ロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮による弾道ミサイルの武力攻撃を受け、有事に国民が安全に避難できる「核シェルター」の建設に注目が集まっている。林官房長官は2月13日、衆院予算委員会でシェルター建設について3月末をめどに方針をまとめると回答、政府が建設を急いでいる。NPO法人日本核シェルター協会の事務局長・川嶋隆寛さんは「普及に必要なのは制度と法律の整備」と指摘する。地下シェルターの建設の現状について話を聞いた。
--ロシアのウクライナ侵攻が始まった2022年2月の以降、日本核シェルター協会へ「シェルター建設」に関する問い合わせが急増したと聞いています。
それまで月に1、2件だったのが、今では個人や自治体などから毎日問い合わせが来ています。さらに、当協会に住宅会社や設計事務所など建設業界から入会したいという問い合わせや、当協会の作ったシェルターのモデルルームを見学したいという連絡が来ています。
ーー昨年5月10日、茨城県つくば市にある日本核シェルター協会の敷地内に、地下シェルターのモデルルームを建設されましたが、なぜ、この時期に作ったのでしょうか。
一般の人にシェルターをイメージしてもらいやすいよう、モデルルームとして作りました。25.5㎡に、約7人が2週間過ごすことができ、食料や簡易トイレもあり、爆風や放射線から身を守ることができます。核爆発によって生じる爆風や熱線、そして初期放射線、残留放射線の 4 種類の影響を防ぐ仕様となっており、スイス政府の規格で設計しました。
現在までに、約400組が見学に訪れ、昨年9月28日には、避難シェルターの普及を促す「シェルター議員連盟」が視察に来ました。
ーー災害にも強いと聞いており、災害大国の日本では活用が期待できます。
地上の建物のように大きく揺れることがないので、地震や台風には強いです。基本的に地震7でも問題ありません。台風に関しては地下なので影響は受けません。ただ、水害には弱いです。
--海外に比べ、日本は地下シェルターの普及率が低いと聞いていますが、それはなぜでしょうか。
日本人は、普段からあまり有事を想定しないで過ごしている傾向があると思います。また、政府にも国民を守る意識が低かった。国民保護法にもシェルターについての記載がない。2022年12月に「シェルター議員連盟」ができたのが初めてのことです。
これまで日本では、一部の富裕層が自宅の地下に密かに作ることはあっても、実質、個人で建設するのはコスト面などでハードルが高く、現状、公共のシェルターもない。スイスでは人口比107%、イスラエルでは100%と海外ではシェルターが普及しているが、日本はほぼ0%に近い。
--ミサイルや災害から人命を守るとともに、データの保護も必要であると聞いています。
人命を守るのと同時に重要なのが、個人情報や金融機関のデータなどを守る「データセンター」の設立です。今や、データは資産です。シェルターで保護されていない電子機器は、核兵器の高高度核爆発によって発生する電磁パルスによって損壊され、データは消滅してしまう。スウェーデンでは軍のシェルターを民間が買い、データセンターにしているケースもあります。
ーー今後の取り組みについて教えてください。
3月末に政府のガイドラインができたら、当協会は地下シェルターに関するガイドブックを作成していきます。シェルターというハードを作るだけでは不十分で、有事に誰が避難を誘導するのか、または避難路をどう確保するのかなど運用面も考えていかねばなりません。
また、建設にはお金もかかるので補助金をどのようにしていくか。シェルター議員連盟の事務局の手伝いもして、シェルターを建設するために必要な制度、仕組みづくりに取り組んでいきます。
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