「今、君の住まいからそう遠くないところで働いているから、会えないか?」とドイツの旅大工、クリスチャン・ランツ(クリス)からメールがあった。彼は同僚のティム・ゴットベーレ(ティム)と一緒に、2022年後半から2023年初めにかけて来日したが、コロナ関連の規制があったので、滞在ビザの取得や、受け入れ工務店との契約、その他、職場での悩みなどで、密にサポートした経緯がある。私も思い入れがあったので、彼からのメールはうれしかった。すぐに返事をし、先週、フライブルク市の旧市街で初めて対面の交流をした。
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私は2019年よりNPO法人環境共棲住宅「地球の会」と共に、中欧ドイツ語圏の旅大工の日本における修業をサポートしている。「ヴァルツ」という中世の頃から続く「放浪の旅」をする職人たちだ。旅修業で未知の経験をし、技術も人間性も磨く、という伝統が現代にも受け継がれている。
クリスとは2週間前にメールで、フライブルク大聖堂の正門前で14時に、と約束をした。彼は携帯電話を所持していない。彼はまだ旅修業中なのだ。旅職人は、電話やインターネットの使用ができる端末を所持することが禁止されている。メールは、修業先などのコンピューターを借りて行っている。私は時間通り待ち合わせ場所に到着したが、彼は10分過ぎても現れない。
遅れている理由は想像がついた。20分後に彼は到着した。彼は日本的に丁寧に頭を下げて謝罪し「ヒッチハイクが手間取ってしまって」と説明してくれた。移動は基本、徒歩かヒッチハイク、というのが旅職人の掟なのだ。苦労をし、見知らぬ人に接することで、忍耐力と誠実さ、コミュニケーション能力を培う。
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彼と近くのカフェテラスに座り、日本の思い出話をした。私は彼らの日本滞在期間中、メールやビデオ会議で彼らの旅修業に遠隔から「同行」していたので、話を具体的にイメージできた。日本で訪れた名所や役所のスタンプが押してある手帳を見せてくれた。彼ら旅職人の大切な所持品だ。
その手帳には・・・
この記事は新建ハウジング2月29日号9面(2024年2月29日発行)に掲載しています。
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