人材採用がうまくいきません。多額のコストをかけて採用しても“正直失敗したな”と思うことが多く・・・。
鷲見製材(岐阜県岐阜市)社長の石橋常行さんによる連載「寺子屋いしばし~心の学び処~」(寺子屋いしばし)に、大阪府で工務店を経営する48歳Aさんから、こんなお悩みが寄せられた。
石橋さんは、「能力よりも価値観を共有できること」を最重要視すべきだと説く。次世代を担う人材の育成でも定評のある鷲見製材の取り組みを交えながら回答していく。
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いつもコラムをお読みいただきありがとうございます。励みになります。
今回、Aさんから届いたものは、おおまかに3つのご相談だったかと思います。
①理念経営に合った人材を採用しているかどうか
②ミスマッチにより、コストと時間を無駄にしてしまうことが多い
③理念に共感が集まらない
人材採用は、我々中小企業にとっては、大きな課題であり問題です。
私は、「営業戦略」や「商品戦略」よりも人材戦略こそが重要を捉えており、これまで15年以上にわたりチャレンジして参りました。
この間には、ご質問者のAさんと同じ様に悩み、失敗し、迷いながら今を迎えております。ですので、Aさんのお気持ちはよく分かります。
まず採用をするにあたり、前提条件がいくつかあります。
・中小企業に、トップレベルの人材の採用は難しい
・能力値よりも共感値が重要
・入社後の教育育成の方が重要
という3つの前提条件の理解が必要です。
そもそも、中小企業である我々、特に住宅産業は敬遠されがちです。人口減少に伴い、縮小していく産業として見られています。3K(きつい・危険・汚い)に代表されるブラックな業界と若者には認知されているのです。
昨今の優秀な若者は、企業に属することなく、起業したり、フリーランスで生計を立てたりすることも多くなりました。そういった若者を自社に迎え入れるほどの魅力があるのか?と問われると、僕自身も自信がありません。
よって、トップレベル(優秀)の人材を採用しようと考えることに無理があります。僕は、「普通で良い」と思っています。その普通な若者を優秀に育てることが、経営者の仕事なのではないでしょうか?
我々経営者は、最初からショートカットをしがちです。優秀な人材ならば、「楽(らく)」ができると・・・。
でも、考えて見れば、恐らくAさんも僕も、若い頃は、さほど優秀ではなかったのでは無いでしょうか?色々な経験や失敗、挫折を経て、今がある。そう考えると、大事なことは、今現在の優秀さではないように感じます。
そもそも論ですが、「優秀な人材」と「仕事ができる人材」は全くもって別ですし、私の中でも大きく定義付けが異なります(これはまた別の機会に書きます)。
能力値にフォーカスするな
次に、人を採用する際に、能力値を見がちだという事です。中途採用の場合は、前職までの実績で能力値を図ることができるかもしれません。しかし、その実績が本当かどうか?周りに助けられての事ではないか?という事までは、中々判断することが難しいです。
新卒採用の場合は、実績はありません。建築系を卒業した学生さんでも、CADが出来ない学生さんは多数いますし、そもそも、木造住宅を授業で教わらなかった学生さんも多数いるくらいです。能力は経験と行動で高める事が出来ますので、あまり能力値にフォーカスし過ぎないことが重要です。
では、どこにフォーカスするのか?という事になります。僕の場合は、入社前の説明会や面談の際に、事業内容よりも僕自身の夢やロマン、ビジョンを「熱く」語ります。熱くというのが重要です。
正直、この“想い”の部分に共感できないと、長続きはしないというのが、僕のこれまでの経験則で分かっている事実であり、真実です。人は、想いの温度により共感の深度が変わります。高い温度で語り掛けることで、共感の深さが変わるのです。理念に共感してもらうことを諦めないで欲しいと願います。
共感という言葉を使っていますが、その先には共有というレベルがあります。共感はある意味誰でも出来る範囲です。
しかし、共有することは難しい。「それいいね」は共感でありますが、納得しているわけではありません。受け入れているのみです。
共有は、「私もそう思う!」と、自分事化した状態です。採用段階で、共有までのレベルにあれば、間違いはないと思います。その為にも、トップ自らがビジョンや夢を語ることが大事だと思います。
人を育てる覚悟が本当にあるのか
もうひとつお伝えしたいこと。それは「教育育成」が肝になるという前提条件です。
先にも書いた通り、普通の人を優秀に育てるためには、教育・育成が必要です。人を育てることは、相当な時間とお金がかかります。人の採用は、経営者が覚悟を持てるかどうかに尽きます。
一方、「普通の人以下」の人材は、教育育成しても難しいという現実があります。普通の人以下というのは、Aさんと基本的な考え方が異なる人材を指します。
Aさん自身が、その人に共感できない。等の場合がそれに該当します。それほどまでに、共感や共有は大切であると考えています。
さて、前段が長くなってしまいましたが、ご質問の回答に移ります。
①理念経営に合った人材を採用しているのかどうか
YES。理念に合わない人は、どんなに能力値が高くても採用はしません。
給与や休暇、福利厚生などの条件面で入社したスタッフは、その条件面を理由に退職をします。なぜならば、条件面でもっと優遇されている会社は世の中にたくさんあるからです。当然、会社としても努力はするものの、残念ながら、その部分が判断軸になれば、他社には勝てません。
一方、理念や想い、志といった、今どきの言葉で言えばパーパス的な所で繋がっていると、例えば、その条件面を見た時に当事者となり、一緒になって改善の方向に考えてくれる仲間になります。経営者として信用に値するのは、後者の人材です。理念に共感、共有する人のみを採用することとしています。
②ミスマッチにより、コストと時間を無駄にしてしまうことが多い
そもそも、僕は、本当の姿を見抜くという考えを払拭しています。長年の経験上、僕には人を見抜く力はありません。だから失敗することもある。その中で、僕が決めていることは、求める人物像を明確にし、そこに合致しているかを確認しています。
求める人物像の第一原則は、先に書いた「能力よりも価値観を共有できること」を最重要視しています。
また、成長意欲のある人、前向きな人、ルールを守る人、苦労を多くした人、両親を大切にしている人―という様に定めています。
その他にも、愚痴や陰口、悪口を言う人は採用しない。などといった判断軸を設定しておくと、迷いません。要するに、Aさんが一緒に働いていて楽しい人ってどんな人ですか?という事であろうと思います。
③理念に共感が集まらない
営業活動と採用活動を同じ様に考えて見て欲しいと思います。我々は、お客様にあの手この手で、自社の事を理解してもらい、共感してもらえるように努力をしているはずです。その血の滲む努力によって、1件のお客様の受注を獲得していることと思います。
そのプロセスは簡単ではない。お客様を知る努力をし、資料を作り、色々な現場や建物を見せて、イメージしてもらう。そのいつもやっている努力です。
実は、採用も同じです。そう簡単に共感はしてくれません。求職者の方々は、就職を自分の一生を決める大事なことと捉えています。だから、慎重になるのも無理はありません。学生さんや求職者の方々をお客様と思って接してみてくれませんか?大変に面倒なことですが、手間暇をかけないと、採用は難しいです。だからこそ、採用戦略が重要という事になります。
最後になりますが、人材戦略は「採用」と「教育」と「育成」が1セットです。採用がうまくいっても、教育や育成がうまくいかないことも多々あります。逆に、採用で疑問のあった人も、教育と育成で素晴らしい人材に育ったケースもあります。
入り口は採用ですが、目の前の求職者を「本気で育てよう」と思えるかどうかが一番大事なことなのかもしれませんね。
是非とも、人材戦略を構築して、良い会社にしていってください!応援しております。
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