能登半島地震で被害を受けた会社が利用できる国の支援制度を紹介。現在、国は「災害復旧貸付」「セーフティネット4号保証」の2つの制度を立ち上げ、被災した事業者の支援を始めました。今回は「災害復旧貸付」について解説します。【中小企業診断士・諸勝文】
どのような制度か?
災害復旧貸付は、震災で受けた被害を復旧するために必要な運転資金及び設備資金を対象として融資を受けられる制度です。取り扱う機関によって少しずつ名称が異なります。融資の対象となるのは震災で被災した会社と、自社は被災していないが、被災した会社が事業をすることが出来ないために自社の売上が減った、売掛金が入らなくなったという会社です。
資金使途は震災復旧のために必要な運転資金と設備資金に限られています。完全に震災前と同じでなければならないというわけではなく、震災で設備などが壊れたことを機に新しく作り直す、買い直すということも認められています。運転資金は設備が復旧し、営業が再開されるまでに必要となる運転資金です。
新型コロナのゼロゼロ融資とは異なり通常通り利息の支払いが必要ですが、「日本政策金融公庫(以下、日本公庫)の国民生活事業の場合、返済期間は10年以内の分割返済、うち元金返済を据え置く事のできる据置期間は2年以内と、通常の制度融資に比べて有利な返済条件となっています。
どこに行けば申込が出来るのか?
災害復旧貸付は、国が株式を所有する金融機関である日本公庫と商工組合中央金庫(以下、商工中金)で実施されています。
日本公庫はさらに国民生活事業と中小企業事業に分かれており、おおむね1000万円以下の融資であれば国民生活事業が、数千万円の融資が必要であれば中小企業事業が管轄しています。
日本公庫の支店は石川県では金沢市と小松市、富山県では富山市と高岡市、新潟県では新潟市、長岡市、三条市、及び上越市、福井県では福井市と越前市にあります。なお日本公庫では融資額が3000万円以上必要な場合、国民生活事業では融資限度額を超えてしまうことから、各県の県庁所在地にある「中小企業事業」の支店に相談する必要があります。
商工中金の支店は石川県では金沢市、富山県では富山市と高岡市、新潟県では新潟市と長岡市、福井県では福井市にあります。
基本的にはどこでも同じ融資制度が受けられますが、審査方法や申込手続きに細かな違いがあります。一般的に個人事業主や中小企業は日本公庫を、中堅企業は商工中金を利用するのがスムーズです。各支店に訪問して融資を申し込むほか、日本公庫の国民生活事業はインターネットでも融資の申し込みが可能です。
災害復旧貸付のメリットは?
災害復旧貸付のメリットは、復旧・復興に向けて最も素早い対応が可能なことです。他の支援制度は本来、国会で法律を作り、予算を通してはじめて動き出すものですので、それを待っていては会社を維持できない可能性があります。
しかし災害復旧貸付とセーフティネット4号保証はもともと制度融資として存在しているため、被災地域と災害名を指定すればスタートさせることが出来ます。そのため、他の支援制度を待たずして資金を確保し、自社の復旧・復興に向けて動き出すことが出来ます。
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また、通常の融資制度に比べて返済期間が長いため、毎月の返済額が少ないほか、利息も特別の措置が取られて安くなることが多いことや、他の制度融資の枠を使い切っていても別枠で利用することが可能なこともメリットとして挙げられます。
申請のポイントは?
災害復旧貸付は通常の融資と同じように申し込みと審査が行われます。そのため、日本公庫や商工中金の支店に行って申し込みを行うのが通常です。また日本公庫の国民生活事業はインターネットでの融資申込を受け付けています。日本公庫のホームページからインターネット申込が可能ですので、アクセスしてみましょう。
審査のポイントは、返済が可能であることを示すことです。まず、自社の事業の内容と今回の地震で受けた被害の状況を説明します。次に、災害復旧に向けてどのような取り組み行い、そのためにいくらの資金が必要か、そのうちいくらを融資で賄いたいかを伝えます。
最後に、融資を受けて災害復旧が出来たあと、しっかり返済予定どおり返済していけるかを示すことです。こちらは口で伝えることが難しければ事業計画書という形で書面にして持参しても構いません。日本公庫や商工中金から書面で欲しいと求められるケースもありますので、自社で作成することが困難な場合には私たち中小企業診断士にご依頼ください。
もしも融資を断られたら・・・
災害復旧貸付は融資ですので、返済の見通しが立たないと判断された場合、融資を断られることがあります。その場合は事業計画を練り直して再度融資申請を行うとともに、資金繰りの安定化策を取ります。売掛金を回収し在庫品を売却して当座の資金を確保するとともに、取引のある金融機関に対し返済猶予を申し入れます。
金融機関に対しては既に金融庁から「既存の融資にかかる返済猶予等の貸付条件の変更等、災害を受けている顧客の便宜を考慮した適時的確な措置を講ずること」という要請が出ているため、当面の間は返済猶予に応じてもらえる可能性が高いです。
あらゆる制度がある
本稿執筆時点で国が立ち上げている支援制度は、今回紹介した「災害復旧貸付」と「セーフティネット4号保証」の2つですが、これは当面立ち上げたものに過ぎません。東日本大震災や熊本地震の時でもそうでしたが、今後国会で復興予算が成立し、追加の支援制度が出来てくることは確実でしょう。さらなる支援が必要な方は当面の危機を、本制度を使ってしのぎ、事業を継続しながら追加の支援策を待ちましょう。
被災地の復興には時間がかかるかもしれませんが、私たちは皆様のそばにいます。一つ一つ、小さな一歩を踏み出し、再び笑顔で溢れる日々が訪れることを信じています。
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