22年以降は「注文住宅不況」
2022年度は持家(新築注文住宅)が一人負けし、対前年比-11.8%と大きく落ち込んだ。戸数も25万戸を割り込み、24.8万戸で着地。筆者が「注文住宅不況」と呼ぶ状況に入った。
23年度(24年3月まで)もこの「注文住宅不況」は継続、持家は対前年度比-6%台、戸数では23万戸台前半で着地する可能性が高い。2005年度の持家着工は35.3万戸、2015年度も28.4万戸あった。05年度と比べると23年度は35%縮小、15年度と比べても19%市場が縮小する計算だ。
来年度24年度(24年4月から)についても、持家着工を大きく持ち上げる要因がなく、23年度比で横ばいもしく微増、戸数も23万戸台で着地するとみる。
このように23万戸台が続くとなると、注文住宅市場はもはや一過性の「不況」ではなく、この水準が「常態」になるというこで、「注文住宅不況」という呼び方・認識も改める必要がある。
インフレで変わるニーズ
言うまでもないが、注文住宅の着工減の主要因は、賃上げが進まないなかでの様々なインフレ(継続的価格上昇)にある。
木材から始まった資材インフレに、選別的ではあるが地価インフレが重なり、(土地+)注文住宅の取得コストが300万円前後、さらにはそれ以上上昇。すでに一般的な所得・資産の顧客の購買力限界を超えている。
2024年については、木材は市況商品のためウッドショック時の価格上昇は落ち着いたが、他の資材は継続的な値上げが続いている。地価も都市部中心や人気エリアなどでは今後も上昇を続け、住宅ローン金利も上昇の兆しを見せている。つまり、24年も土地+金利+建物の注文住宅の取得コストは上昇する可能性が高い。そうなれば注文住宅市場から分譲・中古などに、さらに顧客が流れていくことになる。
各所で言われているが、インフレを上回る賃上げが広がらない限り、注文住宅市場の縮小は続くということだ。
注文住宅=セミオーダーに
正確に言えば、顧客の予算が増えない限り「フルオーダーの注文住宅」市場の縮小は続く。一方で、セミオーダー住宅へのシフトは加速する。すでに年間50棟以上の工務店だと、地域にもよるがセミオーダー住宅が受注の中心になってきている。
ここで言うセミオーダー住宅とは、定額制+オプション制としたうえで、顧客がモデルプランの中からセレクトした住宅をカスタマイズして仕上げることで、時短効果と顧客要望と価格のバランスを図る仕組み。従来のフルオーダー注文住宅の価格帯2000~2500万円前後で提供しているケースが多い。カスタマイズできる余地を増やすほど価格設定を上げ、余地をまったくなくすと完全規格住宅となり価格を下げるのがセオリーだ。
セミオーダー住宅=標準プランをつくる=商品化を進めるということで、自社の特徴を打ち出しやすく差異化につながるという効果もある。そもそもを言えばハウスメーカーの商品は基本的にはセミオーダー住宅と言える。
「すべてフルオーダーしたいというこだわりをもつ顧客は限定的で、多くはカスタマイズできれば十分だと考えている」との仮説を筆者は持っている。その仮設が正しければ今後は注文住宅=セミオーダー住宅となっていく。そして、予算とこだわりを持つ顧客だけがフルオーダー注文住宅を選択し、設計施工力の高い工務店=アーキテクトビルダーがそれを担っていく。こんなイメージを持っている。
フルオーダー注文住宅
フルオーダー注文住宅については、ブランドと紹介があれば億超え受注も可能だが、工務店の場合、共感し合える顧客に3500~5000万円のレンジで、良質な住宅を丁寧に届けていくのが王道だろう。これ以上の富裕層的顧客は要求レベルが高く手離れも悪いため、経営的には難しい。
3500~5000万円のレンジだとハウスメーカーのミドルプレミアム商品と競合になるが、設計施工力・顧客対応力が高い工務店=スキル・コミュ力が高く魅力的なひとがいる工務店なら負けることはないはずだ。
特に重要なのは設計力で、強(基本性能)、用(使い勝手)、美(佇まい・空間)を高いレベルで実現すると同時に、シミュレーション・実測などで熱環境のオーダーメイドにも応え、空間とそこで過ごす時間との豊かさまで提供できれば理想だ。
フルオーダーの注文住宅でも自社が考える強・用・美を実現するための基本的な標準化は不可欠で、それが自社のスタイル・差異化の源泉となる。
企画型分譲の可能性
注文住宅不況の2023年は分譲事業に取り組む工務店が増えたが、24年も注目だ。工務店の場合、2棟以上であれば「企画型分譲」に仕立てることができる。「企画型分譲」は筆者の造語で、コンセプトとターゲットを明確に企画し、それを用地取得、区画割、建物配置、外構・庭設計、建物設計に落とし込み差異化する分譲住宅モデルだ。
断熱等級7+耐震等級3の建物だけの高性能分譲は典型で、他にも平屋だけの分譲、敷地境界を緩やかにし共有地を設けるコミュニティ分譲、耕作放棄地や生産緑地などで農に親しむ暮らしを提案する農村住宅分譲など、小規模分譲なら尖った企画が可能だ。
展示場型共同分譲モデル
2024年は工務店が分譲地に共同で販売型展示場を建てて共同集客、営業した後に売却する「展示場型共同分譲モデル」も再び活性化する。
地元の建材店が取引工務店を集め企画する、不動産事業者が企画する、住宅ネットワークが企画する、工務店同士で企画するなど、様々なパターンが出てきている。上記の企画型分譲と組み合わせ、コンセプトとルールを明確した共同分譲もいいだろう。
それ以外にもチャンスが
「住宅産業大予測2024」ではこれら以外にも工務店のチャンスを示したつもりだ。性能向上改修、中古住宅(ストック循環モデル)、空き家事業、高性能戸建賃貸、非住宅木造、そして不動産の力と建築の力を融合する「リアルエステイトビルダー」などなど。新築注文住宅市場を平板に眺めるとピンチしかないように見えるが、市場的にも数多のチャンスがある。
もうひとつのチャンスは「人」にあり、本書のテーマも「人が生きる経営」とした。ここはかなりの紙幅を割いて解説しているので、詳しくは本書を参考にしていただきたい。
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。