読者の皆様にとって、2023年はどのような一年だったしょうか。情勢が目まぐるしく変わる中、2023年も多くの注目トピックがありましたが、「工務店リノベ」も脚光を浴びたテーマの一つであったと実感します。そこで今号では「工務店リノベ市場の総括」を主題に一年を振り返りつつ、見解を記載したいと思います。合わせて2024年における「工務店リノベ」の方向性において、新たな視点を与える一つのきっかけになればと考えています。
2023年「工務店リノベ」を取り巻く市場の振り返り
▽新築市場の縮小が顕著となる中、新規事業への関心度が一気に高まり、リノベーション事業も「リノベ参入元年」「戸建リノベ時代の幕開け」と言われるほど、大きな選択肢の一つとして注目を集めた
▽省連携による補助金の後押しもあり、断熱がリノベーション市場を喚起している様相(断熱の検索ボリュームは近年の冬季水準と比べて倍増)
▽持ち家リノベ、中古リノベ、買取再販リノベ、それぞれに分かれ、さらに性能向上に対する意識も大きく二分される傾向(リノベーションの定義があいまいなまま、多数のプレイヤーが参入)【下表】
▽設計力、積算力、施工管理力、大工力といった「工務店リノベ」ならではのスキルを活かして、構造がからむ戸建リノベーションという領域で活路を見出そうとする動きが緩やかに増加
▽地方エリアで市場が未開拓のうちにいち早く参入し、自社の商圏で「ファーストワン→オンリーワン→ナンバーワン」というシナリオ通りのステップを踏む工務店も出てきている(専門特化した領域でシェア1番の会社に益々反響が集中)
▽ただし、断熱、耐震性能の向上は定量データの提示を含め着実に浸透し、エリアによっては同質化することも懸念される
成功している工務店と失敗している工務店の決定的な違い
~テーマは「参入」から「事業化」へ~
前述のとおり、リノベーション市場への参入が増えつつあるものの、早期に成長軌道に乗せる工務店が現れる一方で、なかなか軌道に乗せることができないという工務店も多いようです。つまり、2023年はリノベーション市場への「参入」がテーマで、2024年は「事業化」が大きなテーマになると見ています。
では、事業化できる、事業化できないの違いは何か。以下にその問いに対する私なりの考察を述べていきます。
事業化できるかどうかは、結論から言うと「強みを活かしながら全体像を描き、やり切ることができるかどうか」に尽きると考えています。地域の需給バランスが変化し、独自性が出しづらくなればなるほど、冷徹に全体設計しながら、独自性をともなったビジネスモデルに磨き上げなければなりません。
にもかかわらず、そうした視点が弱く、全体設計の到達形を描けていないまま参入する例が多いのではないでしょうか。
▽描いた全体設計、ビジネスモデルを実現するのは人であり、経営者、または経営幹部など陣頭指揮をとり、やり切れるかどうかが特にスタート時点での差となっている
▽新築市場が縮小するからという切実な参入背景があったとしても、「リノベーション事業に取り組みたい」「強みを活かせる」「(地域のためにも)やらねばならない」という3条件が揃う会社はエネルギーが最大化されて、事業推進の源泉となっている
▽軌道に乗る会社は、自社が考えるリノベーションの魅力、意義などを発信し、住まいづくりの新たな選択肢として提案性、需要創造というマインドがある(市場を創出するから非競合になりやすい)
▽たとえ後発であったとしても、特にリノベの市場が未成熟なエリアではビフォー共感、ビフォーアフターのような、新築にはないリノベならではの要素を常に留意し、わかりやすく発信することは勘所の一つである
▽一部の先進事例を除き、そもそも各顧客接点でリノベの専門性、実績や資格、コンテスト表彰など信頼性という点で共感される情報発信ができていないケースが多い(逆に一定のレベルでできている会社はイベント開催時以外の安定した反響を確保)
▽断熱、耐震は類似化ポイント(当然押さえるべき当たり前の要素)となり、差別化ポイントとして、自社ならではの提供価値があるかどうかという視点が大切(例えば自社大工なら施工現場の写真で雰囲気を伝えるだけでなく、お客様を主語にした利点を整理し、一つのコンテンツにするようなアウトプット等)
▽様々な発信ツールがある中、おのずとマーケティングとしてのエリアの概念が変化しており、地域の魅力を発信し、移住ニーズを取り込んでいる例も着実に増えている(コロナ禍ほどの勢いはないにしても、Uターンも含めた動きなので「自社の商圏に移住ニーズはない」と考えるのは早計)。
▽軌道に乗っている会社は案件増加がトップラインとなり、経験値を積むことにより、現況診断や設計契約等各ステップにおいて仕組みの精度が上がったり、リアルでできているからこそ、デジタルで解決できるようになったり、善循環になっている
▽法改正をはじめ外部環境が変化する中、さらなる情報収集や備えは必要だが希望的観測も込めて、結局は本質を押さえる工務店、対応力がある工務店はむしろビジネスチャンスにして、ストック&リノベーションの時代を勝ち残っていくと見ている
地域工務店のリノベーション事業として先導的な取り組みをされているある社長が「リノベーション事業を展開することは地域工務店の使命である」とおっしゃっていたのが強く印象に残っています。
上記の比較表に「複数の差別化要素」とありますが、多くの地域工務店の強みとして、施工品質への「こだわり」や完璧の追求にあると筆者は考えています。全体設計を描き、推進していく過程で自社特有の良さや強みを決して見失ってはいけないと思うのです。
ぜひ、次世代住宅産業の一つの姿として自社ならではの良さ、強みを活かしながら、理念、事業構造、収益構造が三位一体となったリノベーション事業を展開していただきたいと願っています。
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