作り続けることが、企業のバリエーションを伸ばしていくというビジネス設計になっていますが、そこにもエビデンスがありません。
実は「LIFELABEL」と「Dolive」も今後どのようにスケールしていけば、この業界をもっと変えられるのかということを、ここ数年悩んでいます。その出口になるのが「yado journey」です。「yado gallery」は、有名な宿泊事業者とコラボレーションしながら作っていくようなデザインの企画になっています。
「yado」は「yadoマガジン」いうオウンドメディアでいろいろな情報を発信していきます。住宅メーカーとのブランドを目指されている方々にアドバイスできることがあるとすれば、住宅商品だけを展開していても、バリエーションの伸び率はどこかで止まってしまいます。
オウンドメディアを作って展開することによって、ブランドとメディアの価値が同時に上がります。工務店業界、住宅業界、戸建業界、設計業界、建築業界におられる方がほとんどだと思いますが、消費者が本当に求めている情報発信がほとんどの工務店、メーカーができていません。皆さんがどういう情報発信されているかについては、いろいろな工務店さんの発信を見直していただくとわかると思います。
消費者の要求を本当に理解しているか?
林:今日のテーマは「泊まれるモデルハウス」だったかと思います。コロナ禍から工務店業界で集客が足りないとずっと言われ続けていますが、さらにひどくなっています。
新建ハウジングの三浦(新建新聞社・代表取締役/本紙発行人)さんとの対談で、今後どういうモデルハウスが集客の鍵になるかと話ししましたが、今回のテーマである「泊まれるモデルハウス」はその一つだと思います。
「MUJIの家」や他の工務店もやっていましたが、自分が建てる予定の家に1回泊まって体験してみようっていうのは、言いたいことはわかります。しかし、なぜそこに泊まりたいのか、なぜそこで暮らしたいのか、どのようなライフスタイルで過ごしたいのかというのは違うところにエッセンスがあります。多分、その大事なコンテンツが抜け落ちているから泊まりに来ないのだと思うし、そういうキャンペーンをやってもスケールしないのだと思います。
要は消費者の要求を満たしていないのです。建築デザインは使う方々のライフライフスタイルデザインを作るものです。建築デザインがその人の暮らし方、エンターテイメント、楽しみ方を操作する。
当たり前のことではありますが、「今の業界にそれができていますか?」という話です。これを追求しなければなりません。
今の工務店や住宅市場などでは、建築基準法のルールに則った今の断熱性、気密性、耐震性、コストパフォーマンスを高らかにうたっていますが、何が消費者の要求なのかをもっと深く追求した方がいいです。それがサービスのスタンダードなのでやってしまうのはわかります。
ただ、集客が足りない状況の中、エリア内でダントツの優位性を図りたいのであれば、徹底的にこれは良い思えるものが「yado」にはあるので、ぜひ検討してみていただきたいです。
消費者の要求とは、おしゃれな建物に住むことだけではありません。いいデザインは大前提で、いろいろな要素の中の一つに過ぎません。環境とストーリーが重要になります。
たとえばホテルに泊まっているかのようなライフスタイルだったり、宿のご飯やサウナに入っているかのようなライフスタイルだったり・・・。
「こういう暮らし方したい!」みたいな消費者の要求を建物の中のコンテンツにどのように入れ込むかが重要です。それが「yado」が取り組むべき課題だと思っています。
そこで「yado」ではさまざまな国のカルチャーからインスパイアされたデザインを今後作っていこうと。それを谷尻誠がディレクションすることで、信頼性が担保されたブランドを発信できることを強みにしようと思っています。
本当にクエスチョンに対してアンサーができているのかは疑問ですが。クエスチョンといっても消費者から直接クエスチョンが来るわけではないです。なぜならプレーヤーがいろいろな問題提起を発信していることに対して、不安感や疑問点が上がってくるものだからです。
これから家を買おうという方、建築しようという方の悩みは、それらにあおられまくった結果のクエスチョンが多いです。日本を本当に豊かにするのは、その人たちが家のデザインを使って楽しむためのアンサーです。
「インフォーマー」になる
林:一つ、覚えて帰ってほしいのは「インフォーマー」についてです。インフォーマーというのは、人々が日々の生活やビジネス、学問などで意思決定を行う際に必要とする重要な要素を伝える人のことです。情報発信者であり情報提供者です。
