業界で注目される事例はほぼ成功した企業例です。未成熟な業界ほど成功事例には示唆があり、複数の成功事例から導き出される共通項は、さらに価値があると考えています。一方で成功事例の陰には失敗事例が存在するのも事実です。成功事例だけでなく、うまくいかなかった事例も取り扱うことで、また一歩、リノベーション事業の展開に向けて、考え方を深めることができるかもしれません。
前編の全体像、集客面に続き、今回は営業・組織面の問題を取り上げます。
3.営業・組織面の問題
①バックアップ体制が整っていない中で、リノベーション未経験者が営業を担当
「未経験者でも~」というセミナーのキャッチコピーを時々目にしますが、当然ながら、リノベーション未経験者が初回接客、診断、見積作成、プラン提案からクロージングに至るまで一人で担当することは相当ハードルが高いです。いくら工事単価1000万円以下のリフォーム領域で、実績を蓄積していたとしても、デザインリフォームの範囲内ならともかく、築古戸建てのリノベーションにおいて、顧客と信頼関係を築くこととはイコールではありません。
<解決の方向性>
業界未経験者でもコミュニケーション能力が高ければ、一定期間の同行営業やロープレ研修を経て、リノベーション事業の初期営業担当として活躍する例は実際にあります。ただし、ほぼ例外なく、構造がからんでくる場面やクロージングのタイミングで有資格者や経験豊富なベテラン社員などとチームを組めたり、設計サポートを得られたりといった背景があります。連携やスムーズな引継ぎは簡単なことではありませんが、役割分担を明確にすることが大切です。
②専属スタッフが不在で、現場レベルで強い新築志向があるケース
全社的にリノベーション事業に軸足をシフトするという方針のもと集客強化や営業の仕組みづくりなど取り組んだ工務店でも、専属スタッフが存在しなければ、リノベーションの売上が伸び悩む可能性があります。過去に、卓越した営業力を持つスタッフが巧みな営業トークでリノベ案件をことごとく建て替えに誘導していたというケースがありました。新築の業績が拡大したため社長は黙認していましたが、担当コンサルタントとしては複雑な思いです。業界には新築の部署とリノベーションの部署を分けずに堅調に事業展開している工務店も存在しますが少数派という印象です。
<解決の方向性>
リノベーションに本格参入するなら、リノベーション専門の事業部を開設し、専属スタッフに独立性を持たせることで上記のケースは回避できるはずです。また、専門事業部制のほうが専門特化したノウハウが結集されて、専門スキルが磨かれやすく、スタッフの育成メリットが期待できますし、蓄積した知識を事業部内で共有することでさらに技能を向上できます。
ただし、同時に、新たなリノベーションの部署が既存の新築事業部と互いに連携するよう、融合と交流を促すこと。当初リノベーションを志望していた相談客が地盤や構造的な問題など何らかの理由で建て替えになりそうなら新築の事業部へ、逆に建て替えで進んでいた案件がリノベーションになりそうならリノベーションの事業部へと相互に案件共有できるかたちが理想の姿です。
もし、自事業の利益だけ追求し、お互いに無関心、非協力的でこうした案件共有が希薄になっているなら、それは他社に案件が流れているということであり、大きな機会損失です。
③推進力不足
社員3~4人、またはそれ以下の少人数の工務店がリノベーション事業に参入するような場合、「新築事業もリノベーション事業も」という方向性ではやり切ることができず、軌道に乗せることができないというケースがあります。また、社員30~40人、あるいはそれ以上の会社でも現場スタッフまかせだったり、役員として数字の責任はあるものの、決定権がなかったりして前進するスピードが遅くなるケースもあります。
<解決の方向性>
推進力不足に関しては、少人数の会社なら、事業転換させて、会社の経営資源をすべてリノベーションに投入するくらいの決断とやり切るということが必要です。過去の記事でも取り上げた年商2億円だった新築工務店がリノベーション専門店に事業転換し、年商6億円を超えた夢工房(島根県出雲市)は好例です。
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リノベーション専門店になると決断し、専門特化したからこそ、会社の経営資源を100%リノベーション事業に注ぐことができ、着実に事業拡大しました。もし、新築事業もリノベーション事業もという戦略だったら、きっと、共にやり切ることができず、「新築事業1億+リノベーション事業1億程度」という結果に終わっていたのではないかと思います。
一定の規模感がある会社なら、立ち上げ時に経営トップも関わりながら取り組める場合はやはり早期に軌道に乗る可能性が高まります。過去に社員50人程の工務店に、リノベーション事業立ち上げのオープン販促で近隣へのドアコール(約1000軒)を提案したところ、会長、社長が社員と共に熱心にドアコールを実践されたことが強く印象に残っています。
参入プロジェクトのミーティングにも毎回社長が参加されて、あり方、やり方の理解を深めながら、やるべきことを決めて、スタッフに的確に指示されていました。単に「リノベーション事業に注力していく」と語るだけでなく、経営トップの行動で本気さが社内に醸成されたことは想像に難くありません。その後、リノベーション事業は経営者視点を持つ幹部社員に権限委譲されて、会社を支える事業に成長しています。
成功パターンだけでなく、失敗パターンにも目を向けるメリット
科学技術や機械工学の分野では「失敗学」という概念が浸透していると言われています。「失敗学」とは単に失敗パターンだけに目を向け、否定的にとらえるのではなく、失敗の特性を理解し、プラスに転化することであると定義づけられています。
今回取り上げた事例は感情面も含め、いくつかの問題点が複雑にからみ合っているケースもありますが、リノベーション事業における成功事例に加えて、ありがちな失敗パターンにも目を向けることで若干でも未然に防げることがあるかもしれませんし、今後の展開のヒントにつながるかもしれないと考えています。
なお、今回取り上げた失敗例には過去クライアントも含まれますが、特定の企業を批判したり、他責型でとらえたりするつもりは一切ありません。その点、最後に付け加えておきます。
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