2025年の法改正に向けて、断熱等級6以上は益々普及していきます。2024年には断熱等級6以上が世の中の標準的になることを祈りながら、年末にこの記事を書いています。
断熱性能が向上してくると、省エネに関しての差別化が何になるかといえば、実際にどんな快適室温で過ごし、その室温をどのような消費エネルギーで過ごしているか、にあります。
この快適と省エネのバランスの指標は世の中にないのでなかなか難しいです。そこに住まう方々が快適と思う室温もそれぞれ違うので、エアコンを中心とした暖冷房の設定温度によって消費エネルギーが変わってきます。
また、体感温度は表面温度と室温で決まるので、太陽熱を利用するパッシブデザインのように、冬の表面温度が上がる方が体感温度は上がるためパッシブデザインも重要です。
さらに、冷暖房方式も全館空調なのか、部分間欠暖冷房なのか、壁式なのか、床下式なのか、階間式なのか、小屋裏式などによっても快適と省エネのバランスは大きく変わってきます。
断熱性能が上がれば、差別化としては、パッシブデザインの設計レベル差と空調方式の違いによる快適室温と消費エネルギーのバランスの良し悪しが、今後の家づくりでの差別化になることは間違いありません。
もちろん、ここには意匠性と耐震性も複合して考えないといけません。私にとっての家づくりの目標は、この快適性と省エネ性と意匠性と耐震性のレベルをさらに向上させることにあります。
室内空間と屋外空間の融合や中間領域をどう表現するか?太陽熱を取り入れながらプライバシーなどをどうクリアさせていくかなど、課題はありますが、顧客の要望を聞きながらクリアさせていくのがパッシブデザインの楽しさです。
どのような室温、消費エネルギーで暮らしているか
さて、今回は実際にどのような室温で、どのような消費エネルギーで暮らしているかをシミュレーションでご覧ください。思ったより室温状態が暖かく(涼しく)て、消費エネルギーがさほど削減されていない場合もあります。
ただ、国の一次消費エネルギーのWEB算定に関しては、暖冷房スケジュールが実際の運転時間頻度と異なるので、何とも言えないところは理解していただいた上で比較してください。
まずは、岐阜県の岐南町。6地域ではあるが名古屋よりは雪が降ることが多く寒いエリア。プラン的には、中庭のあるコートハウスで、外壁を斜めのデザインとし、袖壁からの日影の影響を少なくしながら、南窓に高窓を設けて日射熱取得を上げる工夫をしました。ご夫婦二人に、二人のお子さんで、まだ小さく、一人は赤ちゃん。小さなお子さんがいるお宅は、暖房の設定温度が高く、全体的に室温が高く予想より消費エネルギーが多いのですが、まさにその例です。
まずは、プラン作りを始める際に行うのが敷地の日照シミュレーション。
10時から15時までを確認したが、今回の敷地ではほぼ敷地への日影の影響はなかった。
そして、ゾーニング。今回は中庭を外壁で囲ったコートハウスをご希望された。
断面計画も併せて行いました。南の窓にどう太陽熱を当てるかですが、袖壁の日影の影響が大きく、斜めにすることで意匠と日射熱利用のバランスを両立させました。
この断面計画とゾーニングをスタートさせながら、南の窓にLDKと吹抜けの床面積あたり20%以上の陽の当たる窓を計画しました。
もちろん実際のプランとCGで日照シミュレーションを行いました。
10時から15時までで南の窓に5時間LDKの床面積と吹抜けを合わせた主たる居室の床面積の20%以上を南の窓にしたい。LDKの東側は10時から2時間たらず、全体的に窓下80センチくらいが日影になっているため、上部に高窓を採用。年間暖冷房負荷が4236kWh床面積当り25.7kWh/㎡、暖冷房の一次消費エネルギー合計が18,161MJとなりました。
ちなみに各室の連続運転でシミュレーションを行ってみたところ・・・
年間暖冷房負荷合計が4807kWh床面積当り29.1kWh/㎡、暖冷房の一次消費エネルギーの合計29,200MJとなりました。部分間欠暖冷房との差が11,039MJとなったので、電気単価を33円とすると年間暖冷房の光熱費の差が3万7324円です。
一日中の快適室温をとり省エネを一部妥協するか、在室時のみの快適とし省エネを取るのかを選択することになります。
次に快適かどうかの室温のシミュレーションを見てみます。左は一日中の室温分布。右は在室時のLDKと洗面は6時から0時まで、寝室は0時から6時まで見ています。居室は冬20℃以上、非居室は18℃以上が目標ですが、洗面で18℃以下になる部分があるのが気になります。
住まい手には、外気温の下がる朝方LDKの暖房を少し早めにつけるか、LDKと洗面の間の扉を開けておくかなどのアドバイスが必要であることがわかりました。
消費エネルギーに関していうと、事前の一次消費エネルギーWEB算定のシミュレーションと比較すると、暖冷房で21,104MJのシミュレーションに対して21,455MJ と、若干多いのは寝室の室温の高さとロフト空間が大きいことが影響していると思われます。