当然ながら、うそを言うイーフォーマーはだめです。自分たちが優位的になるためのインフォームはダメです。消費者が求めている内容についてインフォーマーになろうとした時に、初めて市場調査をすることになると思います。実は何を求めているのか、何が足りないのか。この市場に向けてこの業界は何を今、展開すべきなのか。
「yado」のコンテンツはそれを勉強しやすいというか、リソースにしやすいブランドであり、情報だと思います。「yado」を一緒にやりたい人も、関係のない人も、「yado」のインスタグラムをフォローしているだけで、かなり有益な情報が入ってくると思うので、ぜひフォローしてみてください。
今、消費者から求められていることは大きく二つあり、アーキテクトデザインの提供とライフスタイルデザインを想起させるための情報提供です。「yado」はそれらを発信していくブランドでありたいと思っています。
自宅にサウナが欲しいと思った時、サウナの仕様や導線、もしくはその納まりを計画することよりも、単純にインスタグラムのリファレンスに出てくるフィンランドの湖畔で、ディテールの古いサウナを楽しんでいる人たちがいる…みたいな絵の方が、よほど想起しやすいです。
なぜそれを使わないのでしょうか。それは体験させよう、感情を動かそうといった思いがないからではないでしょうか。そもそもサポーズデザインオフィスのマネジメントはそういうところを強みとしているからこそ、ここまでの建築事務所になりましたし、僕がしている「LIFELABEL」「Dolive」でも、その辺りを強みにしています。発信力はまだ足りていません。
「yado」は、さらに具体的に想起しやすいものです。「yado」では消費者にライフスタイルデザインを体験してもらうことによって感情を誘いたい。楽しむ、驚く、気持ちいいなどの感情を体験してもらいたい。みんなを感動させたいんです。
いろいろなメディアが「ライフスタイル」という言葉を使い倒しています。どういう暮らし方がいいとか、こういう暮らし方がいいとか。それで一体何が重要なのか。例えば、その辺りの建売住宅を買って、土日はキャンプに行って、こんな暮らし方をして、あんなインテリアを買って、こういう車買って…というのを全て網羅するのは難しいです。
もちろんやっている方もいらっしゃいますし、別にそれを否定するわけではないですが。わかることは、なぜ皆んなが休みの日にそれだけのお金を払って、景色の良いデザインの良い宿に泊まるのかというところがキーになってくると思います。
「yado」で最高の住宅を作って…と言っても、サポーズ(サポーズデザインオフィス)がやっているような2億円でどのぐらいの規模のものを作るとかではないです。さすがに1000万円まで詰めるのは難しいですが、それなりの金額でもしっかりとしたデザインが展開できるような仕組みを構築しています。
そして、それを体験した方が、インフォーマーを作るインフォーマーになって伝えていくっていう、PRの点で最高のところです。
その人が発信するだけだと、受け取った人で終わってしまいますが、その人が体験することによって、その人もインフォーマーになるという。PRが波紋のように広がるという話です。
このことを自分の会社に持ち帰ることで、明日からの仕事の打合せだったり、やらなければならないことをピックアップしたりする際の観点が変わってくるかも知れません。「自分たちはインフォーマーになるんだ」というテーマは面白いと思うので使ってみてください。
「デザインしよう」というのは、単に建築をデザインする意味だけではありません。暮らし方をデザインして、街並みをデザインして、みんなの未来をデザインしていこうという気持ちの根幹が何なのか、考えを深めるべきです。
「yado」が提供するプロダクト、建築商品は皆さんのエリアで展開するものです。かれこれ10年以上、インフォーマーになろうとか、オウンドメディアをやりましょうとか、SNSの発信も頑張りましょうという話をしていますが、SNSを頑張らなければならない理由というのは、良い情報が提供できるかどうかにつながり、それが信用や顧客満足につながる部分があるからです。
そこは一緒にやっていきたいです。2024年以降、パーソナル向けの「yado localJP」が続々と建設予定となっています。「JP」というのは日本です。「yado local」では基本的に国別に表記するようにしていまして、「FI」はフィンランドです。「LA」はロサンゼルス。
なぜ「ロサンゼルス」なのか
林:このオープンの場で相談していいですか?
