今回の地震で被害に遭われた皆様の心に、深い哀悼の意を表します。また、一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。自然の脅威の前に私たちは無力かもしれません。しかし、人間の強さはそんな時こそ輝きます。この困難な時期を乗り越え、一歩ずつ前に進むことが、私たちの強さの証です。
さて、今回は地震で被害を受けた会社が利用できる国の支援制度を紹介いたします。前回は「災害復旧貸付」を採り上げましたが、今回は「セーフティネット4号保証」について紹介していきます。【中小企業診断士・諸勝文】
どのような制度か?
セーフティネット4号保証は、災害を受けたり、災害による影響で売上が減少する見込みであったりする会社に対し信用保証協会が債務保証を行い、銀行からの融資を受けやすくする制度です。
具体的には、原則として最近1か月間の完成工事高又は受注残高が前年同月と比べて20%以上減少しており、かつ、その月を含む今後3か月間の完成工事高や受注残高が前年の同じ時期に比べて20%以上減少することが見込まれることが利用の要件です。
今回の地震だけではなく、令和5年に起きた能登地震や新型コロナなどがセーフティネット4号保証の対象となっています。「災害復旧貸付」とは異なり資金使途は事業資金としてであれば幅広く利用が可能です。
なお、前年同期と売上を比較する関係上、災害を受けた地域で1年間以上継続して事業を行っている必要があります。経済産業省は今後、災害を受けた地域として災害救助法が適用された地域を指定するとしていますが、被災した県の全ての市町村が災害救助法の対象となっているわけではありません。信用保証協会では事前相談を受け付けているため、自社が対象になるかどうか不安な方は、まずは信用保証協会に事前相談をしてください。
セーフティネット4号保証で融資を受けた場合、返済が出来なくなった際には信用保証協会が会社に代わって銀行に返済をしてくれるため、銀行は安心して融資をすることが出来ます。ですがその後、会社に信用保証協会から一括弁済をするよう請求が来ますので、その点はご注意ください。
どこに行けば申込が出来るのか?
セーフティネット4号保証は、まず市町村の窓口で認定申請書を提出して認定を受け、それを取引のある銀行や信用金庫に持参して申し込むというのが通常の流れです。認定申請書は罹災証明書とは別の様式です。
しかしながら、本稿を執筆している時点で被災した各自治体では、認定申請書の配布や発行が行われていません。セーフティネット4号保証の発動はなされたものの実務がまだ追いついていないためです。
また銀行や信用金庫も被災しており、一部の支店が営業を再開できていません。特に地元に本店のある北國銀行と興能信用金庫では、多くの店舗が営業を休止しています。金融機関へ問い合わせる際には各金融機関のホームページで各支店の営業状況を確認の上、休止中の場合には代替支店に問い合わせを行うようにしてください。
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経営へのメリット
セーフティネット4号保証のメリットは、普段取引のある金融機関で融資が受けられること、保証限度額が2億円と大きく、建物など大型の設備であっても復旧資金を迅速に調達できることが挙げられます。また、保証は別枠で確保されるため、これまでに保証協会の保証枠を使い切っている会社でも利用することが出来ます。金利や返済期間は通常の融資と同じです。
具体的な申請のポイント
災害の混乱の中ですので、セーフティネット4号保証は認定を受けて使えるようになるまで時間がかかる可能性があります。認定を待つのではなく、事前に金融機関や信用保証協会に相談を行い、準備を進めておくことが望ましいです。
セーフティネット4号保証の場合、信用保証協会の審査が重要となります。金融機関は万一のことがあっても信用保証協会が支払ってくれるため、審査はしますがどうしても若干の甘さが出ます。
審査のポイントは、信用保証協会に払ってもらわなくとも自力で返済が可能であることを示すことです。具体的にはまず、自社の事業の内容と今回の地震で受けた被害の状況を説明します。次に、被害に対しどういう取り組みを行い、収支を改善させ、会社にいくらの返済資金を残し、返済していくのかを伝えます。口頭で伝えることが難しければ事業計画書という形で書面にして持参しても構いません。
金融機関や信用保証協会から事業計画書という形で書面にして欲しいと求められるケースもありますので、自社で作成することが困難な場合には私たち中小企業診断士にご依頼ください。
保証を断られたら
融資を受けたら返済をしなければいけません。そのため、返済の見通しが立たないと判断された場合、保証を断られることがあります。その場合は事業計画を練り直して再度保証申請を行うとともに、資金繰りの安定化策を取ります。売掛金を回収し在庫品を売却して当座の資金を確保するとともに、取引のある金融機関に対し返済猶予を申し入れます。
金融機関に対しては既に金融庁から「既存の融資にかかる返済猶予等の貸付条件の変更等、災害を受けている顧客の便宜を考慮した適時的確な措置を講ずること」という要請が出ているため、当面の間は返済猶予に応じてもらえる可能性が高いです。
新しい支援制度も立ち上がる
本稿執筆時点で国が立ち上げている支援制度は、今回紹介した「セーフティネット4号保証」と「災害復旧貸付」の2つですが、これは当面立ち上げたものに過ぎません。熊本地震の時には約1ヶ月で7000億円の補正予算が成立し、復興支援に充てられました。日経新聞の報道では岸田首相は「今回は熊本の例を超える財政需要も想定しなければならない」と発言しており、今回の地震でも今後、同程度かそれ以上の支援制度が立ち上がるものと思われます。当面の資金を融資でしのぎ、追加の支援策を待ちましょう。
東日本大震災や熊本地震の時でもそうでしたが、今後国会で復興予算が成立し、追加の支援制度が出来てくることは確実でしょう。さらなる支援が必要な方は当面の危機を、本制度を使ってしのぎ、事業を継続しながら追加の支援策を待ちましょう。
私の親戚も能登で被災しました。皆様が一日も早く平穏な日常を取り戻せるよう、私たちもできる限りの支援を続けます。一緒に乗り越えましょう。
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