能登半島地震による被災家屋の公費解体を巡り、住民からの申請は約6900棟で、石川県が推計する総数の3割にとどまっていることが分かった。被害が甚大で今月から受け付けを開始した自治体があるほか、遠方に避難していて手続きが進めにくいなどの事情が影響しているという。
県内の住宅被害は計約7万8000棟に上る。県はこのうち公費解体は約2万2000棟と推計しているが、4月16日時点で完了はわずか3棟だった。
穴水町川島の被災家屋では4月17日、重機による解体作業が続いていた。県構造物解体協会の関係者によると、1棟で1週間程度の見込みだが、残しておく家財道具が分別されていない場合はさらに時間がかかる。「避難している住民が多く、立ち会いの日程調整に苦労している」と明かす。
避難中の母に代わって解体を申請するため同町役場を訪れた千葉県の60代女性は「有事なのだから、もう少し何とかならないか」と煩雑な手続きに不満を漏らした。窓口に大勢の住民が並んで帰りの飛行機に間に合わなくなり、直前で列を離れたこともあったという。
個人財産を行政が処分する公費解体では、所有者の特定と意向確認に厳格な手続きが求められる。ただ、奥能登地方のように過疎化が進む地域では、何代にもわたって相続登記がなされず、権利関係の確認が困難な事例が少なくない。
今月1日から申請受け付けが始まった輪島市。山間集落に住んでいた坂下美代子さんは市役所で、相続未登記のため9人の印鑑証明が必要と告げられた。「(中には)名前も知らない人もいる。自分の家なのに、はんこも何も要らんでしょうが」とこぼした。
環境省は「公費解体マニュアル」で、相続人の一部の同意が取れないなどやむを得ないケースについて、代表者が責任を負う旨の書面があれば解体する「宣誓書方式」を提示。輪島市も採用する方針だが、担当者は「相続関係図を見て全員をたどるのが明らかに困難なケース」などに限られると説明する。
奥能登の別の自治体担当者は、関係者が解体後に権利を主張するなどのトラブルを懸念。「自治体が免責されるのか、環境省のマニュアルでもはっきりしない」と二の足を踏む。馳浩県知事は4月17日、岸田文雄首相との面会で、宣誓書方式を柔軟に活用できるよう民法の特例扱いを要望した。
県は公費解体を来年10月までに終える計画だが、各自治体とも手探り状態が続く。大規模火災で多くの建物が焼けた輪島市の観光名所「朝市通り」について、坂口茂市長は「周辺の公費解体を進めないと、心情的に復旧、復興が進んでいないと言われる」と心配する。
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