2023年は工務店が依拠する新設木造軸組持家の需要低迷が顕著となった。これに連動して木造軸組プレカット工場の受注鈍化、さらに木材製品需要の減退を引き起こし、価格の下落を招いた。
建築業界は需要低迷に伴う慢性的な経営悪化に加え、2024年問題、いわゆる働き方改革への対応が待ったなしとなり、大工をはじめとする職人不足に対しても喫緊に何らかの手立てを講じなければ、事業継続が厳しくなる局面に来ている。
2025年問題といわれる建築及び省エネ法制度の大改正を目前に控え、従来通りのやり方ではふるい落とされる恐れが高まっている。現状は一過性の事象ではなく、構造的な新設住宅需要低迷にどう対処していくかが問われている。ウッドショック終焉後の新たな混乱の火種が見え隠れしていると言っても過言ではない。
2024年、ほんとうの「弱肉強食」時代の幕開けだ―。
深刻化する木造持家需要の落ち込み
2023年1~10月の木造軸組(在来工法)新設住宅着工は26万4901戸(前年同期比6%減)となった。このうち持家は12万5276戸で同10%減、貸家の増加(同10%増)で全体の減少率は小幅にとどまっているが、分譲も勢いが鈍っており10月累計は同6%減となっている。
複数の戸建分譲住宅大手(いわゆるパワービルダー)が販売件数の伸び悩みから新規の分譲用地取得にブレーキをかける形で需給調整に入っている。
分譲住宅最大手である飯田グループHDの粗利益率は分譲住宅販売鈍化が影響して2021年夏の20%強から、2023年上期は10%台前半に下降している。
問題は多くの工務店が主力としている木造軸組持家の新設住宅動向だ。2023年1~10月着工戸数は前年同期比では10%減だが、直近10年間の1~10月平均値対比では18%減、10月単月は過去10年間の10月平均値に対し30%弱の落ち込みとなった。
また、新設木造軸組住宅に占める持家戸数比率は2013年1~10月の60%に対し2023年1~10月は47%まで低下している。ちなみに2023年1~9月数値だが、新設木造軸組持家床面積は1414万㎡で2016~2022年平均値対比20%減と落ち込んでいる。問題のもう一つは、こうした木造軸組持家の低迷が今後も続くであろうという点だ。
住宅生産団体連合会の22年度主要都市圏戸建注文住宅の顧客実態調査(23年9月25日公表)によると、①全体の住宅取得費(土地代を含む)は6370万円(前年度比587万円増)で8年連続過去最高を更新し6000万円を突破。②建築費は4224万円(同408万円増)で15年連続で上昇し4000万円台に突入。③借入金は5473万円(同506万円増)で過去最高を更新し借入金の年収倍率は5.12倍(2016年度は4.3倍)。④住宅取得費に対する年収倍率は6.8倍(2016年度は6.1倍)。
こうした住宅価格の高騰は確実に住宅需要を“蹴散らす”ことになる。潜在的住宅取得者動向は、少子高齢化に伴う生産人口・住宅取得者人口の減少、空き家数の上昇による住宅ストックの需給緩和で後退するであろうことは自明だ。
住宅性能向上に伴う住宅築年数の長期化も建替え需要にとってはマイナス要因といえる。大都市部と地方部の格差も気になる点だ。今後の住宅ローン金利動向も注意しておく必要がある。
かつて1980年代後半からのバブル経済過熱を抑制させる目的で国は1990年3月、不動産総量規制、公定歩合の大幅引き上げ(2.5%から6%台へ)、地価税創設、固定資産税課税強化、土地取引届け出制をはじめとした規制強化を断行し、高騰していた不動産価値が急落した。バブル崩壊である。今時、経済全体を混乱に陥れるような極端な金利政策は考えにくいが、マイナス金利の時代が終わるであろうことは確かだ。
この状況にどこまで耐えられるか
建設業界、特に地場工務店の経営破綻が際立ってきた。人材確保に加え、工務店経営を直撃する建設資材高、電力コスト高が続いている。大阪万博の影響との指摘もあるが、ここへきて建築用電線ケーブルひっ迫が起きている。
木材業界も同様の局面にある。
「この状況にどこまで耐えられるか、今はそういう局面に入ったと考えている」(木建・プレカット大手経営者)「新型コロナ関連のゼロゼロ融資は、死に体だった企業を2年程度延命させただけのことで、カンフル剤効果が切れたあと、どうなるのか」(同)
案の定、コロナ下で導入された中小企業向けの実質無利子・無担保のゼロゼロ融資で政府系金融機関が実施した19兆円のうち約1兆円が回収不能または回収困難な不良債権になった。同融資事業は信用保証協会100%保証の下、緩い審査だけで貸し込んでいった金融機関の業績を改善させたにすぎない。
新型コロナ以前から少なくない工務店経営が需要不振に陥っていた。ゼロゼロ融資で延命したもののコロナ下で業績はさらに下降、ゼロゼロ融資以外を含めた借り入れだけが増大し、資金繰りが悪化している。
木材関係でも事実上債務超過状態であったが、ウッドショック時にすら赤字が続いたことで仕入先が離れてしまい倒産に追い込まれたケースがある。
大工がいなくて家が建つのか
建設業界の人手不足は深刻な問題だ。2024年4月から開始される「建設業の時間外労働の限度基準の見直し」、2023年10月から導入された「インボイス制度」、2023年10月工事から義務化された「アスベスト事前調査」など建設業界多くの課題に直面しており、いずれも大きなコスト高要因となる。
全建総連調査「大工の将来に関する国勢調査分析」結果は驚くべきものだった。
