共同事業体「住宅DXコンソーシアム」は10月27日、建設業におけるデジタル活用を推進するためのオンラインイベントを開催。同コンソーシアム発起人のリブ・コンサルティング(東京都千代田区)の篠原健太さんと新建ハウジング・三浦祐成が、「デジタル変革」(DX)をテーマにディスカッションを行ったほか、地域密着工務店6社の代表者や担当者が、自社のデジタル活用ストーリーを紹介した。
はじめに篠原さんが「住宅DXコンソーシアム」を発足させた理由について説明。住宅業界では少子高齢化や原価高騰、人材不足などへの対策として、DX導入が急務となっているが、工務店ではデジタル疲れや情報過多、DX人材の不足などの問題に直面しており、積極的にDX化に取り組めない状況となっている。さらにデジタルツールを提供するテック企業も、住宅業界への理解の不足などから技術先行のプログラムサービスの開発だけが進み、利用者に寄り添うサポート体制が整っていない状況となっている。
こうした状況を打開し、建設産業全体でDX化を促進するため、篠原・三浦の両氏が発起人となり、2023年7月に「住宅DXコンソーシアム」を発足。建設業のDX支援に取り組む開発会社やコンサルティング会社、メディアなどが中立的な立場で「より良い業界の未来」を共創することを目標に掲げた。具体的には、業界DXの基軸化や人材の育成、データの活用などに取り組む。
“どんぶり勘定”からの脱却を
両氏によるディスカッションでは、①この1年で業界動向はどのように変わっていくのか、②住宅業界におけるDXトレンド、③業界全体として進めること―の3つのテーマで議論を交わした。
まずは業界動向について。建築費用のボリュームゾーンは、2021年までは2000~2500万円で推移していたが、原価の高騰により2022年には3000~3500万円が主流に。その要因として、資材の供給側だけでなく、工事を行う工務店側も「これを機会として利益を“取りに”行っている」ことが考えられる。こうした企業による価格転嫁に対して、顧客側の所得推移が追いついていないといった現状がある。
「これまで“どんぶり勘定”でやってきたことが、これだけ資材が高騰するとできなくなる。そこにDXを導入する意義がある」と三浦。「デフレが続いていたこの30年間の覇者はローコストビルダーだった。しかし、これから日本がインフレになるのであれば、デフレ脳からインフレ脳に切り替える必要がある」とした。
また工務店の現状について、篠原さんは「2019年から2021年にかけて年間200棟以上の会社が増えたのに対し、200棟未満の会社は減少している」と指摘。メガグループ化によって業界の競争環境はさらに厳しくなっており、利益率についても年間200棟以上クラスは高いが、50棟未満は低くなっていると説明した。
これに対して三浦は「大きな会社の利益率が高いのはオペレーティブに強いからだ。これからはクリエイティブにやりつつ、なるべく人を少なくし、個人の負担を少なくするDXを導入すべきだ。BIMが浸透すれば、おそらくセミオーダーとフルオーダーの差がなくなるだろう。そうなるとクリエイティブな企業の方が勝てる可能性がある」との考えを示した。
業界に精通したDX人材をシェア
住宅DXのトレンドについては、この3月にリブ社が作成した「住宅業界DXカオスマップ」を参考に議論。カテゴリーごとに強いプラットフォームはあるものの、それぞれのカテゴリーが専門化しているため、ワンストップで使えるプラットフォームがないといった現状があるとした。
工務店・ビルダーが活用すべき「住宅DX」としては、集客ではHP、SNS、バーチャル展示場、営業ではメルマガ、限定動画、遠隔接客、現場管理では現場情報アプリ、Webカメラ、アフターでは「顧客管理×定期点検」、修繕積立、リピート提案、経営では基幹システム、電子決済、総務テックなどを挙げた。
業界全体として進めることについて、篠原さんは▽業界DXに精通しているDX人材をシェアすること▽DXに関心のある企業を集めること▽テック企業にツールの開発や運用に必要な情報を提供すること―を挙げた。三浦は「人は3つぐらいの強みがあればあらゆる状況に対応できる。100人1人、あるいは10人に1人ぐらいの強みを3つ持てば、地域では十分勝てる。そのような人材がこのコンソーシアムで誕生することを願う」と話した。