合計の消費エネルギーは69,390MJのシミュレーションに対して64,646MJとなっています。延べ床面積が165㎡ですので、391.8MJ/㎡となっており、私が目指す500MJ/㎡の目標を上回っています。
事前にホームズ君でシミュレーションした暖冷房の一次消費エネルギーのシミュレーションが18,161MJでしたが、実測では21,455MJとなりました。
これは、冬の寝室の設定温度が高かったことと、夏の冷房時間がLDKと寝室ともに一日中になっているためだと思われます。あとは、実際には太陽光発電がついているので、昼間はかなり気にせずに太陽光発電の恩恵を得てエネルギーを使われているのだと思います。
この住宅は太陽光発電で、さらに省エネになっています。
実測の一次消費エネルギーが64,646MJ太陽光発電で57,565MJとなり、ZEHはクリアしているもののリアルZEHには届いていませんが、4.26kWhの太陽光発電ですのでまずまずかと思います。
1月19日単日で見てみると、LDKは夜1時に暖房を消して、朝8時に暖房をつけています。室温変化は0時で20.85℃朝6時で17.73℃となっており、5時間で約3℃の室温低下でありました。UA値0.35W/㎡Kの断熱性能ではこのくらいの室温低下でしょう。
事前の自然室温のシミュレーションで深夜0時に20℃の状態で朝6時16.79℃、6時間で3.2℃低下と比べ、ほぼシミュレーション通りであったと言えます。間欠冷暖房において、夜中に暖房をつけない状態は、自然室温のシミュレーションとの比較がよくわかります。
ただし、間欠暖冷房においては、在室時の室温に注目しないといけません。在室していない時の室温はLDKや寝室という居室であれば18℃以上を目指して設計しているからです。
LDKであれば、8時から23時の在室時間では平均20.91℃、寝室は就寝時間の朝7時までは23.2℃とかなり高くなっています。
赤ちゃんがいる家庭ではやはり高い室温で暮らされています。洗面は、LDKの在室時と同じ時間で平均室温をみると、16.43℃でした。非居室の目標の15℃は上回っていましたが、若干室温が低いので今度は、11月から4月の暖房期間全体で見てみます。
1月と2月でみてみると、LDKの在室時間を8時から23時とすると平均20.5℃、寝室は0時から朝7時までの在室で同じく20.5℃、洗面は17.6℃となりました。
洗面所について言えば、LDKの暖房をもう少し早くつけておくと、隣接した洗面所にその影響を与えるのでタイマー設定をすることや、朝方は洗面所の扉をリビングに対して開放しておいた方が良いなど、住まい手に対しての暮らし方のアドバイスが浮かびます。
さて次に夏も少し見てみます。
8月4日は外気温が28℃から35℃とかなり暑く、LDKと寝室ともに冷房を連続運転しているようです(来年は在室時運転での違いを依頼)。LDKでは平均26.4℃、寝室は26.5℃、洗面所は26.6℃で、一日中かなり涼しく快適に過ごされているようですが、150W前後の消費エネルギーで過ごされています。
在室時、LDKは平均27.3℃、寝室は26.6℃、洗面は27.2℃ととなっており、冷房期間は居室と非居室ともに涼しく過ごされているようです。
以上、色々とシミュレーションと実測結果を包み隠さず公開しましたが、今後、顧客に訴えるべきは、「このぐらいの断熱性能でこのくらいのパッシブ設計を行うと、このくらいの消費エネルギーでこのくらいの室温で暮らせます」と述べることでしょう。
それを耐震性と意匠性も併せて提供していくことで、今後選ばれる住宅会社になることは間違いないと確信しています。
断熱性能をG3程度まで上げるかどうか?
量産型の住宅会社で事業として行うには、物価高騰と顧客の予算、耐震性と意匠性のバランスを考えると厳しい面もあります。もちろん予算のある顧客にはG3でのパッシブデザインを進めるべき。
だが、耐震性と意匠性も考えると断熱等級6~7の中間あたり、G2~G3の中間あたりとし、パッシブデザインを採用し、ηACとηAHを適切に設計し、さらに省エネ給湯機器を採用し、太陽光発電を如何に小さく搭載するか?いかにコスパ良く快適室温で省エネに過ごせる住宅を提供できるかが今後の家づくりの落としどころと考えます。
高性能・省エネを掲げる会社は是非実測をすぐにでもスタートしていただきたい。冬と夏を合わせた実測は1年かかります。さらに、実測を検証する勉強もしなくてはならない。もちろん私もこのスキルをさらにレベルアップしていかなくてはならないし、全国の実務者とシミュレーションと実測を共有して、日本の家づくりを向上させ省エネ社会の実現に寄与したい。
さらに、顧客の暮らしをと省エネを見守り、住んだ後のメンテナンスだけでなく、省エネに暮らすアドバイスをできる住宅会社にしたいと思いますし、日本の住宅関係者みんなとそんな家づくりをしていきたいと思ってます。
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