LIXIL(東京都品川区)がこのほど開催したオンラインセミナーで、大橋利紀建築設計室/livearth(リヴアース、岐阜県養老町)社長の大橋さんが、住宅設計における風と光の扱い方や、心地良さを見える化するという視点で、窓に注目した講演を行った。その内容を全8回の連載にして紹介してきたが、今回は、特別対談編として、同セミナーで合わせて行われた新建ハウジング発行人・三浦祐成との対談(後編)の模様をお届けする。
窓の大きさと位置、壁面の量が大事
三浦:「窓の設計作法」について少し詳しく聞きたいと思います。
三浦:窓の大きさ、窓の位置、残り壁面の量の3つで居心地が決まる、建築空間をつくることと窓周りの余白を表現することはほぼイコールだというお話がありましたが、具体的にどんなふうに窓を設計しているのでしょうか?
シミュレーションを繰り返しながら窓の大きさや位置、壁面の量を決めているのか、直感的なのか、もしくは既存の窓に合わせているのか。このあたりを教えてください。
大橋:段階があると思います。まずはシミュレーションをやるステップが必要で、それを何十件とこなすうちに、この方位からはこのくらいの日射が入るといったことがある程度感覚的に掴めるようになります。
最終的に窓の設計は感覚によるところが大きくなるのですが、そこに至るまでには、風景を見る窓、風を抜く窓、そこで過ごす場合の視点の高さなど、押さえたほうがいいポイントがいくつかあります。
この写真の「暁の家」の和室は、天井高さ1900mm、広さ約3畳とすごく低くて狭い空間です。窓は床からも天井からも30cmちょっとのところに配置しました。座ると視線のほぼ正面に窓がきて、下桟に肘をかけることができ、落ち着きを感じられる高さ・広さになっています。これが椅子に座るとなると、落ち着ける高さ・広さはまた変わってきます。
一般的な窓より低い位置に設定することで、床座で窓からの景色がよく見え、しかも窓が低いことで周りに壁という余白ができ、空間にメリハリが生まれます。窓と壁という対比をしっかりとデザインしてあげることで、美しい空間になりやすいのです。
三浦:納得しました。特に窓の高さは大事で、それに応じて壁をどれだけ壁を残すか、もしかするとテレビをどこにどう置くかも決まっていくんでしょうね。窓と設計について大橋さんの考えをお聞かせください。
大橋:いいものも、よくないものも、いろんなものが入ってくるのが窓。それを両立的に解決するのが設計だと考えています。そよ風も強風も、木々の香りも排気ガスも、豊かで暖かい冬の日射熱もうんざりするような夏の日射熱も、庭の風景も周囲からの視線も入ってきます。
何をどのぐらい「取得」し、どのぐらい「抑制」するかは設計次第であり、しかもどちらか一方を取ることはできず常に「両立的解決」を迫られます。絶対的な正解はありませんが、窓をどう扱うか、その考察と選択に設計者の個性があらわれるのだと思います。
三浦:設計全体が取捨選択の連続なのでしょうが、とりわけ窓は取捨選択の要素が多いパーツなのかもしれません。
何を取り入れて何を遮断するのか、豊かなものをいかに増幅しそうでないものを抑えるか、そこに窓上手になるための技量やコツが詰まっているし、設計者の個性につながるカギがある、と。
大橋流窓選びのポイント
三浦:ここからは、皆さんから寄せられた質問をセレクトして大橋さんに投げかけますので、お答えいただければと思います。
では、1つ目の質問から。窓って性能、デザイン、見附の幅などいろんな選択の要素がありますが、大橋さんが窓選びで重視するポイントは?ざっくりとした窓選択のセオリーのようなものがあれば教えてください。
大橋:美しい風景を美しく縁取りたいので、理想は木製サッシを選びたいところです。
ただ、お施主様の予算、好み・考えもありますで、すべて木製サッシとはいきません。性能と意匠の両立を目指す当社の場合、できれば極太の樹脂枠を入れたくないという思いがあるので樹脂サッシ1択というよりは、アルミ樹脂複合でスッキリとしたフレーム、性能をさらに上げたい場合は木製窓を選びます。既製品の窓だとLIXILの「TW」を選ぶことが多いです。
三浦:次の質問です。外からの窓の見え方で気をつけていることはありますか?
大橋:住宅の佇まい・印象を左右する窓は、建物の外観にとっても重要なパーツです。柔らかさを出すなら木製窓、スッキリさせるならアルミ窓、中間ならアルミ樹脂複合窓と木の庇や木の壁を組み合わせます。
高さのバランス、数のバランスも重要です。繰り返すようですが、窓は必ず意図的に配置し、何気なくつけることはないので、窓の数は自ずと減ります。数は減っても窓の面積が大きくなることはあります。
窓を減らすと外観のバランスはとりやすくはなりますが、それだけでなく、意匠性、内部空間、日射熱、光、風を考慮しつつ全体を決めていくので、外観から決めるとか内観から決めるとか風と光で決めるといった感覚はなく、全部の要素を一気に検討して決めます。
南を確認し、風景のいいところを探す
三浦:3つ目の質問です。現場を見て必ずチェックする項目はありますか?
