倶知安・ニセコ地域でのSUDOホームの住宅を取材していると、普通に施主が世界中にまたがっているのがわかる。北海道ニセコ支店では打合せ先の半数以上が海外の顧客という。「この家はシンガポール人がオーナーで、シーズン中の一時期だけ滞在する」というように。リーマンショックでは豪州資本の需要に急ブレーキがかかったが、同社は日本企業らしく彼らを全力で支援し、さらに信頼関係を深めた。
一方で、アジア圏の富裕層による1棟数億円というニーズが顕在化してきているが、こういった需要に対して、同社は国際共通語である英語でのコミュニケーション対応を深化させ、それが競合対策となっている。東南アジアを主体とする彼らは、見たことも聞いたこともない後述の「RC外断熱」工法に度肝を抜かれる。「え、これはどういうユニットなの?」と聞くそうだ。一棟一棟日本人らしい技術で建築されること自体に感動するのだ。
こういう国際化の傾向はたとえば、京都の町家などでもあって、経済のボーダーレス化を反映して世界中から日本の住宅需要が強まっていることは確実だ。彼らの「投資意欲」は高い。ただし京町家の場合、外国人が入手しても数年以内に手放すとも言われている。それは「実際に住んでみると寒いし暑いから」だそうだ。
このポイントはきわめて重要だろう。日本の「製造業」としての「品質」に関わることなのだから。
この点でSUDOホームが北海道住宅市場で獲得していた「世界標準」的な住宅性能が決定的だった。ちなみに中国系のニーズでは「投資の理論」優先で品質基準が顧慮されにくい。SUDOホームの取引相手が欧米系だったことは正しい「市場創造」につながる重大要因だった。
高性能化への研究開発で生まれた革新的工法
さて、前回、地域ビルダーとしてこうした海外顧客と真正面から「市場開発」に取り組んで市場の環境変化、欧米資本による北海道ニセコのブランド化を主導したSUDOホームの動きを紹介した。
■前回記事 豪州資本と共に「ニセコ」を世界ブランドに育てた地域工務店
今回は北海道住宅の核心である住宅性能と、日本人の感受性に強くインパクトを与えるコンクリート打ち放しというデザイン性を止揚させた同社のRC外断熱・サンドイッチ工法について絞って触れてみたい。
SUDOホームは1989年に「RC外断熱・伊達の家」で日本建築学会作品選集に室蘭工大・鎌田研究室などと共同で選ばれている。北海道ではブロックなど蓄熱性の高い素材で壁を構成し、その外側で断熱することで、マイルドな「蓄熱性」居住環境を追求してきた。
こうした断熱手法は世界標準とも言える。本来この「湿式工法」では、内側駆体と外側のコンクリート外壁の2回打設が一般的。そうすると現場的にコスト上昇は避けられない。得られる温熱環境からこの点は目をつぶるしかなかったが、SUDOホームはこの矛盾を完全に止揚させてしまった。
内外のコンクリート壁を1発打設で可能にする革新的工法に進化させたのだ。この技術革新では伝統的な宮大工集団として北海道という寒冷地でその木組み構造への深い技術が型枠造作プロセスにいかんなく発揮された。
これは工程短縮とコストダウンを実現しながら高品質な建築を提供する合理的工法として、豪州資本の不動産開発業者の信頼獲得にも大きく結びついた。寒冷地域の地域ゼネコンと工務店との2面性を持つ存在として、スーパーゼネコンも工事を依頼してくる技術力資産となっている。
居心地の良さを感じ取ることに国境はない。余談だが、安藤忠雄氏がコンクリート打ち放し建築で華々しくもてはやされていた頃、北海道ではコンクリートブロック2重積み(内外の壁の間に断熱材をはさむ外断熱工法)が対置され、注目されていた。安藤氏も北海道での講演で「北海道で建てるなら絶対に外断熱」と語っていた。残念ながら実作の報はまだ聞いていない。
高断熱化と同時並行で追究した「間取り」の最適化
こうした工法開発と並行して進めたのが2.5×6間の合理的間取りプランだ。SUDOホームが豪州資本の不動産開発業者・北海道トラックスと打ち合わせしていく中で突き当たったのは、「原野商法」によって建築予定地一帯に広がる約50坪の「細長い」大量の敷地だった。
こういった悲しい現実に対しての救済策がまさにこの2.5×6間プランだった。この間取りプランでは2.5間ピッチに対して集成材の梁を飛ばせば一発で構造的安定が得られ、木造でも柱のない空間が獲得できる。
そして6間という長尺方向長さは、おおむね3つの空間利用に仕分けできる。ワンスパン5坪・10畳の広さが3つの空間に仕分けされていけば、ワンルームの居間としてほどよく、水回りについてもコンパクトに収めることができる。玄関ポーチには「回遊的動線」を持たせられるので、駐車場の確保を含めて外部空間利用としても「ちょうどいい」。
さらに言えば、短尺方向の外壁側に南面大開放窓を採用すれば、太陽光=パッシブエネルギー取得にもなる。
短冊状に無計画に切り取られた敷地に合致するプランとして、この2.5×6間はまさに最適解だった。原野商法の不良債権が欧米人不動産企業の投資で価値づけられ資産に変わっていったのだ。日本人が日本人の手で負の遺産を解消させたとも言える。
ニセコなどの海外からの住宅投資の盛り上がりの本質は、日本の内需産業が本格的に「開国」してきていること。日本社会が抱える少子化と工事金額上昇・顧客負担の増大という市場動向から閉鎖的環境に留まっていては勝ち目がない。
住宅産業を典型的な内需産業だと我々は自分自身を規定し過ぎてきてしまったのではないか。ビルダーとしても市場の変化を先取りするような住宅需要を喚起する努力は欠かせない。
住宅市場が再び活性化していくときに、その需要者が旧来型の日本人だけのマーケットだと考えてはいけない。SUDOホームのチャレンジは清々しい。次回以降も、市場に対して戦略的に、能動的に対応する地域ビルダーの動きを掘り下げていきたい。
構造規模・延べ床面積
RC造2階建て 112.1㎡(33.9坪)
RC造3階建て 170.3㎡(51.6坪)
断熱仕様:基礎外壁/スタイロフォーム(B3)100mm
屋根:ウレタンボード100mm
暖房方式:セントラルヒーティング(灯油ボイラー温水パネル)
《次回に続く》
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