先日、古建築の改修の現場を主な舞台としたドイツのドキュメント映画のオンライン上映会を日本向けに行った。友人の映画監督が制作した社会的な作品で、コロナ禍の頃から私が日本語化の作業に取り組んでいたものだ。予想以上に反響があったので、ここに紹介したい。
映画のタイトルは『誰も欲しがらない人と建物に新しい生命を』。監督のペーター・オーレンドルフは、社会的なドキュメント映画をいくつも手がけている。彼は、シュヴァルツヴァルトの小さな建設会社ドミツィールを2006年から2016年、10年という長い期間、ビデオカメラで追いかけた。
この会社は、いくつもの古建築を福祉住宅へ改修した。普通の建設会社が「割に合わない」と手をつけない、文化財に指定されている腐りかかった廃屋を経済的に改修した。それだけでも偉業だが、さらにこの会社の現場で働く従業員の大半は、元浮浪者や元懲役者、アルコール中毒や薬物依存者といった、普通でない人たちだ。プロの職人のような仕事は期待できない。
ドミツィール社は、そのような社会の脱落者たちに、社会復帰するチャンスを与えた。彼らは仕事もそうだが、住まいを見つけるのも大変な人々だ。従業員のなかには、自分が改修の仕事をした建物に新しい賃貸の住居を得た人もいる。このドミツィール社を当時率いていたのは、2022年1月30日号で紹介したフライブルク市の高層木造住宅プロジェクトマネージャーのヴィリー・スッター氏だ。
彼は、ドミツィール社での事業が高く評価され、今では、従業員30人以上抱える古建築専門の建設開発会社の社長として活躍している。ドミツィール社は現在も存続していて、新しい社長のもと、普通の会社ではなかなか雇ってもらえない人たちに就労のチャンスを与えている。
社会的弱者にも 質のいい住宅を
映画では・・・
この記事は新建ハウジング1月30日号8面(2024年1月30日発行)に掲載しています。
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