振り返り~工務店にとっての2023年
昨年、経済環境や原材料価格変動、新たな規制など事業環境の変化から、2023年は「住宅需要の急激な反転上昇は考えにくく不況とまでは言えない停滞的な市況が続く」とする一方で、「市場獲得のための価格競争戦略は難しく」、「新市場の開拓と競合優位の源泉を性能から品質に転換するタイミング」になるであろうと指摘した。
各種機関の予測値や統計発表を見ても注文住宅市場の市場規模は、年25万戸割れの「微減」との指摘があり、新築戸建て価格も都市部を中心に上昇傾向が続いた年であったことも読み取れる。もっとも昨年の記述は一般論的な指摘であり「傾向」として外れてもいなかったとはいえ、細かな点を振り返れば進展の程度には差があった。
例えば、開拓すべき新市場として指摘した「既存住宅と性能改修を一体で考える需要」を捉えた事業は、目覚ましく顕著なものになったとはいえない。一方で、指摘以外の新市場開拓の兆しとして「非住宅市場への参入」や「公共部門に関わる」「まちづくり(地域開発)に関わる」といった新たな領域拡大に取り組む企業の例も確認できた。個人住宅市場縮小への対応の選択肢は一律ではない分、ものづくり機能を有する企業として持てる機能や能力を発揮する分野自体を開拓する動きは今後も出てきそうだ。
商品性能についてみると、省エネ新基準の明示やエネルギー表示制度の開始など社会制度の変化による啓発効果に加え、消費者の検討視点(あるいは事業者の誘導視点)が、「省エネ・創エネ関連の設備導入の追加費用は回収できるのか」という視点よりも、目前のエネルギー資源高による暮らしの負担増を回避する視点への重みが増したことが大きく影響した。結果的に消費者の追加費用受け入れ許容度が高まり、それに牽引される形で商品性能の向上への取り組みは進展したと考える。
他方で、顧客接点品質については、高止まりする住宅価格に対する理解と許容をいかに醸成するかという課題に対し、ICT導入によるDX推進やブランド構築など、企業によってアプローチの違いはあるが、今年度の業績成果は、顧客接点品質の進展への評価を示していると言っていいだろう。
2024年~制御可能なことに向き合う
リスクとアンノウンという言葉がある。リスクと聞くと「危険」という解釈が一般的だが、加えて「不確実性」という意味もある。不確実とは「どうやらある出来事が起こりそうだ」とは想像できても、その出来事が「どの程度の確度で起こるのかはわからない」ということである。逆に言えばリスクへの対処とは準備して回避あるいは影響を小さくする、制御可能ということだ。2024年、そして以降の経営の持続に向けて自社の成果や業績に影響を与える要素のうち「制御可能」な要素にはどのようなものがあるのか。
注文住宅市場の需要総量を単純化すれば、その規模は適齢の世帯数と購買意欲、購買能力などの要素の掛け合わせだが、これらはある特定の産業や企業の取り組みだけでは変えられない(変えにくい)要素だ。
例えば意欲や能力につながる金利の行方などはその典型だ。供給側面でも原材料・資材価格の抑制やそこからくる販売価格の需要への適応に向けた努力も、共同調達や絞り込みなどできることもある一方で、それだけで価格競争に勝てる状況を作り出すことは難しいだろう。
そのような状況下でも自社で制御できることがある。具体的には2024年問題への対処としての工務体制や時間価値の見直し、そのためのDX施策の実施などは取り組みの効果が分かり易い。
キーワード~施工能力問題と他市場・企業との連携
①施工能力問題
『建設業の2024年問題に関する動向調査(クラフトバンク社、2023年9月)』によれば、2024年4月からの時間外労働の上限規制厳格化に対し、工事会社の83%が未対応という結果が示されている。
調査対象は「社員数5~100名の法人かつ正社員に占める職人数が全体の半数以上または在籍職人10人以上在籍」の工事会社。高齢化や新たな担い手確保などに起因する人手不足が指摘されている建設業界にもかかわらず、元請け→工事会社の業界構造の中で連携する企業の課題解消に時間がかかってしまうことは経営に与えるインパクトも大きい。
いうまでもなく、働き方改革施策に端を発する工期影響は必然的に資金循環など経営課題に連鎖するわけで、「人の問題」への対応スピードの違いは先々の業績影響に大きな差を生む要素となりそうだ。
②他市場との「連携」の可能性
昨今、戸建て住宅建設と金融の連携というトピックを目にする機会が増えたというのが筆者の印象だ。例えばパワービルダーとファンドの連携で省エネや再エネなどの点で分譲仕様の商品を、これまではほぼ存在しない市場とされてきた都市部の戸建て賃貸市場の創造にチャレンジする金融企業の登場、あるいはもう少し小規模でクラウドファンディングによる資金調達を組み込み戸建て分譲事業を立ち上げ支援をするスキームの提案を持つ企業の登場といった「金融と建設」の連携がその例だ。
これらの動きを規格型だからできるとか大手だからできると考えて思考停止するのではなく、工務店が持つ「建てる能力」を生かす場面や機会を新たに開拓する動きの先例という視点で眺めると、本業である注文請負事業分野での価格競争や顧客獲得競争に挑みながら、経営上の補完的な事業に据えることはできるだろう。
工務店に注がれる中長期的な期待
工務店という「モノを生み出す」「アイデアを具体的な形にする」力、機能、役割は、地域の振興や再生には不可欠で、それらが失われることは地域社会にとって大きな損失だ。地域の経済活動や人々の営みは、その拠点となる「ハコ」があって支えられるものだ。ゆえに工務店経営は「そこにあり続けるため」の経営であるべきだ。
老舗企業と言われる企業がずっと残り続けることができるのは、提供する商品・サービスのあり様を時代の変化に対応しある意味で変え続けること、変えることと変えないことを見極めていることにある。
環境性能対応、働き方改革、インボイスなど社会システムは変わり続け、人々が暮らしに求める価値観も変化し続ける中、「変化に対応する柔軟性」をいかに発揮するかが改めて問われ始める年になるだろう。
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