三井住友建設(東京都中央区)は2022年・23年と2期連続で計上した、国内建築工事における総額534億円の特別損失について、このほど報告を行った。大型複合ビルの建築工事で安全性の問題や工期の遅延が生じたことについて、外部有識者が原因分析を行ったもの。株主の要望に応える形で、具体的な現場名を伏せて公表した。主な要因として、工事や部材製作の難易度が高かったこと、設計の変更・調整が難しかったこと、適切な人員体制の拡充ができなかったことなどを挙げている。
調査委員会のうち技術面に関する調査は、日本大学理工学部海洋建築工学科の福井剛教授、芝浦工業大学建築学部建築学科の志手一哉教授が担当。部材工場の視察や関係者インタビューなどにより原因を究明した。
人員不足がもたらした深刻な事態
多額の特別損失をもたらした主な事案は、(1)大深度地下工事を伴う工事での大幅な工法変更、(2)「急速施工工法」に使用した工場製作部材の不具合―の2件。同工事案件は、建物の高さ、地下掘削の深さなど、過去に例がない規模の複合施設だったことから、難工事となる要素が多く含まれていた。
このうち(1)の工法変更については、入札後に地下鉄軌道の正確な位置が判明し、2度にわたる大幅な工法変更が必要になったことが響いた。工法変更により最終的に15カ月の工期遅延が生じている。
さらに具体的な要因として、①工法・工期に関する懸念事項が共有されず、詳細な検討が適時に行われなかったこと、②プロジェクト内の役割分担や責任、権限が書面化されず不明確だったこと、③適切な人員体制の拡充ができず、工法・工程・工期の全体を俯瞰(ふかん)した検証が不十分だったこと―などを挙げている。
(2)の製作部材の不具合では、部材の一部に鉄筋貫通孔の曲がりが発生。この際に不適切な補修を行ったことに加え、施工図の誤りによる柱鉄筋貫通孔の位置違いが判明し、複雑な部材の再製作や設置済みの部材の取替えが必要となった。最終図面ではない図面で部材が製作されたことも明らかになっている。
これらの部材は、急速施工工法を採用するために他社が設計したもので、入札段階で設計内容がほぼ確定していたという。そのために現場の現状に合わせて、多くの図面修正が必要となった。その際に、工場における部材製作管理、検査体制が不十分であったこと、工場での特殊な部材製作に関する指導、教育、情報共有が不十分だったことなども指摘されている。
受注プロセス構築で再発を防止
再発防止策では、受注プロセスにおける審査の充実化を挙げた。大規模工事やこれまでに経験のない難工事の受注にはリスクを伴うため、経営側にリスク情報や状況変化を定期的に報告するプロセスが必要だとしている。また、重大なリスク情報が共有された場合は、安易にプロセスを進めずに、人員を投入してリスクを徹底的に分析することが重要だとした。
深刻な不具合を引き起こした他社設計による急速施工工法については、今後は原則として受注を不可とし、受注する際にはリスクの洗い出しを徹底的に行うことを名言している。
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。