建設業従事者総数は320万人弱であった1980年をピークに、2020年は189万人と40%減になっており、60歳以上の比率が相対的に上昇しているのに対し、29歳以下の若年層従事者比率が著しく低下している。
このうち20年の大工数(型枠大工除く)は29万8000人で、ピークとなった1980年の93万7000人から68%減少している。大工数の年齢構成は30歳未満2万1000人(構成比7%)、30歳以上60歳未満14万9000人(同50%)、60歳以上12万8000人(43%)と高齢化も急速に進行している。
同分析は20年国勢調査に基づくことから、現状はさらに大工の減少と高齢化が進んでいるであろう。建設業景況調査(2023年度2回目)でも多くの経営者が経営の最重要課題は建設労働者確保と従業員の高齢化と回答している。
建築基準法、省エネ法大改正への迅速対応がカギ
2024年問題の次は2025年問題だ。建築法制度、省エネ法制度の大改正である。
2030年ZEH義務化まで視野に入れた場合、仕様規定計算や品確法計算より構造安全性レベルが高く信頼できる許容応力度計算(構造計算)を自らのツールとすることが望ましい。さらに絶対的な人手不足に対処するため、木造軸組住宅のフルパネル化検討も避けて通れない課題と考える。
工務店がZEH対応、許容応力度計算、フルパネル化を自らの武器として取り込むことこそが新しい時代の差別化である。さらに工務店自らが主体となって非住宅木造建築に取り組む時代が来ていることも意識してほしい。
木造軸組工法であろうが2×4工法であろうが、住宅取得者に対し適切に構造説明できる工務店、高品質で安心安全な木造住宅を提供できる工務店が生き残ると考える。もはや外観や意匠だけでは強みは発揮できなくなってきた。
ウッドショック終焉後の新たな混乱
2020~21年の木材製品価格高騰、いわゆるウッドショックは終焉した。外材産地動向や原油高、新型コロナ禍が直接的に影響したとはいえ、その本質は圧倒的な先高気配に感応し実需とかけ離れた大量の思惑買いに走った点にあり、外材からの代替需要を好感した国産材製品も高騰した。
しかし、これまで指摘してきたように新設木造軸組住宅を筆頭に建築材需要はウッドショック前から萎縮しており、内外産木材製品の集中大量供給であっという間に需給を緩和させ、多くの品目が高騰前水準近くまで反落した。
大都市港で空前の輸入製品在庫滞留が起き、荷主は多大な保管料等支払いに汲々した。輸入元は徹底した在庫調整に入り新規の輸入を極力絞り込んだ。
2023年1~10月主要外材輸入量は製材274万立方㍍(前年同期比37%減)、合板113万㎥(同33%減)、集成材53万㎥(同43%減)。製材のうち北米産70万㎥(同25%減)、ロシア産41万㎥(同43%減)、欧州産137万㎥(同41%減)にとどまっており、ウッドショック終焉後も輸入激減という形で混乱を続けている。
さすがに2023年前半の前年同期比半減といった極端な輸入抑制は緩和されつつあるが、実需はこの程度であったと実感させられる。2023年8月26日に中国木材鹿島第1、第2製材工場が全焼、米松構造材への需給不安が台頭し内外産構造用集成材等での代替需要が出たが、市況は小幅高にとどまった。中国木材では12月から受注制限を緩和させている。
国内の製材出荷量(外材含む)は1~10月累計666万㎥(同7%減)、国内の合板出荷量は同209万㎥(同16%減)、ともに出荷が鈍化し在庫量は増勢傾向にある。
2024年の内外産木材製品動向を考えるうえで大前提となるのは建築材需要だが、超大型の住宅需要喚起施策である「子育てエコホーム支援事業」などが実施されるとはいえ、効果は限定的だ。上記したように住宅取得のための基礎的要因が引き続き厳しいためだ。
建築材需要は伸び悩みウッドショックのような木材製品価格高騰は起きようがない。木材業界は減産、供給調整を最優先にせざるを得ない。ウッドショックに直面した工務店は、いつでも好きなだけ買えるという長年の慣習が全否定され、一定の在庫と信頼できる仕入先の確保が重要であることを思い知らされたが、かといって多くは今さら在庫をもつ余力などない。
JASを構造材標準仕様に
プレカット任せの面はあるが、工務店は販売する住宅でどのような構造材を標準仕様としていくかは考えていく必要がある。特にJAS構造材の標準仕様化は必須であろう。現状は木造軸組住宅構造材でJAS材使用を強制されているわけではないが、1974年のオープン化から2×4工法住宅構造材はJAS材が義務化されており、非住宅木造建築でもJAS(KD)材使用が補助金申請を含めて大前提になっている。
4号特例見直しに伴う構造計算対応を踏まえるとJAS構造材、それもKD機械等級区分構造用製材やJASが必須となっている構造用集成材、構造用LVL、CLTでの対応が望ましい。JAS構造材が格段、優れた性能や品質を担保しているわけではなく、JAS格付けしていなくてもJAS以上に高品質の木材製品はたくさんある。ただ、JASは唯一の国の木材品質規定であり、品質を巡る訴訟の際にも有利に動くはずだ。
繰り返しとなるが、建築法制度、省エネ法制度の大改正を控え、工務店はZEH、許容応力度計算(構造計算)、フルパネル化に代表される施工の省人化、JAS構造材の標準仕様化で差別化したい。同時に非住宅木造建築分野に事業を広げていく必要がある。こうした取り組みは確かにハードルが高いが、商機でもある。
「俺がファーストペンギンになる」―そんな気概こそ、工務店には必要であろう。
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