公共工事から脱皮したいが、管理も難しく人も育ちません−−。
鷲見製材(岐阜県岐阜市)社長の石橋常行さんによる連載「寺子屋いしばし~心の学び処~」(寺子屋いしばし)に、長崎県で建設会社を経営する70代男性Xさんから、こんなお悩みが寄せられた。
石橋さんは、新規事業にも人材育成にも「魔法の杖は決してない」と語りかける。なぜその事業するのかー志や理念を明確にし、想いを共有することこそが重要だと述べている。回答内容を詳しく見ていこう。
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Xさん、ご質問有難うございます。公共事業から住宅関連への業務拡大の勇気に感銘を受けました。とても素晴らしいことだと思います。その中で、事業がうまくいかなく、商品展開、人材の育成と定着に困っているという相談として受け止めました。
まず、「公共事業の仕事の延長線上に住宅事業を考えない方がよい」と思います。
公共事業の仕事と、住宅の仕事は、同業異業種と言っていいほどに大きな違いがあります。この辺りに戸惑いを感じていらっしゃるかもしれませんね。
業務フロー、利益の考え方、現場管理、人財育成、どれをとっても、同じ建築業と言う括りであるにもかかわらず、全く違います。よって、頭の構造(思考)を、異業種への新規参入と考え、切り替える必要がありそうです。
想像するに、公共事業の仕事も、長年の経験の上で今があることと思います。新規住宅事業も同様に時間がかかることへの覚悟です。
FC加盟や引き抜きはうまくいかない
FCやVCといったパッケージ系に加盟する。即戦力として、責任者を他社から引き抜く・・・。
一足飛びにやってしまいがちですが、残念ながらうまくは行きません。それらは“魔法の杖”ではないのです。
なぜか。私は事業を育てることは、「ひと」と「商品」を育てることと考えており、それなりの時間が必要だと考えています。特に、異業種や新規事業という事ならば尚更です。
私が新規事業を立ち上げる際に心がけることは、ある程度の時間は、経営者もしくは、その右腕となる人材が並走することです。現実と現場をしっかりと把握し、スピードをもって問題や課題の解決にあたる必要があります。
Xさんのご質問を拝見する限り、本社と営業所が遠いという事のようですが、何かしらのご事情があることと思います。そういった場合は、報告・連絡・相談の体制作りが急務かと思います。
しかし、具体的に何を報告し、何を連絡するかを定めておらず、ただ報告するようにと指示をしているケースを多く見受けます。遠隔地ならば尚のこと、誰が・何を・いつ・どうやって報告するのかを明確にする必要があります。
意味、目的を明文化できているか?
人材、育成にも悩まれていることが受けて取れます。文中から推測するに、Xさんがスタッフに、新規事業として住宅事業を手掛けることの想いを共有化できていない可能性があると感じました。
これまで公共事業を主体にしていた会社が、新規で住宅事業を展開する。これは大きな節目です。「なぜ住宅事業をやるのか」−その意味目的の明文化が最も重要な局面だと言っても過言ではありません。
説明が曖昧だったり、単に売上アップという意味目的であったりすると、スタッフは当事者意識を持ちづらいでしょう。
スタッフや関わる人々は、なぜこの事業をやるのか?という答えを求めているかもしれません。働くスタッフは、その意味目的を理解し、納得することで、当事者意識が芽生え、仕事を前向きに捉え、チャレンジをします。残念ながら人は、その納得性がない限り、自発的な動きはしません。
まずは、新規の住宅事業を行う意味目的、すなわち、志や理念といったことを整理されることをお勧めします。長く勤めてくれているスタッフは、その想いや意味目的に共感し、コミットしているからこそ、支えてくれているはずです。
事業に近道はありません。特にこの住宅業界はコンサルやフランチャイズなどの、いかにも「簡単に商売ができる」と言う謳い文句が多く蔓延っています。
先にも述べた魔法の杖は決してない。
しっかりと商品を育て、じっくりと人を育てることが、成功への近道です。
公共事業からの脱却を図り、新規事業を起こすという決断は容易くなかったことと思います。どうか、この新規事業の意味目的をスタッフの方に語り掛けてあげてください。まずはそこがスタートです。
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