住宅性能競争によって一定レベルの住宅が定着したとき、その先の新たな住宅はどのような志向性を持って進化していくのか。その視点から見たときに、性能向上の先進地域とみなされる北海道での家づくりはどこに向かうのか—。それは言うまでもなく現在進行形であり、そこではさまざまなトライアル&エラーが展開されている。そのひとつのカタチが、北海道の住宅施策を語る上で欠かせない、空知地域南幌町の「北方型住宅展示場(みどり野ゼロカーボンヴィレッジ)」に見られる”新街区創出”だ。
「北方型住宅ZERO」の住宅展示場
みどり野ゼロカーボンヴィレッジ
全国の工務店・ビルダーのみなさんも2016年以降、この街区で展開されている「新タウン創造」の試みについては参観されてきたことであろう。その街区の創造は、人口減少社会への突入という課題に対して、ひとつの突破口を示している。それは、北海道らしい自然を「堪能」できる生き方・暮らし方の創造である。初期の街区への入居者には関西圏からの移住が複数見られ、また札幌市街地からの移転も多く見られた。
南幌町と言っても馴染みのないみなさんが多いと思うので、宅地販売に当たっている北海道住宅供給公社のHPから抜粋した広域案内図をここに掲載する。
首都圏や関西圏などの居住環境、都心へのアクセス時間・距離などを考えれば、札幌まで最短35分程度というのは至近距離と言える。それでありながら、周辺には田園風景が広がるロケーションだ。
北海道の住宅施策のリアル「住宅展示場」を提供するという地域自治体としての作戦で、それを中核とした新規造成の住宅地が広がってきている。ニセコ地域や旭川圏の東川町など、全国からの二拠点居住という需要を受け入れる地域が「勝ち組」になっているように、この南幌町もひとつの成功事例になってきている。自治体は以下のように立地的な概要を発信しているので一部抜粋する。
~札幌通勤圏内!都会に近い田舎町。南幌町は石狩平野のほぼ中央に位置し、札幌からも32km。広々とした農地を抜ける道路を使えば、渋滞は皆無。市街から車で10分の位置には高速道路ICもあり、札幌市中心部まで約35分で到着できるという便利な立地。広大な石狩平野は農業地帯でもあり、四季折々にその表情を変えます。石狩平野の中心の南幌ならではの、ゆとりある暮らしが送れます~
よりよい居住環境=住宅性能ではない
みどり野ゼロカーボンヴィレッジは、寒冷地域という人間居住にとってのマイナス要素を最先端の住宅性能技術でクリアし、その先の総合的なくらし環境としての「快適居住」を志向している動きといえる。
冒頭のイラスト図では、新街区の「街割り」イメージが描かれ、ゆとりある敷地の利用ぶりがアピールされている。寒冷地住宅の困難をむしろ逆手にとった太陽光発電の「壁面設置」に対しても、住宅地域の協定として、お互いの宅地に対して考慮しあう配置計画が貫かれている。太陽光の平等な受益というコンセプトで、個人のエゴだけではない「住む快適性」が担保されているとも言えよう。
こういう「性能を超えた暮らしの価値感」というのは、普遍的な日本人的「まち」暮らしの倫理感にも通じているかのようだ。京町家などにも見られるような相互配慮の伝統が暮らしやすさ、快適性につながっているのだ。
札幌という大都会への利便性・アクセス距離感と、田舎暮らし的な豊かさとのほどよい距離感—。現代人が求める「快適」というものがこういうカタチで進化している様子が見えてくる。
街づくり・家づくりに貫かれる
「北方型住宅ZERO」の基準
ヴィレッジでは北海道が推薦する住宅事業者「きた住まいるメンバー」である建築家と地域工務店とがタッグを組んだ。このヴィレッジの「参加メンバー」となる事業者は、日本建築家協会北海道支部と北海道ビルダーズ協会がそれぞれ選定している。ヴィレッジで注文住宅の建設を希望するユーザーは、この「参加メンバー」である建築家や地域工務店に相談するところからのスタートとなる仕組み。
住宅性能については地域自治体・北海道がその選択基準を担保し明示している。このまちに暮らしたいと考えるユーザーは、「性能のその先」を作り手と相談できることが大きな魅力と言えるだろう。
この中で人気となっているのが、地元ビルダーの武部建設(岩見沢市)とアトリエmomo(札幌市)のコラボ住宅「てまひまくらしplus」だ。
まちのコンセプトとの親和性が非常に高く、ユーザーの「住み方への希望」にもっとも近い提案だと言える。北海道での住宅の作り手として太陽光発電パネル設置については悩ましいテーマと感じている様子もストレートに伝わってくる。以下、「北海道住宅通信」に掲載されたアトリエmomo代表で設計者の櫻井百子さんの記事(2023年11月15日付)の要旨を抜粋する。
「(太陽光パネルを)壁面に設置しても、庇を出したいことからどうしてもパネルに影が架かってしまう。それを解決したのがテラスの手すり設置。太陽光ありきのZEHではなく地域に合わせたメニューを選択して小さな積み重ねでゼロカーボンをクリアしていくことに、とても共感できました。」
太陽光パネルを手すりに設置することで、課題に対して前向きな「解」を見出しているのは、非常に参考になる姿勢だ。国や東京都のような太陽光パネルへの姿勢とは違って、柔軟な行政側の対応姿勢とそれに対する事業者側の応答ぶりに、北海道の家づくりの本当の意味での「奥行き」、実現力の源泉があるのかもしれない。
このコラボで2018年以降、南幌で建てられた住宅は全6棟。ひとつの住宅地にひとつのコンセプトで建てられた事例としては、大きな成功事例だと言える。
住宅の作り手の考え方とそれを支持するユーザーの動向には、「性能を超えるあらたな価値感」の要素がある。そこには「快適」という要素についてのユーザー心理の大きな深まりがあるのではないだろうか。
《次回に続く》
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