ドイツでは2022年半ば以来、住宅建設業界全般の発注量が急激に低下している。この不況下にあって、木造建築業界の景気は逆に良いようだ。それは、数年前から続くドイツでの住宅建築のメガトレンドの「省エネ」と「健康」に理由がる。本連載でも頻繁に取り上げてきた。木造建築はこの2つと非常に相性がいい。
2015年あたりからの建設好景気の頂点だった2019年や2020年当時は、小さな依頼者が電気工事や左官業に問い合わせをしても、見積を取るのさえ困難だったが、今年は、すぐに対応してくれる。先日、筆者の自宅担当の電気工事会社の社長は「大きな仕事がキャンセルされて、今、だいぶ暇になったからね」と少し不安が混じった笑顔で状況を説明してくれた。
建設不況の原因は主に、ウクライナ戦争以来のインフレとエネルギー価格の高騰により建設コストが上がったこと、欧州銀行が政策金利を引き上げたこと(2022年0%から2023年末現在4.25%)にある。一戸建ても集合住宅も事業中止や延期が相次いでいるようだ。2024年もこの傾向が続くことが予想されている。
建築業界に暗雲が立ち込める状況のなか、ドイツ木造建築連合の理事長ペーター・アイヒャー氏は「発注はたくさん。業界の雰囲気はいい」と今年10月の総会で発言している。木造を選択する建主の割合が増えている、ということである。ドイツでは、以前から組積造の建築が主流であるが、木造建築が年々増加していて、現在、戸建て住宅の新築で25%、集合住宅でも6%を超えている。
ドイツの木材の大半は、自国の持続可能な林業によって安定して供給されている素材。コンクリートや鉄に比べてグレーエネルギーが低いエコなマテリアル。接着剤や化学塗料の使用を抑えれば、健康にも良い。工期が早く、20年来のトレンドである増改築とも相性がいい。また、建設工程のデジタル化による合理化も、ここ数年のトレンドであるが、工場で前加工や組み立てがし易いマテリアルであるのでメリットがある。
木造建築業界は今年6月に、ドイツ連邦政府からもバックアップ声明をもらった。それは「木造建築イニシアチブ(Holzbau-Initiative)」で、強力な追い風だ。気候への負荷を抑え、資源節約になる木造建築を、国として体系的に支援しよう、というものだ。
「木造建築イニシアチブ」では、高層ビルや大型建築物での木材利用の推進、木造建築の質向上とイノベーションの促進、古材の再利用を開発・促進、都市部の隙間建設で木造建築を推進、施工の合理化という目標が掲げられている。
これらの目標達成のために、次の8つのアクション分野が設定されている。
1)連邦が率先して木造建築を行う
2)研究・イノベーション、モデル事業の強化
3)教育、専門情報の流通促進、専門家の確保
4)助成措置
5)資源循環・節約型の建設
6)持続可能な資源供給と価値創出チェーンの確保
7)炭素収支を基盤とした規則や決定ツールの更なる開発
8)建設と居住での気候保全に関するデータの収集とモニタリング
また、現在、針葉樹が主体となっているドイツの森林で、気候変動適応と生物多様性向上のために、広葉樹の割合を増やしていくことが目指されているため、建築分野での広葉樹の新たな活用方法の開発についても明記されている。
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