“成果あり”のDXツールを紹介
続いて分科会では、地域で活躍する工務店6社が、自社で活用し成果を上げたDXツールを紹介。ツールを導入した理由や導入後の成果、DXツールに求められるものなどについて語った。
■営業育成ツール「リフレクトル」
藤本工務店では、営業育成用の動画ツール「リフレクトル」を1年ほど前に導入。同ツールは、新人社員などを対象とした営業ロープレ(ロールプレイング)を、あらかじめ撮影した模範動画を使って行うもの。先輩社員が手本となる動画を撮影して保存することで、自社における営業ノウハウをマニュアル化する。受講者は先輩社員の模範動画をそのまま真似ることでノウハウを学習。学習成果(真似をして実際にやってみた内容)を動画として保存し、その動画を見た指導者から指導を受ける。このようなフィードバックを繰り返すことで、実際に現場に出る前に基本的な営業ノウハウを身に付ける。
このツールを使った成果として、営業ロープレ時に先輩社員がその都度手本を見せる必要がなくなり、指導に要する時間の短縮が図れたことをあげた。また新卒の学生の場合、内定した段階でこのツールを使うことで、在学中から社員研修を始めることができ、入社後の早い段階で「家を売る」成果を上げることも可能となる。同社営業幹部の藤本遼太さんによると、「最近の若い子たちはタブレット慣れしているため、こちらから詳しく説明しなくても、抵抗なく自分の動画を撮影してくれる」のだという。
■MAP型営業支援ツール「土地BANK」
住宅・土地の販売や仲介を行うすまい倶楽部(福島県いわき市)では、MAP型営業支援DXサービス「土地BANK」を駆使して、中古住宅の不動産販売仲介を行い、大きく売上を伸ばしている。中古住宅を扱うようになったきっかけは、知人に「今住んでいる家を売ってほしい」と頼まれたことだった。妻が経営する不動産仲介会社「キーセント」との連携で住宅を販売したところ、仲介手数料だけでなく、修理やリフォームなどによる収益も得られるようになったという。
そこで「土地BANK」で営業地域内にある土地や築浅の中古住宅を探して仕入れ、リフォームなどを施した上で販売する事業を開始。販売時には無料不動産査定サイト「イエウール」なども活用している。「土地BANK」を使って、地域でどのような不動産が売られているのか、毎日定期的に確認。顧客の要望に応じて物件を提案するだけでなく、「該当する物件がない」と即答できる体制を整えている。田子浩彰社長は、工務店が中古物件を査定する強みとして、「多様なローンが紹介できる」「リフォームを見積もる際の判断が的確で安く済む」などを挙げた。
■口コミ集客サービス「アンバサダークラウド」
千葉県香取市で注文住宅とリフォーム事業を展開する菅谷工務店では、顧客のファン化・紹介促進クラウドサービス「アンバサダークラウド」を導入し、営業担当を置かずに、顧客のSNS投稿や自社ホームページにより集客を行っている。
「アンバサダークラウド」は、自社で住宅を建てたオーナーとのつながりを作るクラウドツール。ポイント制度などにより顧客が自ら進んで、自分が建てた家や工務店を“紹介したくなる”環境づくりを行うもの。菅谷伊佐央社長によると、オーナーが家を紹介するインスタ投稿を読む人のほとんどが地元の友人で、本人は口コミをしている意識がなくても、結果として地域での集客につながるという。開封確認が行えるメールマガジンの発行も可能で、アフターメンテナンスサービスを勧める手段にもなっている。
他に、ひかり工務店(大阪府豊中市)の清水洋人代表が「原価管理・電子受発注の最新事例」、ユートピア建設(愛知県岡崎市)の山口玲以子社長が「現場管理DXの成功事例」、薄井工務店(栃木県宇都宮市)執行役員の薄井寿也さんが「複雑なローン業務をDX化し、契約棟数向上」と題し、自社のDXツール活用方法について説明した。
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