令和6年能登半島地震による被害に関連した法律相談が急増している。住宅業界に詳しい弁護士・秋野卓生さん(匠総合法律事務所)に、工期遅延をはじめとして、今回の地震の影響に対し工務店が取るべき対応についてご寄稿いただくとともに、工期延長の対応に必要な覚書の書式をご提供いただいた。
※書式は文末のオレンジ色のバナーからダウンロードいただけます。
令和6年能登半島地震では、住宅の倒壊により、建物の下敷きになる人的被害が発生しました。お亡くなりになられた方々に謹んでお悔やみ申し上げますとともに、被災された皆さまに心からお見舞い申し上げます。
私も、東日本大震災、熊本地震の際、共に多くの法律相談を工務店の皆さまから受け、対応をさせていただきました。地震被害の発生直後は、特段のトラブルはないのですが、復興に入って行くにあたり、トラブルが次々と発生し、法律相談が多発したというのが、過去2回の震災対応の弁護士としての実感です。
今回も、被災地の工務店の皆さまからの法律相談に迅速に対応すべく準備を整えています。
1.自然災害発生時の基本的な視点
地震による建物の倒壊など、甚大な被害が発生するのが、自然災害発生時の特徴です。また、これまで10年以上の期間に渡り、何の問題も発生しなかった建物が甚大な被害を受け、その補修工事費用を住宅会社、施主、いずれが負担するのかを巡ってトラブルとなるケースもあります。
私どもの場合、東日本大震災発生後のトラブルでは、住宅会社には故意も過失もないとして裁判で争うことを選択した案件もありましたが、何年も裁判をした結果、裁判所から“足して2で割る”和解案の提示を受ける事もあり「こんな結論になるくらいなら、裁判などしなければ良かった」と後悔をしたケースもありました。
このとき、学んだことは「自然災害発生時の基本的な対応方針としては、施主と住宅会社が手を取りあって困難に立ち向かう」という姿勢が大事であるというスタンスの取り方でした。
その後、発生した熊本地震対応の際には、この基本的な対応方針に基づき、多くのトラブルを回避する事ができ、その数年後に私が手がけた台風による鉄塔倒壊事故の際には、弁護士会の災害ADRを活用し、短期間で、全住民と和解解決に至ることもできました。
自然災害を前にしては、皆が被害者であり、住宅会社も被害者のうちの一人です。敵対視し合わない対応が非常に重要です。
2.覚書のひな形
工事着工前のお客様も工事中のお客様も、今回の被災によって、工期を延長しなければならなくなります。
工事の再開時期、完成時期は、この混乱した状況下ではスケジュールを立てることは困難ですので、工期については、覚書を交わし「工期の定めのない」請負契約に変更することをお勧めいたします(覚書第1条1項)。
被災地の工務店からも、お客様から”工事が延びた場合、遅延損害金は支払ってもらえるのか?”という質問を受けたとして法律相談を受け、対応をしたものもあります。不可抗力が原因となり、工期が延びるものについては、遅延損害金は発生しません。遅延損害金は、施工者の責めに帰すべき事由により工期遅延した場合に発生するものだからです。
この点は、しっかりと覚書にて明記すべきであり、私が作った覚書第1条2項にてその旨規定しています。
3.エコキュートが倒れた事による損傷被害に関する法律相談も
まず、エコキュートの設置が適切であったかについて確認していただきたいと思います。貴社の責任の有無を決するにあたっては、エコキュートの設置が、エコキュートの設置マニュアル等に照らして適切であったか否か、によって結論が変わってきます。
適切に設置されていたにもかかわらず、転倒してしまった、ということですと、不可抗力による転倒ということで、施工会社の責任問題とはなりません。
不適切に設置されていた(例えば、アンカーボルトの本数が不足する状態で設置されていた)場合には、地震がきっかけにはなったが、設置不良に基づく転倒、ということになり、施工会社の責任問題となり得ます。
東日本大震災、熊本地震の際も、エコキュート転倒の法律相談は多く受け、上記アドバイスをして参りました。意外と設置マニュアル違反の施工事例が多く、対応について工務店と二人三脚で乗り越えていきました。
4.書籍「震災復興の法律的課題 岩手県・被災地行政から寄せられた法律相談事例」
匠総合法律事務所が東日本大震災の際に、施工会社や自治体から法律相談を受け、対応をした法律相談事例をまとめた書籍を発刊しております。下記に申し込みフォームを付けますので、ご入り用の方は、お申込みをいただければと思います。
▼申し込みフォーム▼
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSeEZ5-9fInsXxRtkAn-JUi611PyeiPAh7QsFTDoQ5iaaisDcA/viewform
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