省エネ上位等級の断熱等性能等級5・6・7が昨年新設され、1年が経とうとしている。工務店と工務店がつくる住まいはどう変わり、そして日本の住宅はどこに進んでいくのか――建築家の竹内昌義さん、新建新聞社の三浦祐成さん、YKK APの平野文孝さんが話し合った。
上位等級、業界の反応は?
平野:23年ぶりに断熱等級に上位等級となる5・6・7が新設され、2025年までにすべての建築物に等級4が義務付けられた。住宅業界の反応はどうか?
三浦:ローコスト~ミドルコスト帯のハウスメーカーでも等級7レベルの商品を発売したり、分譲住宅や賃貸住宅でも高い断熱等級の建物が増え始めていて、全体的に断熱性能は底上げされた。一方で、住宅資材の上昇でコストと性能のバランスが課題となっている。
目指すは等級6と7の間
平野:どこまで断熱性能を上げるべきか。竹内さんの考えは?
竹内:等級6はマスト。6と7の間の「6.5」くらいが冷暖房にかかるエネルギーを減らすうえでは理想では。
平野:資材が高騰しても6.5を?
竹内:1つの解として「家を小さくしましょう」と言っている。玄関ホールは必要か。子ども部屋に6帖も要るのか。いまはこれまでの家づくりの常識を変えていくべき時で、家を小さくしてでも断熱にお金を回して最低でも等級6、可能な限り6.5を守りたい。
等級6は意外と難しくない
平野:2025年に等級4が義務化されれば、等級5は最低ラインになる。
竹内:2030年までの早い段階で等級5が義務化される予定で、およそ10年後の断熱性能のベースラインは等級6だと思っていた方がいいだろう。ボリュームゾーンである6地域だと、等級5と同じ断熱材の量でアルミ樹脂複合窓のペアガラスを樹脂窓に替えるだけで等級6をおよそクリアできる。それほど難しくはないはず。シンプルに言えば窓を樹脂窓にするのが等級6に近づく一番の近道だ。
三浦:YKK APが樹脂窓「APW」を商品化して大量生産し普及に努めたことで、断熱性能を高めるハードルが下がったと言える。一方で、私は秋元康氏の「記憶に残る幕の内弁当はない」という言葉を座右の銘にしているが、断熱等級5・6が標準になるなか、断熱性能や気密性能がそこそこ高い、デザインも顧客対応もそこそこといった幕の内弁当的な会社が選ばれることは難しくなっていくと思う。プラスアルファの強みの構築が必要だ。
竹内:気密性能については法的な縛りはないが、断熱だけ上げて気密をやらないのは無意味。C値1.0以下を当たり前に出せる技術力とそれを証明する気密測定は必須で、気密の話がきちんとできることが断熱がわかっている証明にもなる。ただSNSで「C値0.1出ました!」みたいな発言を目にするが、現実的な性能としては0.5程度で十分だろう。
選ばれない工務店が出始めている
平野:気密に限らず、高性能住宅に関するSNSでの情報発信がすごく増え、プロとエンドユーザーの情報の非対称性が埋まりつつあると感じる。
三浦:逆の現象も起きていて、情報をたくさん持っている施主、特に私が名付けた積極的に学び発信する「プロ施主」層と、その情報量に追いついてないつくり手という構図が生まれ、こちらの非対称性も問題だ。押さえておくべき情報を知らず、そのせいで選ばれなくなっている現実がある。
竹内:同感で、その差は激しく開いている。先日ある断熱勉強会で、自社がいま取り組んでいる断熱等級別にグループを分けてお互いの悩みを話し合ってもらった。各グループ様々な悩みが聞かれたが、想いの強弱はあれど高断熱化の流れを無視できないというのは感じた。このような場をきっかけに全ての人が等級6以上を手掛けてほしい。
三浦:日本では規制緩和が是とされているので等級4の義務化でも大変だった。個人的には等級6の義務化もありだとは思っている。このままでは今の話のように工務店だけでなく設計事務所を含むつくり手の格差が広がるばかりだし、格差を放っておくと業界のためにも、何より消費者のためにならない。
はじめの一歩を踏み出そう
平野:上位等級に行きたいけど行けない工務店さんはまず何をすべきか?
竹内:国交省の資料も建築専門書も難しい。等級ごとに断熱材の種類と厚み、樹脂窓の組み合わせなど仕様を具体的に示してほしい。
平野:それならYKK APがお配りしている『断熱等級5・6・7それぞれのおすすめ』というカタログが好評で、皆さんにも活用していただきたい。断熱材はこれ、窓はこれ、と具体的に示し、6なら樹脂窓で、7まで行くなら付加断熱を、と明確化している。
三浦:明確にわかりやすく翻訳されたツールがあれば理解と実践が進む。こうしたツールを使いながら、必要なら専門家と一緒に自社の標準性能と標準仕様をつくり、それをWebなどで明示してその性能がほしい見込み客を集め、経験値を貯めていくのがいいのでは。そのなかでさらなる高性能化やデザインなど自社の強みとの融合も見えてくるはずだ。
竹内:乱暴な言い方にはなるが、高性能住宅をやっている仲間の真似をして、とにかく1回提案して実績をつくることが大事だ。断熱材を正しく入れることができれば、あとは窓を樹脂窓に替えるだけで等級5以上にはできる。
1円でも高く売れる家を
三浦:あとはやるか、やらないか。特に消費者=自分の顧客のために。
竹内:そもそも私がなぜ断熱性能が大事だと発信し続けているのかと言えば、結局のところ住宅の価値は「資産になるか」「リセールバリューがあるか」だと思っているから。断熱性能を含め高性能化が進むなか、いま低性能な住宅を建てても売却額は高性能な住宅よりも落ちるだろうし、売りにくくなるだろう。
そんな住宅のローンを何十年も払い続けて、最後に何が残るのか。高く売るためには、小さくても性能が必須で、「一生住むから性能なんて関係ない」ではなく、子どもに譲ることもできるし誰かに売ることもできるといった選択肢をいくつ持てるかで、金銭的な豊かさ、気持ちの豊かさは大きく変わってくる。
三浦:同感だ。日本では中古になると土地の価格しか評価されない時代が長く続いてきたが、今後は建物+土地の価値とランニングコスト+メンテコストを合算して評価され始める。私も20年以上前から「住宅は貯金箱になる」=資産価値を維持向上できる住宅とその維持管理・売却の仕組みが必要だと訴えてきた。これからは「1円でも高く売れる家/貸せる家がいい家だ」と言い切っていいのではないか。1円でも高く売れる家/貸せる家=みんなが住みたい家。そこには断熱を含めた性能も大きな要素となる。
平野:YKK APも樹脂窓「APW」を今後も普及し、日本の住宅の資産価値向上に貢献していきたいと思います。
※本案内で使用する商品名「APW」は、YKK AP(株)の出願・登録商標です。
(sponsored by YKK AP)
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