「家業の事業承継を控えています。多くの社員が現社長である父の理念経営に共感している中、全てが対照的な私のやり方に不安を感じている社員が多いと聞きます。このままではいけないと思っているのですが・・・」
鷲見製材(岐阜県岐阜市)社長の石橋常行さんによる連載「寺子屋いしばし~心の学び処~」(寺子屋いしばし)に、愛知県で工務店を経営する40代Kさんから、こんなお悩みが寄せられた。
石橋さんは、24年前の事業承継を振り返りながら、「まずは寄り添うことが重要」だとし、押さえるべき5つのポイントを明示した。具体的な回答をみていこう。
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今回のご質問は、事業継承時の先代や現スタッフとのかかわりについてのお悩みですね。
事業継承は、企業にとって重要なフェーズです。特に我々工務店にとっては、大きな出来事になります。
私もこれまで、たくさんの企業の事業継承を目の当たりにしてきました。私自身も24年前に事業継承をしています。その中で、いくつかのポイントをご紹介します。
①後継者は先代を立てることが重要
②スタッフの心理を理解し寄り添うことが大事
③先代をリスペクトし、感謝の言葉を伝えること
④先代、スタッフの信頼を得るには一定の時間が必要
⑤慌てず、騒がず、着実に事業を引き継ぐことが大切
後継者が実の息子さんの場合、特に注意が必要なことが、「先代を立てる事」です。得てして若く、血気盛んな後継者は、直ぐに「自分のカラー(らしさ)」を前面に押し出そうと考えます。
その気持ちは、やる気に満ちたポジティブな感情から来ることが多いようです。この感情は素晴らしいことであり、経営者としての素養の大事な部分であります。
一方で、会社を引き継ぎ、新しい軸を打ち出さなければいけないという、焦りや不安の感情から来ることも多い様に思います。こちらのケースは、後継者が孤立し、周りが見えなくなっているようなケースが多い様に思います。
「黒船来襲」 新社長への眼差しは厳しい
まずもって、「慌てない」という点を意識して欲しいと思います。引き継いだ1年程度は、先代の行ってきたことを愚直に推し進めることが大事です。その姿をスタッフの方々は恐ろしいくらいに冷静に見ています。
それもそのはずです。スタッフの皆さんは、「黒船来襲」と言わんばかりに、怯え、不安に思っているはずです。新しい社長は何を始めるんだ?と。人は、変化を極端に嫌う生き物です。今まで通りが一番安心します。
社長が変わるだけでも大きなインパクトなのに、これまで自分たちが培ってきた実績や取組みも大変革となれば、防御の姿勢になることは、簡単に想像できます。
スタッフの心理をくみ取ることはとても大事です。迎合するのではありません。「いつでも門戸を開いているよ」というメッセージを発信するだけでいいのです。
スタッフの皆さんは、本来あなたの味方であり、応援者・支援者になってもらう人々だからです。まず寄り添う事を意識してみてください。
その上で、最も大事なことは、今の会社が存続している大きな要因は、先代の社長であること。言わずもがなです。間違って欲しくないのは、今の会社をつくったのはあなたではなく、先代のお父様です。そのプライドをスタッフの方々もお持ちの事と思います。
先代をリスペクトし、そのリスペクトの想いを事あるごとに口に出し、文章で出し、スタッフに発信をしてみてください。その発信を受けて、スタッフの皆さんは、黒船でも、敵でもなく、自分たちの味方であると感じるはずです。
先代のお父様も恐らく大きな不安を感じているはずです。もしかしたら、その不安から口を出してくるかも知れません。無理もない事です。口を出さずに、耐え忍ぶことは、相当な苦痛であり、難しいことです。そのためには、信頼を得る必要があります。
先は長い。慌てずに・・・
信頼は、人としての信頼ではなく、仕事人として、経営者としての信頼です。この信頼はスタッフも同様です。これまで育ててきた大切な会社とスタッフをあなたに引き継ぐという決断をした先代のお父様は、人としての信頼はしている事でしょう。だからこそ、あなたに会社を引き継ぐのです。安心してください。
しかし、残念なことに、スタッフの信頼(仕事人として、経営者として)はそう簡単には築けません。ある程度の時間を要します。そのある程度の時間というのが、概ね1年くらいという風に設定しました。
あなたには、まだ多くの時間がある。経営者としての人生は、先は長い。慌てず、騒がず、悠々と事業を引き継いでみたらよろしいかと思います。
自分のカラーは、スタッフが「支援者」になり、「応援者」になった時に、彼らと一緒に打ち出せばいいと思います。その時には、大々的に思う存分にやればいいのです。
先代のお父様に感謝をし、現スタッフに感謝をして、更なる発展を果たしてください。感謝は、口に出さないと伝わりません。『ありがとう!』の魔法の言葉を多く使ってくださいね。
私は24年前に会社を引き継ぎました。先代には、今なお感謝をしています。当時は36歳でしたので、若かった。お陰様で、たくさんの良い経験(悪い経験も)をさせてもらいました。たくさんの良縁を得ました。そして、信じてついて来てくれるスタッフに恵まれました。
だからこそ、今があるのです。
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