東京商工リサーチ(東京都千代田区)はこのほど、2024年度「賃上げに関するアンケート」調査の結果を発表した。有効回答数は4527社。2024年度に賃上げを「実施する」と回答した企業は85.6%で、2023年度に賃上げを「実施した」(84.8%)企業を0.8ポイント上回り、定期的な調査を開始した2016年度以降の最高を更新した。
「実施する」企業を規模別でみると、大企業が93.1%(366社中341社)と9割超えなのに対し、中小企業は8.2ポイント低い84.9%(3873社中3290社)にとどまることがわかった。規模による実施率の差は、前年度の5.7ポイント(大企業89.9%、中小企業84.2%)から拡大。賃上げを捻出する体力・収益力の違いから二極化が進んでいる。
産業別では、10産業中8産業で「賃上げ予定」が8割を超えた。実施する企業の割合が最も高いのは製造業の88.6%(1281社中1135社)で、運輸業87.9%(158社中139社)、建設業87.8%(609社中535社)が続く。8割以下となったのは、不動産業76.0%(100社中76社)、情報通信業77.4%(235社中182社)だった。2023年度(2023年8月調査)と比較すると、不動産業(11.6ポイント増)、金融・保険業(6.4ポイント増)、運輸業(5.6ポイント増)が大幅に上昇。前年度低水準だった不動産業や運輸業でも、物価上昇に伴う賃上げ機運の高まりや人手確保の必要性などから賃上げが進んでいる。
賃上げ実施率は全産業で大企業が中小企業を上回った。実施率の差が最も大きかったのは不動産業で、大企業が100.0%(11社中11社)なのに対し、中小企業は73.0%(89社中65社)と27.0ポイント差となった。建設業は、大企業100.0%(31社中31社)、中小企業87.1%(578社中504社)で12.9ポイント差。人手不足の産業では人材確保のための賃上げも多いが、原資を確保できない中小企業などで賃上げを断念せざるを得なくなっている可能性もある。
賃上げを「実施する」企業に内容を聞いたところ、最も多かったのは「定期昇給」の81.5%だった。次いで「ベースアップ」(62.5%)、「賞与(一時金)の増額」(43.3%)と続く。「ベースアップ」は、2023年度の56.4%から6.1ポイント増加し6割台に乗せた。
「賞与(一時金)の増額」は、大企業が38.6%に対して中小企業が43.8%となり、中小企業が5.2ポイント上回っている。基本給に関わる賃金の底上げは長期の負担となるため、中小企業は賞与(一時金)の増額で対応する傾向が続いている。
規模別の差が最も大きかったのは「新卒者の初任給の増額」で、大企業(40.4%)は中小企業(24.7%)よりも15.7ポイント上回った。人手不足や少子化が深刻化するなか、初任給の差の拡大は中小企業の新卒採用にも影響を与えかねない。
賃上げ実施できない理由
賃上げを「実施しない」企業に理由を聞いたところ、「コスト増加分を十分に価格転嫁できていないため」が53.8%と最も多いが、前年同月からは4.2ポイント低下している。次いで「原材料価格・電気代・燃料費などが高騰しているため」(48.7%)、「受注の先行きに不安があるため」(44.3%)と続く。「今年度の賃上げが負担となっているため」は16.0%だった。「その他」(10.1%)では、「能力評価による賃金制度導入のため」「社会保険料の上昇」などがあげられた。
規模別でみると、「受注の先行き不安」では中小企業(45.0%)が大企業(29.1%)よりも15.9ポイント上回った。同様に「価格転嫁できていない」では12.7ポイント、「既往債務の返済に影響を与えるため」では12.0ポイント中小企業が大企業よりも上回っている。
賃上げを実施しない企業は、コストアップの影響で賃上げ原資を捻出できないほか、先行き不安から賃上げをためらっているケースも少なくないことがわかる。
2024年度「賃上げ実施予定率」は過去最高の85.6%となったものの、賃上げ率の中央値は3%で、政府が要請する「前年を上回る賃上げ」には届かなかった。賃上げを実施しない企業の過半数が「価格転嫁できていない」ことを理由にあげている。東京商工リサーチでは、価格転嫁できるかが賃上げ実現にも影響しているとしながら、一方で、2023年には「人件費高騰」による倒産が過去最多の59件発生しており、物価高や円安、人手不足、マイナス金利解除の可能性など、企業を取り巻く環境が複雑化するなか、無理な賃上げは業績悪化を加速させかねず、賃上げ実施後の業績への影響を注視していくことが必要だと指摘している。
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