今回は、北海道で「北の民家」運動をリードしている武部建設(北海道岩見沢市)の家づくりのポリシーをご紹介しよう。
写真(上)の建築は北海道開拓期に北陸地域から移住してきた開拓者が「地元」地域で考えられる最高級邸宅として建築した建物を移築し、復元したもの。すばらしい材料と、建築職人も北陸から招いて建築したとされる。
しかし、積雪寒冷地という条件下において、開拓期の、それも北陸地方の建築技術では、性能的にまったく無力な存在だった。武部建設はその建物に当然施すべき高断熱高気密化を丹念に行って、日本民族の美的財産である「民家」を未来に向かって永続させるべく、北の地から情報発信をしている。
いわゆる「伝統木造派」という本州の建築の流れからは、「美しい木組み芸術の中に断熱材を入れるなどは冒涜に近い。断固反対する」というような傾向も存在する。筆者はかつて、そういったみなさんと、北海道の住宅建築研究の第一人者である鈴木大隆さんとの「対話集会」に、少数ながら北海道からの高断熱派として参加した経験がある。完全アウェーの中で、伝統的木組みの技術伝承に真摯に向き合うなみなさんの声とも正面から対峙した。
日本というマザーの地域から、北海道でその寒冷と戦い続けた同胞意識を持っていただけないのだろうかと、悲しい気分もありつつ、しかし、木組みと伝統を愛していることにも共感していた。そして、「だからこそ、高断熱高気密の技術が木造の未来には不可欠なのだ」という内語を強く持っていた。これは、同集会に参加していらっしゃった武部社長(武部豊樹さん)との共通認識でもある。
技術も原理主義化する本州以南と普遍化志向の北海道
本稿の企画段階で編集部から示された主要なテーマは、「高断熱高気密という性能向上が、先駆者である北海道から全国に広まり、各地域で先進的なビルダーが真摯に住宅性能改革に取り組み、強いユーザー支持を受けています。これは大変喜ばしいことです。しかし、性能向上の次に住宅業界がどのような未来を見据えるべきか、その羅針盤が明確に見えていないのではないでしょうか」というもの。
いろいろな「住宅性能向上コンテスト」のようなイベントが本州地域で情報発信され、大きなムーブメントになっていることは、ユーザー目線で考えても大変喜ばしいことだ。
しかし極端な例では、ユーザーの立場でありながら、断熱気密をあたかもプロ目線のように「かたる」というようないびつな傾向まで現出してきているようだ。ある寒冷地域の建築人が「本州地域ではこういったテーマについても、先鋭化し、“原理主義化”競争のような方向に流れて行きやすい」と述べられていたが、そういった傾向はこと北海道では、あまり聞いたことがない。
北海道では、困難極まりない日本民家の軸組構法での性能向上という未踏の領域について、建築人はともに考え、ともに悩み、ともに解決するという産官学の連携での協働が強く働いて、知識が皆等しく共有化されることの方に向かったのだと、わたしたちは考えている。
そのことは素晴らしかった。そのためそのプロセスでは排他的ではなく誰にも共通理解が進んで、わかりやすいレベルまで技術を落とし込むことができたのだから。結果として容易に温暖地域に技術が伝播された。
したがって、編集部からの問いには、おのずと今の北海道の作り手の現在地がそのまま返答になるのではないだろうか。北海道で伝統工法に強いこだわりを持つ武部建設の家づくりの姿勢がそのまま回答になるように思う。
「墨付け線」を半分残す―高断熱高気密と伝統木造
いま、住宅建築は高コスト化の結果としての需要不足が深刻化していると言われる。一方で、技術の省略化・簡略化によって、大工技能それ自体の「限界技術化」の事態も加速度的に進行している。また、公共建築の「コンクリートから木造へ」の流れも加速していく趨勢にある。
いわゆる大工技能にとって、大きな分水嶺が間近に迫っていると思われる。こういった中で、地道に「大工の養成」に取り組んできた武部建設には多くの大工職希望者が入社している。なかには大卒女子という人材もいるという。
武部建設は、地道に木造建設の需要に対応して、現場仕事で多くの大工職を育ててきた。住宅に限らず、ワイン工場などの大型木造建築の受注も活発化している。
そういったいわば「マーケティング」的な視点から話題を向けると、武部社長からは、「やはり現場的な、ものづくりの核心こそがすべてなのだと考えている。墨付け線は大工仕事の基本だけれど、その線を半分残すという、木を扱う職人技量の発展にこそ、未来はある」という言葉が返ってきた。それこそ「現場感覚」なのだろう。
墨付けを半分残す、というのはそこまでの「現場精度」こそが、高断熱高気密の技術にいのちを吹き込むのだという確信につながった。防湿層・防水層と断熱層、ビニール1枚、透湿シート1枚にかけた高い現場施工精度は、伝統工法・大工技量の深化によって担保されるというわけだ。
そのような大工技量の進化に対して北海道からその核心的ないのちを吹き込んでいこうという姿勢。この志向には、性能競争レベルではない次世代の建築技術発展の要素を見る思いだ。
筆者の予測としては、大工不足はさらに加速していって、やがて希少戦力として奪い合いが常態化する未来の確度が高いと思う。地道だけれど、こういう企業姿勢は、きわめて戦略性の高い志向に違いない。
《次回に続く》
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