大橋:「堤の家」の事例をもとにお答えしたいと思います。
写真からわかる通り、堤防沿いの住宅密集地にあります。敷地調査でまず何を見るかと言うと、「南」を確認します。できれば太陽に素直に設計したいので、太陽の動きと南側の日射取得と日射遮蔽を考えます。南向きだと庇を中心に日射をコントロールしやすいからです。
この「堤の家」の場合は、南側の半分に隣家が飛び出ており、しかも狭小地で南に平行に建物を配置すると建物の広さを確保できないため、敷地調査の時点で南に開くのは難しいと判断しました。
次に「風景のいいところ」を探します。この家は、南から西にかけての空の抜けを風景のいいところと見定め、建物をL型に配置。冬期・中間期ともに日影の影響を受けにくい北西寄りにLDKを設け、南に向かってデッキ、庭へと繋ぎました。
なお、お施主様が木の窓がお好きということだったので、メインの庭に対してLIXILのアルミ樹脂複合窓「サーモスX※」を設置し、タモ材で框を隠しています。
※現在サーモスXは販売終了しております。後継商品はTWをお求めください。
また、同時に「隣家の窓の位置」を確認します。周囲に古い建物がある場合は、建て替わった場合にどうなりそうか、最悪の事態を想定して窓を設定します。
ウッドデッキと庭のポイント
三浦:ウッドデッキのポイント、コツを教えてくださいという声も寄せられています。
大橋:窓と外の風景を繋ぐ要素としてウッドデッキがあるといいと考えています。できれば、庇をかけてあげるとそこがもう1つの居場所になります。
私が設計するウッドデッキは大きく分けて2通りあり、1つは庭とともに使うことを想定した場所、もう1つは使わなくてもいいけど視覚的に庭とつながる場所。ウッドデッキが仮になかった場合、突然庭が始まって違和感が出ないよう、緩やかに外と中を繋ぐこと、連続性が大事です。
三浦:ウッドデッキに関連して大橋さんが考える魅力的な庭のポイントは?
大橋:「庭のない家は設計しない」と決めていますので、ファーストプランからこの場所にこの植栽を配置する、と考えて設計しています。
我々の大学時代は、植栽は建物から離す、均等に植えるとモダンな印象になると教わったのですが一切守っておらず、リヴアースでは「不均等」かつ「建物になるべく近付けて配置」します。
人はモノがあるとそこに奥行きを感じるため、手前、中間、奥に植物を植えると空間が広がったと錯覚を起こします。不等辺三角形になるように植えるとどこから見ても奥行きを感じることができますし、手前にボリュームのある木を植え、奥に小さめの木を植えることで実際よりも広さを演出することができます。
より自然に見えるよう、当社ではシンボルツリーのような1本植え、株立ちはせず、寄せ植えをするよう心がけています。
窓とテレビの配置問題
三浦:次の質問は、テレビの設置場所について。一番いい風景を窓で切り取って見せたいものを見せつつ、一方ではまだ多くの家庭で視聴されているテレビあるいはディスプレイをどこに置くのか、なかなか悩ましい問題です。
大橋:そこもちゃんと対応しています。まずお施主様には「テレビはソファの正面で見たいですか?」と聞きます。感覚的には7割の方が「正面で見たい」と答えます。
写真の「前庭奥庭の家」の場合、短時間だがソファの正面でテレビが見たいとの希望がありました。このため、ソファの対面の壁(写真のこちら側)の中央にテレビ、ソファ横の窓の対面に掃き出し窓を設け、ソファに座ってテレビと景色の両方を眺めることができる配置にしました。
別の家では、テレビは正面、目線を少し動かした先にいい風景が見える窓があるパターンもあります。ソファとキッチンはいい風景が見える場所に計画するのもリヴアースの決まりです。
設計の力で日常を特別に
三浦:時間が来たのでそろそろ締めましょうか。今日、大橋さんのお話を伺ってすごくいいなと思ったのは、大橋さんの設計ポリシーでもある「日常が特別になる住まい」。
家が非日常の空間になると、例えば、わざわざ温泉旅館に出かけて行かなくても家で陰影や四季を味わうことができ、それが暮らしの豊かさとか情緒的な心地よさに直結していく。設計の力と窓で日常を特別とすることが可能なんだと改めて知った気がします。
大橋:非日常と言うと「リゾート」を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、私は、日本の住宅においては「風土に合う非日常」が普段の暮らしに馴染むんじゃないかと思っています。
その非日常の空間をつくるうえで、窓は半分以上を占めるくらい大きな存在です。光・風がどう流れ、風景・植栽がどう見えるか…四六時中、風景の美しさや光の心地よさを感じ続けるのは難しいでしょうが、ふとした瞬間に見える緑や季節の変化を味わえる場所をできるだけ多く散りばめて設計したいと思いますし、そんな場所が多いほどいい家になると考えています。
そして、住まい手にも窓が切り取る瞬間の美しさ、窓が運んでくる風や光、陰のグラデーションを感じる心を養ってほしいと願っています。
三浦:まったく同感ですね。今日はありがとうございました。
《終わり》
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