「今年こそリノベーション事業に参入する」「今期はリノベーションの売上2倍を目指す」ー。
そんな風に意気込んでいる経営者が多いのではないでしょうか?
リノベーション事業と言っても、そのとらえ方は各社様々であり、一定ではありません。「誰に(ターゲット)」「何を(提供価値)」まで分解すると組み合わせも多数あります。
これまでの連載では性能向上リノベーションを前提にしながら、どちらかと言うと「どのように」という手法に焦点をあててきましたが、今回は切り口を変えて「誰に」「何を」「どのように」までのつながりについて、私なりの着眼点でお伝えします。
大手2社の「誰に」「何を」「どのように」
わかりやすくするために極端な事例を取り上げます。一つ目の事例は住友林業ホームテックです。同社は「50代からの~」や「木のこだわり」(マンション向け)等複数の打ち出しをしている中で特に「旧家・古民家リフォーム」に注力し、その実績数は年間300棟以上あり、この領域では全国トップクラスと言われています(棟数は公式ホームページ上での記載より)。
1950年以前に建てられた家を旧家(古民家)と定義づけし、こうした建物の再生技術を高めるため旧家再生研究所を設立、多数のオリジナル工法で対応しています。顧客の入口としては1950年以前の木造住宅、歴史的建造物を所有する人を対象に診断や各種割引サービス等特典を受けられる「百年のいえ倶楽部」という会員組織を運営しています。
同社の施工事例ページ上「旧家・古民家リフォーム」「全面」で絞り込むと100事例ほど表示されています。中には築200年、300年といった再生事例も含まれます。
事例のみならず旧家・古民家の関連コンテンツを豊富に掲載するホームページを通じて、専門性、信頼性を伝えています(古民家関連ワードのSEO対策も強化)。
中途採用は一級・二級建築士必須で、営業と施工管理担当の人員バランスからも、技術に比重を置いている姿勢が伺えます。このように「誰に」というターゲットを旧家・古民家の所有者に定め、再生技術を磨き込んだ上で「どのように」(手法)までが一貫しております。
一方、住友不動産の「新築そっくりさん」事業は折込チラシという広告媒体の特性や掲載される家族の画像から、二次取得者の全面改修を主対象としていることが伺えます。
検索キーワードは「建て替え」「費用」に強く、一貫して「建て替えよりオトクに住まいを丸ごと再生」「新築よりお得にニーズに合わせて住まいの夢を叶えます」という訴求です。
建蔽率の問題がからんでくる都市部では、さらに機能しやすくなります。その上で診断やスピード見積り(完全定価制)といった仕組みが構築されています。ホームページ上の「新築そっくりさんイベント情報」というページには各都道府県の見学会等イベント開催状況が掲載されていますが、いかに全国各地で数多く開催しているか、伺い知ることができます。
同事業スタート時から耐震を重要視していましたが、工事の対象は幅広く平均受注工事単価は1400万円台。500万円以上の工事件数という括りで年間7000件という圧倒的な実績です。
二次取得者をコアターゲットにしながら、競合状況(失注要因)や市場ニーズの変化に応じて、断熱の仕様を強化したり、WEBを重視し広範囲から集客したり、「何を」「どのように」とのつながりが機能し続けていると言えます。
前提条件は一致しているのか?
持ち家のリノベーション、中古購入+リノベーション、性能向上リノベ再販など、いかなる事業においても、「誰に」「何を」「どのように」のつながりを常に追求しなければなりません。その“前提条件”が全社(担当する事業部)が一致している必要があります。
例えば、「無理のない資金計画で理想の家を」といった想いで中古購入リノベの事業に注力するのでしたら、商圏人口(中古流通の市場規模)を満たしているか見極め、中古購入客の特性を踏まえた上で性能、デザインとコストのバランスを考えながら提供価値を磨きこむこと。
その次にワンストップを前提に物件提案力、インスペクションからプランニング、資金計画に至るまでの関係構築といった成立要素を押さえていく必要があるでしょう。
また、性能向上リノベ再販に取り組むなら、購入顧客像を設定し、仕入れルートをはじめ、客観的に判断する査定システム(立地環境、物件、価格に対する加点・減点ポイント)が重要です。
周辺相場から売却額及び利益額を見据えた試算表、中古購入リノベと同様にスペックとコストのバランス、工期短縮化などコストダウンの追求、売却の仕組みに至るまで、パズルのピースを揃えるように整備していくことが求められます。
こうした不動産がからんだリノベーション事業にも先進事例が存在します。ただし、事例から学ぶ際には、地域性をはじめ特殊な要素はないか、組織体制、施工体制、どの程度粗利率を確保し、どのくらい最終的に利益を出しているのか等収益構造に至るまで自社にとって再現可能性が見込めるのか、自社の経営資源に適合しているのか等複眼的に判断することが大切です。
実家リノベで必要な視点
持ち家、特に実家のリノベーションを主対象にして事業展開する例があります。「誰に」に関しては、今住んでいる家のリノベーションを検討しているという人、または実家が空き家でこれからリノベーションして新たに住み始めるという人が対象です。
この中にはUターンして実家で暮らすという人も含まれます。そして「寒い」を筆頭に「地震が心配」「部屋が和室中心で細かく区切られ暮らしづらい」「片付かない」といった悩み・課題があります。
同時に「すべて壊すのではなく、リノベーションを希望する」「リノベーションでどこまでできるか、建て替えたほうが良いのか」等々、持ち家・実家リノベーション客の心理があります。こうした「誰に」を定めて、提供価値や独自固有の強みを磨きあげること、その上でようやく、どんな媒体でいかに体感してもらうか等手法・手段へとつながります。
リノベにはドラマがある
ある社長が「実家リノベーションにはドラマがある。性能向上は当然押さえた上で、お客様の大切な思い出が詰まっている住まいに寄り添っていくことは本来工務店が得意としていることであり、我々が担うべき役割の一つだ」と述べていたのが印象に残っています。
また、別の社長は「リノベーションをされたお客様の喜びは新築を大きく上回るものがある、だから我々工務店として事業化すべきだと考えた」と語っていました。
この会社の営業研修を通じて「お客様にも、社会的にも意義がある仕事をしている」という職業観が各社員からひしひしと伝わってきたことが思い出されます。
明確な「誰に」が起点になって、自社の存在意義や提供できることと紐づいているのです。そして、先が見えない時代だからこそ「『なぜ』リノベーション事業に取り組むのか」という確固たる目的意識がベースにあり、事業化の熱源になっていることを付け加えておきます。
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