谷尻:いいですよ。
林:ロサンゼルスって、商品の名前があまり良くないですよね(笑)。スタッフの人たちに聞いてほしいですが。「MA」であればいいのですが。これはなぜ「ロサンゼルス」なんですか?
谷尻:アメリカは広いので(笑)。
林:ロサンゼルスは格好良くないと思ってしまいました(笑)。変えられますか?立ち上がって1年半ぐらいのサービスですので。デザインは作っていますが、まだ仮だと思ってください。アメリカだけ都市名ですか?
谷尻:アメリカの国名にするということよりも、旅の行く先を決める時に発してしまう地名で良いのではないかと思いました。その方が「LAに行こう」となります。フィンランドのどこにあるかというのは、多分「フィンランドに行こう」の次に出るものです。アメリカの場合は「LAに行こう」と出てきそうです。
林:確かに「アメリカに行こう」よりも…。「MX」メキシコ。これは次の予定です。「NO」ノルウェー。これらは全て規格が決まって金額が決まっている「local」の商品です。
次、「journey」の天草。熊本県の天草に今、着工したところでしょうか。「journey」はロケーションデザインを作って見ながら、「yado」がデザインを引くというプランで、少し変わったプランになります。仲間になりたい方へのレセプションも行いますので、ぜひチェックしてください。
他に、トレーラーハウスとかタイニーハウスのような商品ラインアップも育てていく予定です。宿泊事業をする方が非常に多くなってきていますので、先ほども話しました泊まれるモデルハウスのようなものを体現するために展開するものです。
「みんなできるよ」と伝えたい
林:あとはサウナ。谷尻さんのインスタをフォローしている方は分かる人かと思いますが、当然、ここはやっていきます。ニュープロジェクトですよ。詳細は追って発表したいと思います。
そのほかで言えば、「yado」で宿泊事業をスタートします。皆さんにも泊まりに来ていただきたいです。場所は広島県岩子島。尾道市の対岸です。島の縁の部分に建てる計画しています。これは実際の建築デザインになりますので、チラ見せになりましたが。
せっかく谷尻さんがいますので、何か質問がある方はいらっしゃいますか? では、まずは僕から。自宅のローンに月85万円を払っておられますが、あれは谷尻さんだからできるんですか?僕でもできますか?
谷尻:一つ言えることは建物でなければだめです。そこに行きたい、入居したい、住みたい、使いたいという提案がないと。僕でなければならないことはないですが、建築家で不動産投資的なことをやっている人がいないから、自分だけができるみたいになっているのかもしれません。
ノートに全部書いたら誰でもできます。「yado」もやろうと思えば誰にだってできます。僕は自分だけができて得意がっているのはあまり好きではありません。みんなで良かったねと言い合える「3方良し」のような考え方が好きなので「みんなできるよ」と伝えたいですね。
林:そう、みんなできる!!!
谷尻:建てた後で知った言葉ですが、あれは「シュウマイ」と言うらしいです。「収益型マイホーム」。それで商標を取られているそうです。取った人に知り合いました。「yado」はこれまでのように建てて買ってもらうものではありません。そういう建設事業もありますが、自社でまず建てて、スタッフを送って家の満足度を上げて、一つ一つ整理しながら同時にショールームとして貸し出して、宿泊で売上を上げるということもできます。
林:理想ですね。
谷尻:別荘も建てましたが、うちのスタッフよりも良く働くといつも言ってます。まず風邪ひかないですね? 彼女に振られたからってメンタルが悪くなることもないですよね?(笑)
林:ちょっと待ってください!(笑)うちのスタッフよりも働くって(笑)
一同:笑
谷尻:それを超えるぐらい活躍します。人はヒューマンエラーがありながらも保てますが、建物にはそれを超える安定性がありますので。自宅を建てて、別荘を建てて、お客さんに見に来てもらうと仕事が増えます。
圧倒的な自然の中にラグジュアリーなものを建てる人がとても増えています。そういうことを指し示す事業とは相性が良いと思っています。お客さんに売るきっかけを自分たちで使いながら作っています。
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。